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「組長」のコーヒー牛乳

辺野古・高江の基地反対運動で拘束されている高橋さんのこと

中沢けい 小説家、法政大学文学部日本文学科教授

キャンプ・シュワブ前で辺野古沖の工事に講義する反対派の人たち=沖縄県名護市
 3月17日、那覇地裁で辺野古・高江の基地反対運動で公務執行妨害などの罪で起訴された山城博治さんら3人の初公判があった。山城さんたち3人は逮捕以来約5カ月にわたって身柄を拘束されている。初公判に先立って、まず一人が保釈となった。山城さんも公判後に保釈されるのではないかと見られていたが、保釈は認められたものの、検察側が不服申し立てをしたので、裁判所が不服申し立てを却下したとしても、実際の保釈は連休明けの21日になると報じられた。が、18日の夜になって山城さんは保釈された。

反ヘイトスピーチの「男組組長」

 で、もう一人、身柄を拘束されている高橋直輝さんはいったいどうなったんだとツイッターに流れる情報を拾っていた。高橋直輝さんは報道では戸籍名の添田充啓が用いられているが、私はご本人の名乗りを尊重することにしたので、以下、高橋直輝さんの名を用いる。高橋直輝さん。そう呼ぶよりもヘイトスピーチに抗議したプロテスターの「男組組長」もしくはひらがなで「くみちょ」と呼んだほうがなんとなくしっくりと来る。

 東京の新大久保でヘイトスピーチデモが数百人の規模で毎週週末に繰り返されていたのは2012年秋から2013年夏にかけてのことだ。2013年の年明け早々に韓流ファンの女子高校生たちが、ヘイトスピーチデモに抗議の声を上げた。2月になるとヘイトスピーチデモに対抗して路上で抗議しようという人々が現れた。私が新大久保へ出かけたのは3月半ばだった。ヘイトデモに抗議する人々はたいてい私と同じようにツイッターで抗議活動が行われていることを知って出かけてきた人々だった。動員をかける組織というようなものはなかった。

 「男組」を名乗るグループが現れたのは4月初旬。ツイッターのタイムラインに「男闘呼組の名称を使うな」というツイートが大量に流れたので、なにごとかと驚いた。アンチヘイトのグループ名を「男闘呼組」にしようと相談しているところをジャニーズファンに見つけられ絶大な抗議を受け、ほんの数時間で「男闘呼組」は単純な「男組」になった。今、思い出しても笑えるような光景だった。

 「男組」はSNS を介してゆるやかに結びつくグループで、ヘイトスピーチに抗議する人々の中にはほかにも幾つものグループがあった。その中で「男組」が目立ったのは、組長を名乗る人物に両肩に鮮やかな入れ墨が入っていたからだ。組長を名乗っていたのは高橋さんで、ほかにも伝統的な柄の入れ墨をしたメンバーが数人いた。市民運動、社会運動では見かけることがない人々だった。いや、市民運動側からは排斥されても不思議のないグループに見えた。「男組」を名乗っているが、女性もメンバーとして加わっている人もいた。

 いつだったか高橋さんと話していたら、「これ武家彫りと言うんですよ」 と教えてくれた。「遠山の金さんが入れているような感じのやつですね」と言って、なぜそんな立派な彫り物をする気になったのかと尋ねたら「足にちょこんとした入れ墨を入れたら(その当時所属していたヤクザの組の)親分にそんなつまらない彫り物をするもんじゃないって言われたので」本格的武家彫りの入れ墨を入れたのだそうだ。元ヤクザ。ヤクザの組は脱会した。「ヤクザの組から抜けるのは難しいのでしょ?」と聞くと「いや、金を積めばいいだけだから」と言う話だった。ヤクザから足を洗う気になったのは「なんでも金、金、金で金を出せばっかりだから」という理由を話してくれた。

 2016年5月のヘイト対策法が成立、7月に参議院選挙、都知事選があり、

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