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新型コロナウイルス問題、鈴木道知事・安倍首相はシャーマンになった

失政をとりつくろう素人判断

杉田聡 帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)

 新型コロナウイルスの猛威に直面してから、早3カ月がたった。「ダイヤモンド・プリンセス号」の事例を別とすれば、都道府県で最も感染者が多く出ているのは、私が住む北海道である。

 そのこともあって道内では、全国に「先がけた」動きが見られた。2月26日(水)に政府が2週間のイベント自粛要請を行った(にすぎない)段階で、鈴木直道知事が道内の市町村教委に、翌27日(木)~3月4日(水)、公立小中学校等を臨時休校とするよう、道教育委員会を通じ要請を出したのである。そればかりか28日(金)には、週末の外出を自粛するよう道民に呼びかけている。

緊急事態宣言を出す鈴木直道北海道知事を映す地下街の大型ビジョン=2020年2月28日午後6時58分、札幌市中央区緊急事態宣言を出す鈴木直道北海道知事を映す地下街の大型ビジョン=2020年2月28日、札幌市中央区

 前者は、その後の政府の動き――27日(木)に安倍首相は、全国の小中学高校等を一律休校とするよう要請した――に先がける動きであり、要するにこれに首相が追随した。実際、首相は3月2日の参議院予算委員会で、「北海道……などで、休校措置が取られていることを紹介しつつ、『判断に時間をかけるいとまがない中、私の責任において判断させていただいた』と……強調した」(朝日新聞3月3日付)。

拙速な休校措置要請――専門家の意見を聞かず

 だがいずれの休校措置要請も拙速であった。知事も首相も事態が切迫していることを理由に要請を決めたが、そこに科学的な根拠と、それに基づく冷静な判断があったかどうかは、疑問である。

 だいいち、「現時点では世界的に見ても子どもの感染者は少なく、国内では重症者は確認されていない」という(朝日新聞2月29日付)。だから、単に休校措置を行ないさえすれば感染拡大が防げるのかどうかは、不明であった。

 なのに首相は、政府の専門家会議に集う専門家の意見も聴取せずに、唐突に判断を下した。一方、道知事は、専門家の意見を若干聞いたかもしれない。26日の会合で、「国立感染研究所から専門家3人の派遣を受けたことなど」が知事から報告されている(朝日新聞2月27日付道内版)。だが、単に感染症の専門家の意見を聞けばよいというものではない。各種メディアの報道を見ていると、感染症研究者は――総じて専門家の常として――自らの狭い観点からのみ政策を判断する傾向があることを、否定できない。

 だから重要なことは、専門家の意見を聞いたかどうかではなく、関連する多様な専門家の意見を聞いたかどうかである。つまり教育現場の問題に詳しい研究者・教員等の、人権問題を専門とする憲法学者・法律家等の、ひとり親世帯・貧困世帯の子どもの実情に詳しい研究者・支援者等の専門的な意見を聞いた上で、判断は総合的になされなければならない。だが報道を見るかぎり、それはなされなかった。

 また、広い北海道で広範囲に感染者が出ているといっても、各市町村の意向と別に一律に対応を求めることの是非について、どれだけ検討されただろうか。道議会での討論はあったのか。道議会第1回定例会は27日に開かれたというが、それは休校要請の後のことだし、しかも道議会は28日から3月10日までの休会を決めている(朝日新聞2月28日付道内版)。それ自体議会の問題として問われるが、知事は、首長としての責任を全うするために、道議会の開催を求める、もしくは最低でも道議会を構成する政党・会派の意見を聞くべきではなかったか。

 しかも休校措置をとった場合に、共働き・ひとり親世帯等の親がどんな困難を背負うかについて、深慮はあったのだろうか。子どもたちの教育を受ける権利が侵害されることについては、どうなのか。突然の休校に、学校関連の各種業種も大きな影響を被っている。実際、突然給食が止められたため、野菜や牛乳を始めとする食品の行き場がなくなったという事例が、いくつも報告されている。

 影響は医療機関にも及んだ。私の住む帯広市の中核病院は、「感染症指定医療機関」にもなっているのに、小中学生をもつ医療スタッフが欠勤するため、「外来の診療を一部縮小した。原則、予約のない外来患者の診療はしない」(朝日新聞2月29日付)という事態になっているという。

あせりが拙速な対策を生んだ

 にもかかわらず拙速に休校要請を出したのは、知事も首相も以前の失敗を挽回しようと、あせっていたからに違いない。

 首相の場合は明白である。3月9日午後15時現在、感染者は約1200人だが、うち6割近い約700人は、「ダイヤモンド・プリンセス号」の乗客から出ているのである。感染拡大を防ぐための十分な医学的・公衆衛生的な措置のないまま、乗客を船内に隔離するという対応は、稚拙であった。この点について数多くの批判が海外からも出されただけに、首相は失敗を挽回したいとあせったのであろう。

 道知事の場合も、同じあせりが唐突な対応を生んだと

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