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新型コロナの天皇メッセージを思う。「利他」の人だから超えられる「分断」

矢部万紀子 コラムニスト

 4月10日、天皇陛下と雅子さまは新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の副座長である尾身茂さんから進講を受けた。「尾身氏によると、天皇陛下は冒頭、感染症拡大について『人類にとって大きな試練』と表現し、『私たちが心を一つにして力を合わせ、難しい状況を乗り越えていくことを願っています』と話した」と、11日の朝日新聞が報じている。

尾身茂・新型コロナウイルス感染症対策専門家会議副座長から進講を受ける天皇、皇后両陛下=2020年4月10日午後5時半ごろ、赤坂御所・檜(ひのき)の間、宮内庁提供20200410尾身茂・新型コロナウイルス感染症対策専門家会議副座長から進講を受ける天皇、皇后両陛下=2020年4月10日、赤坂御所・檜の間、宮内庁提供

 これでもう、機は熟した。その日は近い。よかったー。

 と、先走った。陛下から国民へのメッセージの話だ。出していい頃なのではないか。そう思っていたのだ。4月になり、日に日に国内感染者数が増える中、6日に尾身副座長の進講が予定されていると知り、「おおっ、これは」と期待した。

 が、延期となってしまった。感染拡大の状況から宮内庁側が延期を申し出たと、テレビニュースが伝えていた。確かに尾身副座長は7日の「緊急事態宣言」の記者会見でも安倍首相の横に控えていたから、6日に宮内庁に行くというのは厳しかっただろう。だが、尾身さん以外にも専門家はいるし、尾身さんだって「ご進講」なのだ、なんとか時間を作ってくれるのでは、などとやきもきしていた。

 延期発表前、朝日新聞が「進講は両陛下の意向という」と報じていたからなおさらだった。これは宮内庁が記者にそう説明したということだろう。皇后が天皇の一歩後ろに下がるのでなく、お二人が並んで歩む。そんな令和らしさがここでも発揮されたと思い、お二人そろってのビデオメッセージもあるかもしれないとさえ夢想した。が、新たな進講の日程が発表されることはなく、メッセージを出さないという判断かもしれないと思ったりもした。

進講からすぐに発表されるメッセージ

 4月10日夜、NHKの「ニュース7」を見ていたら、マスクをつけた陛下と雅子さまが尾身副座長から説明を受けている映像が流れてきた。ほどなくネットニュースでも報じられ、写真には「宮内庁提供」とクレジットがあった。映像、写真を撮って、宮内庁がマスコミに知らせる。これはもう、メッセージ発表への布石だろうと確信した。

 2011年のことが頭にあった。東日本大震災発生から4日後の3月15日、天皇陛下(当時)は美智子さまと共に前原子力委員会委員長代理と警察庁長官の2人から進講を受けた。そして翌16日、ビデオメッセージを発表したのだ。今回、陛下と雅子さまも、専門家からの話を聞かずにメッセージを出すとは考えにくい。

東日本大震災の被災者にビデオメッセージで語りかける天皇陛下=2011年3月、宮内庁提供 2013122東日本大震災に際してビデオメッセージで語りかける天皇陛下(当時)=2011年3月16日、宮内庁提供

 震災の際のメッセージは、5分56秒に及ぶ長いものだった。それを進講の翌日に出すというスピード感。メッセージの骨子はできていて、専門家の説明を受け仕上げたのだと想像する。10日の尾身副座長による進講の席でも、「人類にとっての試練」「心を一つに」という言葉が陛下から出た。加えて現場で働く医療関係者へのねぎらいの言葉を繰り返したそうで、もうメッセージの骨子はできているのだと思う。

 ただ、少しだけ心配がないでもない。陛下と雅子さまの問題というより宮内庁の問題かもしれないが、お二人は「広報活動」があまり得意でないように見受けられるのだ。感染症が広がっている状況へのメッセージを「広報活動」と表現するのは不謹慎かもしれない。だが、考えを広く知らせることでしか、国民とのつながりは強くならない。それを即物的に表現すると、「広報活動」になる。例えばこんなことがあった。

抑制的ではなく「具体」な言葉を

 2019年10月、台風19号が上陸、関東から東北まで被害が広がった際、宮内庁次長がお二人のお見舞いの気持ちを発表した。宮内庁ホームページで今も読めるが、「天皇皇后両陛下には、台風19号による大雨被害で多数の方々が犠牲となり、また、依然として多くの方の安否が不明であること、数多くの方々が被災されていることに大変心を痛めておられます」で始まる文章の特徴を一言で表すと、「おしなべて」だ。

 亡くなった人、遺族、安否不明者、被災者、努力している関係者。順番にお気持ちを表明している。そのことには何の問題もないのだが、ちょっと官僚的な文章に感じられる。台風以外のどんな災害にもあてはまるような。同じ日に美智子さまのお誕生日行事の取りやめについての文章が発表されたから、なおさらそう感じた。

 そちらはこんな文章だった。「今回の台風については、その発生以来、上皇上皇后両陛下とも災害の様子を伝える早朝6時のニュースを始めお昼、夜のニュース等を注視されてきました(略)」。お二人が息をひそめてテレビを見詰める様子が浮かんでくる。人の気配がする文章なのだ。

 美智子さまは、具体的な場面をつかまえることが上手だ。

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