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『まんぷく』は泣き笑いできるドラマだったのに…

青木るえか エッセイスト

まんぷくに出演する(左から)松下奈緒、安藤サクラ、松坂慶子、内田有紀=2「まんぷく」に出演した(左から)松下奈緒さん、安藤サクラさん、松坂慶子さん、内田有紀さん

 『まんぷく』がついに終わってしまいました。

 最近の朝ドラの中では熱心に見たせいで、いろいろと思うところの多い番組だった。語りたいことがいっぱいある!

 まず、「これ、途中からずいぶん話が変わっちゃったな」。

 この番組の最初の頃って、よくできた人間ドラマだと思ってたんです。日常をコミカルに描くことによって、登場人物の喜びや哀しみを浮き彫りにさせていくような。わりとよくある手法だけど、そういうドラマって最近あんまりなかった気がする。それも連続ドラマで。

 安藤サクラの芝居に慣れてなかったので、「まーんぺーいさーん!」と叫ぶたびにいちいちびっくりして引きそうになったが、あの演技は「汁粉の甘さを際立たせるための塩ひとつまみ」のようなもの(=思わず感涙するようなイイお話を描こうとする時の照れ隠しの演出の一種)だと理解してからは気にならなくなった。

「まんぷく」の公式サイト(NHK)で、視聴者への挨拶で涙ぐむ安藤サクラ「まんぷく」の公式サイト(NHK)で、視聴者に涙ぐみながら挨拶する安藤サクラさん

咲姉ちゃんが死ぬときにもらい泣き

 始まって2週間ぐらいか、咲姉ちゃんと真一さんの結婚式があったのは。あの結婚式の福子の活躍にはじーんときてしまったし、福子の横顔をぼんやりと見つめる萬平さんの澄んだ目は、「この人はすばらしいひとだ……」と、恋したこと(に気づいていない感情)を語らずに描いていて素晴らしかった。私は「みんなが感動するいい話」というのには拒否反応があって「まーたイイお話かよ。ケッ」となり、羽生結弦も浅田真央も応援したことがないしサッカーのワールドカップや五輪では日本の対戦相手をいつも応援するような人間ですが、この『まんぷく』における最初のほうのストーリーにはすっかり感動しちゃっていた。

 ネットで見ると、この結婚の場面はすごく評判が高くてみんな感動していて、いつもなら横を向くところなのに私も一緒に感動するという異常事態。それぐらいよくできてるんだと思ってたんです。咲姉ちゃんが死ぬところの、真一さんが咲姉ちゃんの手を握って、目に涙をいっぱいためているところももらい泣き。どうしたんだ私。

 福子と萬平、そして福子の家族はもちろん、静かな真一さんも、売れない画家の忠彦さんも、ホテルの同僚の野呂さんも、悪いヤツの加地谷圭介も、白馬に乗った牧善之介も、みんなおかしくてマジメで哀しい。

途中から「即席ラーメン開発あれこれ」に

 私はずっと、『まんぷく』に出てくる食べ物が、食べることが大好きな福子、という設定なのにもかかわらずどちらかといえば味気ない、質素なものばかりだったことにひっかかりがあって、連載「テレビめし」でそのことを追求してきた。自分も食べ物好きだから、なんであんなに味気ないんだ?って気になって。そこで出た結論は「このドラマは、食べ物を描写する気はない。食べ物を食べた喜び悲しみの感情を描写したいのだ」だった。

 「美味しいもの」「たべもの」「即席ラーメン」はただの手段で、登場人物たちの喜びや悲しみ(そしてそこに至るまでの流れ)の描写をするためのドラマ。その描写が丁寧で、しかもちょっとひねってあって、しゃれていた。だからなおさら泣き笑いできた、そういうドラマだったのだ。幸せは哀しみの積み重ねの上にある。彼らの明るい笑顔には、深い哀しみが隠されているというような……。

 が。途中から様相が変わる。いつ頃だったろう……萬平印のダネイホンが出来たあと、二度目に逮捕されてからのゴタゴタがあり、若き東弁護士が登場し退場したあと……池田信用組合から即席ラーメン開発にかかろうかというあたり。

日清食品創業者の安藤百福の像の手にはカップヌードルが握られていた=横浜市中区カップヌードルミュージアムにある日清食品創業者・安藤百福の像=横浜市中区

 なんかこのへんで、登場人物の感情の動きよりも、

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