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「保育園落ちた日本死ね」現象と政治家の甘い認識

一人あたり子育て費用3億円の少子化促進国

勝部元気 コラムニスト・社会起業家

 子供が保育園に落ちた女性の怒りが込められた「保育園落ちた日本死ね!!!」という匿名ブログが話題になっています。

 「1億総活躍社会」や「女性活躍社会」が叫ばれていながらも、待機児童問題がなかなか改善していない現状に業を煮やした母親が投稿したようで、同じような境遇にある人を中心に多くの共感を呼び、瞬く間にインターネット上で広がって、様々なTV番組などでも取り上げられました。

保育園落ちたの私だ」の声に賛同する署名を塩崎恭久厚労相(右端)に手渡す子育て中の母親ら。左端は民主党の山尾志桜里衆院議員=9日午後、国会内20160309「保育園落ちたの私だ」の声に賛同する署名を塩崎恭久厚労相(右)に渡す女性たち。左は民主党の山尾志桜里衆院議員=2016年3月9日、国会内
 国会でも民主党の山尾しおり(志桜里)衆議院議員が予算委員会でこの問題を取り上げました。

 それに対して安倍首相が「本当であるかどうかを確かめようがない」という的の外れた回答をしてしまい、与党議員からも「誰が書いたんだよ」「本人を出せ」「中身のある議論をしろ」などの野次が出たことで、完全に火に油を注いだ状態になり、この問題に対する怒りの声がさらに噴き出すことになりました。

保活は入試や就活以上の死活問題

 待機児童問題というと、単純に子供が保育園に入れなくて困っているというイメージを持つ人もいるかもしれませんが、現実はそのような生易しいレベルの話ではありません。

 産休明けで子供を保育園に入れなければ仕事を辞めなければならないという人もたくさんいます。積み上げてきたキャリアを失うということは、それだけで生涯所得が億単位で消滅するばかりでなく、金銭的な面以外の様々な面で多額の損失が発生します。

 夢、社会との接点、人付き合いなど様々なことを捨てなければなりません。にもかかわらず、何の落ち度も無いのに不利益を被(こうむ)っている人が本当にたくさんいるわけです。

 それだけではありません。東京で働く地方出身の人が、保育園に入れないことを見越して、不本意ながら地元に帰るというケースもあります。

 都心の保育園に落選したことで倍率の低い郊外の保育園に預けざるを得なくなり、夫との別居を強いられているケースや、遠く離れた実家のある地方では給料の良い仕事が無いために、自分は都心に残ったまま実家に子供を預けて、週末に新幹線で通っているというケースもあります。

 この問題を国会で取り上げるよう山尾議員に進言したのは、山尾議員のもとで学生インターンをやっていた大学1年生の女性だったのですが、その方も「本当は東京で就職したいけれど、保育園のことを考えて田舎に帰ることも検討している」と言っていました。

 子供がいることで、住む場所を選ぶ自由が制限される人や、パートナーや子供との別居を強いられる人、東京での自分の夢を諦めないといけない人がいます。

 それほど保育園に入れるかどうかというのは、親と子の人生を大きく左右する死活問題なのです。

 「保活」の厳しさは、大学入試や就職活動以上だと思います。

 受験や就職は浪人ができますし、希望の職種や会社に就けなかったとしても、就職氷河期でない限り、受け皿となる求人は他にあります。

 ですが、「保活」は受け皿の数も限られており、保育園が決まるまで勤務先が待ってくれるわけでもなく、その争いは確実に「死戦」です。

 さらに、勉強や就職という、ある程度の自分の努力が結果に反映されるものとは異なり、保活は自分ではどうにもできない部分も多々あるので、落ちた時のやるせなさがあまりに大きいわけです。

子育て環境を悪化させ続ける社会

 このように親や子供たちの人生を大きく左右している現状の保育園行政を見ていると、「子供をつくらないように導いているシステム」になっているとしか思えません。

 つまり、日本の「少子化社会」は、単に「子供が少なくなる社会」という意味よりも、

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