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ドイツを夢中にさせたドラマ、日本に上陸

1920年代の光と影が現代を映す『バビロン・ベルリン』

ウルリケ・クラウトハイム ゲーテ・インスティトゥート東京

サスペンス、社会の矛盾、エロス……スリリングに

バビロン・ベルリンドラマ『バビロン・ベルリン』から=©X Filme Creative Pool Entertainment GmbH / Degeto Film GmbH / Beta Film GmbH / Sky Deutschland GmbH 2017 Fotograf: Frédéric Batier

 繁栄と貧困、自由と退廃が混然となった1929年のベルリンを描き、ヨーロッパで絶大な人気を集めるドイツの連続ドラマ『バビロン・ベルリン』が、日本に初上陸する。ドイツのテレビ史上、最大規模の予算をかけて制作されたこのドラマは、「黄金の20年代」と呼ばれた当時のベルリンを克明に再現。ケルンからやってきて地下組織を探る刑事を軸に、この街で生きる様々な階層の人々と社会の諸相が、スリリングにつづられる。

 謎めいた事件、犯罪組織、第1次大戦の傷痕、ソ連スターリン体制への抵抗運動、市井の暮らし、華やかなキャバレー文化(描かれるのは、ミュージカルの名作「キャバレー」の少し前の時期だ)……。サスペンス、社会性、エロティシズムなど、多彩な要素の詰まったこのドラマは、本国ドイツでは2017年10月から第1シリーズが放送されて大きな反響を呼んだ。国内の主要な賞を独占。「ヨーロッパ映画賞」で今年新たに設けられた「フィクション連続テレビ映画への貢献賞」が、脚本・演出を共同で手掛けたアヒム・フォン・ボリース、ヘンク・ハントロークテン、トム・ティクヴァの3人に贈られることが、今月10日に発表された。

 現在は第3シリーズの放送が準備されている。米国などではNetflixが配信している。日本では無料衛星放送のBS12トゥエルビで、10月4日から放送が始まる。それに先立ち、9月20日に、東京・赤坂で上映会とトークショーが開催される。

 「このドラマには、現代ドイツに通じることがたくさんある」と語るゲーテ・インスティトゥート/東京ドイツ文化センターの文化部企画コーディネーター、ウルリケ・クラウトハイムさんに、「ドイツの視聴者はなぜ、『バビロン・ベルリン』に夢中になったのか」をつづってもらった。(編集部)

バビロン・ベルリンドラマ『バビロン・ベルリン』から=©X Filme Creative Pool Entertainment GmbH / Degeto Film GmbH / Beta Film GmbH / Sky Deutschland GmbH 2017 Fotograf: Frédéric Batier

本当の「国際都市ベルリン」への憧れ

バビロン・ベルリンドラマ『バビロン・ベルリン』から=©X Filme Creative Pool Entertainment GmbH / Degeto Film GmbH / Beta Film GmbH / Sky Deutschland GmbH 2017 Fotograf: Frédéric Batier

 私(1973年生まれ)の世代のドイツ人にとって、ベルリンはまだ東西に分かれた町だった。『バビロン・ベルリン』の舞台は1920年代、つまりナチスが政権を掌握する前、そして第2次大戦後、東西に分断される前のベルリンである。

 この時期のベルリンは、その歴史のなかでもおそらく一番活気にあふれていた。

 多くの人が町に流入し、人口は最大に達する(29年当時のベルリンの人口は約430万人。現在は約360万人である)。ヨーロッパではもちろん、世界的なメトロポール(大都市)となったベルリンは、その牽引力で様々な芸術家や文化人をひきつけた。性的指向の面でも様々な人たちがいて、試行錯誤しながら、新しい共生の形を探していた。

 しかしナチスの台頭、第2次大戦、そして東西の分断により、ベルリンはこの世界的大都市としての地位を失うことになる。その後、89年に壁が崩壊するまで、ドイツには、かつてのベルリンと比較できるような国際的な大都市は存在しなかった。

 だからこそドイツ人は、『バビロン・ベルリン』に描かれた、生き生きとした町の様子、本物の「国際都市」に、あこがれの気持ちを抱く。そしてそこに、壁が崩壊し、分断を克服した後のベルリンの「理想形」を見る。

 それは、常に新しいものを追い求める国際都市、世界の人々に開かれた文化の繁栄する町、様々なライフスタイルの実験が行われる町というビジョンだ。もしかしたら、一部はすでに現実になっているかもしれないが――。

バビロン・ベルリンドラマ『バビロン・ベルリン』から=©X Filme Creative Pool Entertainment GmbH / Degeto Film GmbH / Beta Film GmbH / Sky Deutschland GmbH 2017 Fotograf: Frédéric Batier

右寄りの政治、脅威にさらされる「自由」

バビロン・ベルリンドラマ『バビロン・ベルリン』から=©X Filme Creative Pool Entertainment GmbH / Degeto Film GmbH / Beta Film GmbH / Sky Deutschland GmbH 2017 Fotograf: Frédéric Batier

 だが、『バビロン・ベルリン』は同時に、このビジョンの儚(はかな)さを示してもいる。第1世界大戦の後、人々が享受した自由は、右寄りの政治潮流によって、また犯罪組織や保守的なエリートによって脅威にさらされた。ナチスが政権をとった1933年以降、『バビロン・ベルリン』の登場人物たちの身に何が起こるかを知る現代からこのドラマを見ると、気分は暗く沈んでくる。

 そしてそれは、決して、過去の問題ではない。

 ドラマの中で激しい勢いで進行している出来事は、現在のAfD(「ドイツのための選択肢」という極右政党)の主張とその躍進ぶりに重なって見える。「世界に開かれたリベラルなドイツ」というイメージを、私たちはこれから、あとどれだけ保つことができるだろうか。

 『バビロン・ベルリン』に描かれた状況や、登場人物たちの日常生活のディテールには、今日に通じる問題も数多く見てとれる。

 例えば、貧富の差。レストランやクラブで贅沢の限りを尽くす富裕層と、極端な節約を強いられている人々の生活との落差は残酷だ。多くの人が職を求めて列をなす場面からは、不安定な雇用や失業などの労働問題が伝わる。そこに、性的搾取も重なる。ヒロインのシャルロッテが、失業している家族を養うために夜は売春婦として働いているのが象徴的だ。

 ドラマの中にある、右と左に極端に分かれて過激化する政治意識、報道の偏向、政治家らの汚職、市民と警察の衝突なども、世界のあちこちで今、起きていることだ。

 加えて、登場人物たちが、フェミニズム、トランスジェンダー、女装・男装趣味など、多様な考え方や生き方を示し、性的アイデンティティーの新たな定義を探していることにも、強い現代性を感じる。   (翻訳:小高慶子)

◆日本での放送
  BS12で10月4日から
  1、2シリーズ(計16話)を毎金曜(午後7時~8時55分)に2話ずつ放送

◆プレミア上映会とトークイベント

  9月20日午後7時から
  東京都赤坂7の5の56 ゲーテ・インスティトゥート東京
                   (ドイツ文化会館内)
  ①『バビロン・ベルリン』の第1話上映
  ②トークイベント
    小説家・深緑野分氏(『ベルリンは晴れているか』著者)
    映画評論家・立花珠樹氏

  無料 申し込みは番組ホームページ
ゲーテ・インスティトゥート東京による ベルリン関連の催し

◆10月31日~11月2日
  「Berlin Tokyo Experimental Music Meeting」


◆11月14~17日
  ミュージックシアター
   「BLACK OPERA ー鈍色の壁 / ニブイロノカベ ー」