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「選挙に行かないから若者は損をする」は嘘だった

若者の「リベラルな政府」への失望はあまりに大きい

勝部元気 コラムニスト・社会起業家

参院選を前に、模擬投票をする生徒たち=2019年6月18日、京都府宇治市の立命館宇治高校参院選を前に、模擬投票をする高校生たち。彼らが投票したい候補者の政策は?=2019年6月、京都府の立命館宇治高校

 リベラルに位置付けられているはずの野党の政策が、世代間という視点では逆に格差を拡大させる――。

 前回の記事「若者にとって「格差拡大策」に映る野党の政策」では、野党が示す個別の公約が、「財政的幼児虐待」を拡大させる要素が強い等、いかに中間層の若者にとって不利に働くかを解説しました。

 では、逆に世代間格差を解消するにはどのような方法があるのでしょうか?

自民や維新の政策のほうがフェアに映る理由

 世代間格差を解消する方法には大きく分けて以下の2つがあると思います。

(1)小さな政府にして、競争原理をふんだんに取り入れることで、既得権益を生み出す仕組みそのものをなくしてしまう方法

(2)今の中程度の政府を維持したり、大きな政府へと拡大しながらも、既得権益に大胆にメスを入れて、配分をフェアな状態に保てるよう、常にブラッシュアップし続ける進歩主義的な方法

 このうち、(1)の方向性を強く志向しているのが「維新」でしょう。財政や企業に巣食う保守的な人々の既得権益に切り込めば、当然世代間のアンフェアもいくぶん解消されることが予想されます。若者はこれをもって維新をリベラルと捉えているように思うのです(※もちろんリベラルを自認する若者の多数が最も“リベラル”な維新を支持しているわけではないのは、別の問題があると思います)。

 多様な人材がいるはずの自民党には、財政再建派を中心に、「さすがにこれ以上高齢者偏重の財政では立ち行かなくなる」と考える人々が一定数いるため、マクロ経済スライドの発動や年金受給開始年齢の引き上げ等で、高齢者への負担増加(≒若者の負担軽減)に舵を切ろうとする人々がいます。

 また、前述のように労働慣行の改革にも前向きです。この点、共産党より自民党のほうがリベラル(政治の介入によって自らが被っているアンフェアを解消してくれる)と感じる若者がいるのも、不思議ではありません。

若者の大きな政府への失望はあまりに大きい

 一方で、(2)の方向性を志向している政党は、今のところ日本では見当たりません。というよりも、そもそも、このような解決方法があることを認識できている若者も非常に少ないと思います。

 それは、政府や役所や公務員に対する信頼が、かなり低いからでしょう。若者は小学生のころから社会科の授業で、日本には何百兆円もの莫大な借金があると習い、育ちました。もちろん、その借金は、上の世代が財政運営に大失敗したり、自分勝手に赤字国債を連発したり、年金でもらい逃げしているせいで、ツケを回されているわけです。

 ですから、「たとえ政府が大きくなっても利権を持つ人々や高齢者に都合のよいことばかりして、若者には見向きもしないだろう」と思ってしまうのも無理はありません。「政府が大きくなる=ますます自分たちが損をする」という認識になっているのです。

若者ほど強烈な公務員への失望

 そして、身近な点でも、公的な仕組みに失望する機会があります。その一つが、教師や学校です。日本の教育は前例主義や形式主義、「みんな一緒」の横並びの教育、非効率な授業や教育的意義の欠落した生徒管理等がいまだに蔓延しています。

 そのような「保守的な教育」ゆえに、教師や学校に対して尊敬の念を抱くことができず、効率性を重視する民間企業よりもどこか「下」に見てしまう見方が、子供の頃から芽生えてしまうのではないでしょうか。

 そこに、硬直的な公務員制度が拍車をかけます。もし、アメリカのように公務員と民間企業の間を人材が行き交うのであれば多少違うのでしょうが、そのような事例は日本ではごく稀です。霞が関でも、省庁を跨(また)ぐ異動はまだまだのようです。それにより、組織がガラパゴス化し、セクショナリズムが強くなる傾向が強く、外部から見ると「常識がない」と映る機会が増えるのも当然でしょう。官僚の不祥事もいまだに絶えません。

 「お役所は前例主義や形式主義によって既得権益を守るのがメインの仕事で、私が困った時には支援をしてくれない!」という認識ですから、「公務員は削減して小さな政府へ」という主張に若者が賛同するのも不思議ではありません。

 それに比例するかのように、東大生の国家公務員志望者が減っています。若い世代ほど大きな政府によって受ける不利益が拡大するので、公的なものに対する期待や信頼感は、世代が下がるほど低下するという図式は至極当然のように思います。

若者の労働組合離れは利害対立が原因

労働組合は労働組合は若者たちの声に応えてきたのか

 この「若者の大きな政府への失望」と類似のことが、企業の中でも起こっています。それが、若者の労働組合離れです。かつての労働組合は非正規労働者を保護の対象とせず、むしろ自分たちの給与水準を守るために非正規労働者を生み出すことに同意した側面もあります。その点、当時の若者(主にロスジェネ世代)から失望されたのは有名な話ですが、問題はそれだけではありません。

 近年の若者は頻繁な転職やフリーランス化も当たり前になっており、一つの会社で定年まで働き続けることを想定した横並びの賃金体系や年功序列、ベアや定昇をスタンダードに据えた労使交渉という旧来の方針は、もはや若者の利益を代弁するものではなくなっています。

 また、近頃の若者の多くはワークライフバランスを求めているのに、「男性が長時間働き、女性は主婦かパート」という世帯が大半を占める上の世代の人々が残業代の減少を嫌がるため、多くの労働組合はブラック労働を積極的に是正しようとはしてこなかったと思います。こうなると、完全に利害が対立します。

急速なIT化が若者の不満を加速する

頭を下げて謝罪するセブンペイの小林強社長(中央)不正アクセス問題で謝罪するセブンペイの小林強社長。「2段階認証」について言葉に窮してしまい、若者たちから批判された

 さらに、昨今はIT化の進展によって、長年の勤務経験で得られる「熟練」の価値は相対的に下がり、若者のほうが生産性向上のノウハウを有しているという場面は少なくありません。典型的だったのが、7月1日にスタートしたセブン&アイ・ホールディングスのスマートフォン決済「7pay(セブンペイ)」の事例でしょう。

 セブンペイは利用者の一部が不正アクセスの被害に遭ったため、社長(1957年生まれ、61歳)が記者会見を開いたのですが、「なぜ、2段階認証を導入していなかったのか」という記者の質問に対して、「2段階認証……?」と言葉を詰まらせていました。これに対して、

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