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月9ドラマのジレンマ、美男美女のドラマの先に

現在の月9は、伝統の何を受け継ぎ、何を捨てているのか

中町綾子 日本大学芸術学部放送学科教授(テレビドラマ研究)

 今期の「月9」(フジテレビ月曜9時枠)ドラマ、「突然ですが、明日結婚します」が独自の恋愛ドラマ路線を貫いている。そして、同枠で放送されたドラマの最低視聴率を更新したと話題になっている。

突然ですが、明日結婚します「突然ですが、明日結婚します」(フジテレビ系)
 月9ドラマの輝きを知っている者にとって、視聴率の下降傾向はどこか淋しい。しかし、これは今に始まったことではない。ターゲットの若者のライフスタイルやメディア接触の状況は、学生たちとのやりとりから察するところだが、ドラマをあまり見ない傾向は久しく続いている。彼らの多くにとって、月9枠のヒット神話は、親の世代から聞いてかろうじてある。そんな中で、月9は伝統にどこかしばられながら、「旧来のドラマとは違う」表現の模索を強いられているのが現状ではないか。

 今に続く「月9」枠でのドラマスタートは1987年のことだ。実は、今年は31年目だ。テレビ60余年の歴史に照らすと長寿枠である。その歴史の中で、一口に「月9」と言っても思い浮かべるドラマは人それぞれだろう。まずは、その歴史を振り返り、月9ドラマがどのようにそのイメージを築いたのか、そして、実際はどうだったのか。はたまた、現在、伝統の何を受け継ぎ、何を捨てているのかについて見てみたい。

月9=恋愛ドラマの30年~月9のイメージとその実際

 記憶に残る月9ドラマをたどれば、月9=恋愛ドラマの系譜が浮かび上がる。

 それを決定づけたのは、1991年の「東京ラブストーリー」(脚本=坂元裕二)と「101回目のプロポーズ」(脚本=野島伸司)、そして、1996年の「ロングバケーション」(脚本=北川悦吏子)、1997年の「ラブジェネレーション」(脚本=浅野妙子ほか)のヒットだっただろう。このあたりまでがいわゆる巷でトレンディ―ドラマと呼ばれるものだ。トレンディ―ドラマは、登場人物の気持ちと視聴者の気持ちを、ロケ地、音楽、ファッション、大胆な映像演出で大いに盛り上げた。

 その後、2000年代に入ってドラマ全体の不振がささやかれはじめる。月9も例外ではない。筆者も当時、「(月9では、2001年)『HERO』(脚本=福田靖ほか)を最後に(視聴率)30%を超えるドラマが生まれていない」(「GALAC」2003年12月号)と書いている。

 とは言え、月9の「やまとなでしこ」(2000年、脚本=中園ミホ)は恋愛ドラマの大ヒット作となり、再放送を繰り返して幅広い世代の女子に愛されるドラマになった。2002年の「ランチの女王」(脚本=大森美香)、2005年の「スローダンス」(脚本=衛藤凛)も比較的広い世代の支持を得ている印象だ。さらには、2006年の「のだめカンタービレ」(脚本=衛藤凛)、2007年の「ガリレオ」(脚本=福田靖ほか)、「プロポーズ大作戦」(脚本=金子茂樹)が挙げられる。2010年代では、2012年の「リッチマン、プアウーマン」(脚本=安達奈緒子)、2015年の「デート〜恋とはどんなものかしら〜」(脚本=古沢良太)が大ヒットとは言えないかもしれないが話題になった。

月9~恋愛ドラマが放った強烈なメッセージ

 ドラマ不振がささやかれる以前の月9をいまいちど振り返ってみたい。

 「東ラブ」と「101回目」をトレンディードラマとして紹介したが、実は、この2作は、脱トレンディ―として制作されていた。たとえば、「東京ラブストーリー」は、恋愛ゲームとは異なって、帰国子女・リカ(鈴木保奈美)が完治(織田裕二)に寄せる一途な思いを描いている。坂元裕二の描き、鈴木が演じるシーンは、人を好きになるってこんなにも人を輝かせるんだよ、時にはこんなに苦しいんだよ、というメッセージを切なく伝えていた。

 北川悦吏子・脚本の「ロングバケーション」は、

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