メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

続・JR北海道の鉄路を守り、交通権を保障せよ

地域復活・活性化、災害対策としての可能性

杉田聡 帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)

ノースレインボーエクスプレス=日本旅行提供道内の観光臨時列車に使われるノースレインボーエクスプレス=提供・日本旅行

街づくりの核となる駅舎

 鉄道は、交通権の保障のみならず、地域を復活・活性化させるためにも重要である。駅舎は、周囲に街をつくるための中核となるという機能をもつからである。だが駅がバスターミナルになってしまえば、そうした機能は衰退する。バスターミナルは、よほど確たる建物があって他の施設から截然と区別されないかぎり、各所の駐車場等に紛れて、街づくりの核となる特別な場とは見られない傾向があるからである。したがって鉄路がはがされれば、駅舎付近でこそ得られた比較的高い地価は下落する。それに合わせて、得られる固定資産税も減る。

 政府は高齢社会対策として「コンパクトシティ」を構想しているが、その最も有力な場所は駅周辺である。そこには歴史的に、確かに多様な都市機能が発展してきたからである。駅周辺でさえ地方都市では衰退が激しいが、それでもまだその機能を維持している地域は多いように私には思われる。

 なるほど過度のモータリゼーションにともなって都市の無秩序な拡大(スプロール化)が進み、郊外に住宅街ができている場所も多い。だがそこは、郊外型大型店・量販店の影響を受けて、商店を含む都市機能が失われていることが多い。そうした場所に「コンパクトシティ」は作れない。逆に駅舎を中心とすれば、スプロール化に対する一定の歯止めとなり、したがってスプロール化によって増える財政支出の抑制が可能になる(宇都宮浄人『地域再生の戦略――「交通まちづくり」というアプローチ』ちくま新書、2015年、34-5頁参照)。

観光資源としての鉄道

 今回、路線見直しの対象とされた各線の存続要請は、生活交通の確保という観点からなされている。だが鉄道整備は、多かれ少なかれ観光にも資する。北海道は観光地として人気がある。特に中国・台湾・韓国等から増え続ける観光客を思えば、これらの路線を(おのずと地域差はあるが)観光の観点から維持することも可能ではないか。

 JR北はこの20年、観光用車両の開発に力を入れたが(佐藤信之『JR北海道の危機――日本からローカル線が消える日』イースト新書、2017年、214頁以下)、近年、車両火災や脱線事故等から、安全性に問題を残した体質が露呈したこともあって、これらの努力を無に帰した感がある。また今、新幹線関係に人員を割く愚を犯して(札幌までの延伸は13年後である)、同じ轍を踏んでいる。むろん安全性が第一である。だが、これまで蓄積した努力を水泡に帰すのは惜しい。特に観光客が増加している今、観光を意識した運行計画を立てる価値もあるのではないか。

 別にJR北そのものが観光用列車を走らせなくてもよい。北海道には観光資源は少なくないため、国内外の業者に路線を貸し出して観光用列車の運行を促すこともできる(朝日新聞2018年2月24日付)。

 そもそも観光用に鉄道は貴重である。道内ツアーにはバスが使われているが、広い北海道をバスで周遊するのは観光客にはつらい。実際その種の声を私は何度も聞いた。周遊バスは、座席もだが、長く乗ると車内の狭さが意識される。むしろ車内を自由に歩ける列車の方がはるかに快適であり、その意味で道内の観光に適している。

 なるほどバスは、比較的自由にルートを決定できる点で評価されうる。だが逆にそれは地理に不案内の人――観光客はその典型である――には、使い勝手が悪いことを意味する。鉄路は定まっているから旅程を決めやすいが、バスではなかなかそうはいかない。しかも鉄道では駅舎が確固としているが、バスではそうではないことが多い。大都市ならターミナルビルもあろうが、中小都市ではそうはいかない。大都市では逆に場所は明確でも、市内交通の混雑を回避するためか、ターミナルが中心部から離れていることもある(例えば札幌の「中央バス」ターミナルなど)。

災害の被害を極小化するための鉄道

・・・ログインして読む
(残り:約1552文字/本文:約3194文字)