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プロ野球順位予想 セ・リーグ編――セイバーメトリクスの第一人者に訊く

開幕が遅れたからできた精緻なデータ分析

井上威朗 編集者

鳥越規央(とりごえ・のりお) 統計学者。江戸川大学社会学部経営社会学科客員教授。研究分野は数理統計学、セイバーメトリクス 。学位は博士(理学)。所属学会は日本統計学会、日本計算機統計学会、日本数学会、アメリカ野球学会、日本オペレーションズ・リサーチ学会会員(球場でも酒場でもなく、「三密」を避けて消毒済み某社会議室でお話をうかがいました/撮影・筆者)鳥越規央(とりごえ・のりお) 統計学者。江戸川大学社会学部経営社会学科客員教授。研究分野は数理統計学、セイバーメトリクス。学位は博士(理学)。所属学会は日本統計学会、日本計算機統計学会、日本数学会、アメリカ野球学会、日本オペレーションズ・リサーチ学会会員(球場でも酒場でもなく、「三密」を避けて消毒済み某社会議室でお話をうかがいました/撮影・筆者)
――統計学者にしてセイバーメトリクスの日本における第一人者、鳥越規央先生をお迎えして「2020年のプロ野球」の展望をたっぷりとうかがう企画、セ・リーグ編をよろしくお願いします。

 今回はありがたいことに、未発表データをもとに各ポジションごとの打撃力(投手は被本塁打、三振、四球という、守備や運にかかわらない数字からみた能力)を分析していただき、平均より上か下かを指標化して見せていただきました。プロ野球の開幕が延びている間に、今年のオープン戦についてのデータも精査し終わったので、より精度の高い予測ができたわけです。

2019年は5年ぶりに優勝した巨人だが、さて今シーズンは?2019年は5年ぶりに優勝した巨人だが、さて今シーズンは?

 さて、ではさっそく、鳥越先生の予想する上位順に、そのチームの戦力分析と予想オーダーを教えてもらいましょう。

 でも、私のヒイキであるカープは上がってこない予感がしています……。

1位予想は、戦力が盤石になりつつある、あのチーム

鳥越 はい、私が2020年シーズンの第1位に予想するのは横浜DeNAベイスターズです。

――ああああ、なんてことだ。2019年、私は横浜スタジアムでカープが無残にベイスターズに粉砕される試合を何試合も観戦したのですが、今年はもっと悲しいことになってしまうのですね。

鳥越 はい。ベイスターズは昨シーズンより強くなっていると言えるでしょう。まず、先発投手陣が充実している。データで見ると、実は12球団で最もストレートの平均球速が速いのです。あと奪三振率も最高です。抑えの山崎康晃をはじめとした、リリーフ陣の安定も言うまでもありません。12球団でも屈指の充実した投手陣を整備しています。

――打線も強力ですよね。ビッグ4と称された、筒香嘉智、ロペス、宮崎敏郎、ソトの迫力はすごいものでした。目の前で5本くらいホームランを叩き込まれたこともありましたよ。たしか投手は大瀬良大地だったような……。

鳥越 指標を見るとロペスが平均程度で、あとの3人は突出しています。印象通りに力を発揮していたと言えますね。

――でも筒香がメジャーに移籍して、その一角が崩れた。

鳥越 そこでアレックス・ラミレス監督は佐野恵太を主軸に入れたんですけど、オープン戦の指標を見る限りでは、穴を埋めてあまりある実力を見せています。現段階は宮崎の指標が少し低いですが、攻撃力も昨季以上といえるでしょう。

DeNAのラミレス監督(右)が期待を寄せる佐野恵太DeNAのラミレス監督(右)が期待を寄せる佐野恵太

――悔しい話ですが、昨年も春の宮崎はひどいものだったのに、どんどん成績を伸ばしていきました。今年も同じ曲線を描けば、ベイスターズ打線に死角なしとなりますね。

鳥越 これに加えて、新外国人のオースティンも傑出しています。オープン戦のOPS(出塁率+長打率)で1.3を超えました。

――シーズンでその数字だったら、あのバースすら超えてしまいます。これはうらやましい……。

鳥越 オープン戦のOPSだけを見ても、梶谷隆幸が0.9を上回るなど、充実した仕上がりの選手が多い。さらに本来ならレギュラークラスの実力がある、神里和毅、桑原将志、乙坂智らが控えている。選手層も厚くなっているわけです。

 これは、しっかりしたデータの裏付けのもと、佐野恵太をちゃんと4番に据えるという決断をしたことが大きいと思います。私の予想オーダーも同じです。レギュラーも控えもあわせて、ベイスターズは戦力として盤石になりつつある、と言えるでしょうね。

150km以上の投手が11人のジャイアンツ

――うーん、ぐうの音も出ない。では2位にカー……

鳥越 2位に予測するのは読売ジャイアンツです。

――ですよねー。……鳥越先生が上梓された『読売巨人軍 優勝の条件――今年の原・巨人を楽しむ統計学』(2019年、ゴマブックス)でも、丸佳浩の補強をきわめて高く評価しておられました。実際、同書での予測通りにジャイアンツは優勝したわけですし、今年の高評価も仕方がない気がします。

鳥越 ジャイアンツの弱点は長いこと明確でした。セカンドとセンターです。昨シーズンは丸の補強に成功することで、セカンドは穴のままでしたが大きな戦力アップを果たしました。

――カープファン的には悲しみしかない現実ですが、丸の貢献度は高かったのですね。

鳥越 高いですね。丸の獲得は、原辰徳監督が、坂本勇人、丸、岡本和真という、2、3、4番を組んだことでより効果をあげました。この3人を、3、4、5じゃなくて、2、3、4で並べ、クリーンアップにしたのが成功だったのです。

――日本はクリーンアップが3、4、5番を打ちますが、メジャー式に2、3、4番にした、と。それで何がよかったのですか。

鳥越 データは明確にその戦略の正しさを示しています。ジャイアンツのイニング別合計得点数を見ると、初回の96点が最高。これは2018年より22点も多く、初回得点率はなんと36%です。

――3分の1以上の確率で先制点をあげてしまうかもしれないのか。

鳥越 先制すれば、もちろん有利になりますからね。

――でも今年は、ジャイアンツはオープン戦で負けまくっていたじゃないですか。

鳥越 ええ。でも戦力的にはそんなに劣ってはいません。山口俊がメジャー移籍しましたが、それでも投手陣が充実してるんですよ。

――どういうことですか?

鳥越 このオープン戦で、150km以上出したピッチャーが11人いるんですよ。

――ええー! それはすごい。

鳥越 はい。これは12球団ナンバーワンの数です。それだけ潜在能力が高いピッチャーをそろえた、ということです。球速はどうしても素質にかかわるところがあるので。

――三軍制度を運用していることが功を奏してきたのかもしれないですね。

鳥越 球速といえば、新外国人のビエイラが161kmを出しました。春に161km出せるっていうのは、とんでもないことです。夏だと165kmまでいきますよ。

――それは打てないですよ!

ビエイラ(巨人)の球速160キロ超えは見られるかビエイラ(巨人)の球速165kmは見られるか

鳥越 ということでリリーフの厚みも増した。もちろん坂本、丸、岡本の2、3、4番は健在だし、セカンドは今年も穴になりそうですが、ファーストの中島宏之が復活したのがそれ以上の上積みになります。あとは捕手をどうするか、くらいでしょうか。私は予想オーダーにフレーミング(捕球技術)がうまく盗塁阻止率が高い小林誠司を入れましたが、大城卓三との併用になるかもしれませんね。

――恐ろしいことに2、3、4番が盤石のようですが、その後ろについてはいかがでしょうか。

鳥越 去年もそうだったんですが、パーラ、中島宏之、亀井善行が第2のクリーンアップ的な感じになってくると、けっこう後ろがちゃんとしてくる。

――遭いましたとも、痛い目に……! ちなみに亀井はオープン戦からだそうですけど、下位に回るんですよね、今年は。

鳥越 そうですね。ただ予想オーダーで1番に入れた吉川尚輝の腰痛が治らなければ、またトップバッターに戻るでしょうね。

――こちらとしては、腰痛次第の痛い目打線となりそうです……。

鳥越 で、その次の3位予想がですね……。

――(来い! カープ来い! せめてAクラスにっ!)……先生のPC画面に阪神タイガースが表示されました……。

バックアップ要員が潤沢なタイガースは有利?

鳥越 藤川球児をはじめとした強力なリリーフ投手陣で、昨シーズン3位に滑り込んだ阪神ですが、今年も投手陣の層は厚いので、同じ順位に予測しました。ただし、この球団は、「長打力のなさ」という大きな弱点を露呈しています。

――甲子園球場で観戦しながら打者にとって逆風となる浜風を浴びていると、これはもう仕方がない気がします。

鳥越 ところが、オープン戦の指標を見ると新外国人のサンズがいい。ボール球をスイングする割合が14.5%と選球眼がよく、オープン戦で日本のストライクゾーンにも適応してスイングしているのです。さらにボーアも加入し、昨年からいるマルテも日本野球に慣れてくるでしょう。もちろん大山悠輔もいるわけで、サードがかなり厚くなっています。

――有力な選手のポジションがダダ被りなところは気になりますが。

鳥越 そこは長いシーズンを考えると、バックアップ要員が潤沢だと解釈したほうがいいですね。たとえばサンズはいま調子がいいですけど、調子を落としたのなら、福留孝介も髙山俊もいるではないか、というふうに。

――うかがっていると、長打力においても補強に成功しているような。

鳥越 いや、選手というよりまずは球場そのものをどうにかしないと。ラッキーゾーンを復活させるなどの手を打たないと、ちょっと難しいとこかな、と思いますよ。

――たしかに、タイガースファンからは「狭いハマスタ(横浜スタジアム)が俺たちの本拠地だ」などという発言を聞きます。実際、よくハマスタで打ってますよね。

鳥越 そういうことですよね。とはいえ、広い甲子園球場を生かせる優れた投手陣が健在なので、ベイスターズ、ジャイアンツに続くAクラス確保が可能じゃないか、と評価したわけです。

――投手陣にはちょっと出遅れの印象がありますけども。

鳥越 ガルシアや岩崎優などが出遅れていますね。加えてドリスとジョンソンがチームを離れた。それでも新戦力であるガンケルにエドワーズがよさそうで、中継ぎでは守屋功輝が成長の兆しを見せている。タイガースはタレントが多いんですよ。

――予想オーダーを拝見すると、各打順に複数の選手を書かれていますね。

鳥越 実は大山と福留抜きでもオーダーが組めるんですよ。それだけバックアップが潤沢ということです。木浪聖也、髙山、北條史也もいますしね。捕手も梅野隆太郎のバックアップに坂本誠志郎がいたりとか。2人ともフレーミングの巧さですごく評価されている捕手なんです。

急成長中の梅野隆太郎(右)。エース格の西勇とともに阪神を支える急成長中の梅野隆太郎(右)。エース格の西勇とともに阪神を支える

――梅野の強肩とクラッチヒッターぶりに魅惑されていたのですが、彼に何かがあっても、坂本でけっこういけると。

鳥越 いけますね。あと原口文仁。

――そうだった。必死のパッチ先生がおるやないか! なるほど、この選手層の厚さは、シーズンを戦うにあたってかなり有効なのですね。

鳥越 もしかしたら、この先、(試合数を消化するために)ダブルヘッダーのような厳しい日程もあるかもしれない。そうなると、複数のレギュラー格の選手を各ポジションに抱えるタイガースは有利になりますね。

――ぐぬぬ。この流れでいくと、カープはその下になるしかないのか……。

カープは投手陣の整備が間に合っていない

鳥越 そういうことです。4位に広島東洋カープを予測しました。とにかくもう、鈴木誠也が傑出しています。それゆえに、その鈴木の後ろを打つバッターが重要になってくるんです。それだけではなく、鈴木の前も大事になります。昨シーズン苦しんだのは、やっぱり1、2番の出塁率の低さですよね。

――誠也の前にランナーを置けなかった。たまたま置けても、ほとんど誠也を歩かせただけでイニング終了。ああ悪夢だ。

鳥越 そういうことです。いくら鈴木がすごくても、得点にならないんですよ。2018年までは丸佳浩というもう1本の大きな柱があったおかげで大きな得点力を持てたのですが、その「1本」が抜けてしまったがゆえに、鈴木が孤立してしまった感はありましたよね。

――バティスタが頑張りましたが、いなくなりましたし。

鳥越 さらに、もう1人平均を超えた指標を出している會澤翼と鈴木の間が離れたオーダーになってしまいました。鈴木の打順のあとに會澤を入れたほうが得点期待値は上昇したでしょうね。

広島打線は鈴木誠也を孤立させてはいけない広島打線は鈴木誠也を孤立させてはいけない

――ファン目線からしても、會澤5番でいいと思いましたよ。疲労を勘案するなら打力の高い磯村嘉孝や坂倉将吾捕手も併用できたのだし。でも何かがあって、そうならなかった。

鳥越 打てるバッターをちゃんと固めておけるような采配って必要なんですよ。4番の鈴木だけポコンと突出するカープの場合など、特に。だから今年は、ジャイアンツのように2、3、4番を固める打線を組めるか、ということが重要になります。今年なら、安部友裕や西川龍馬、松山竜平などをちゃんと固められればいいのですが。

――投手陣の指標も、先発、リリーフともに、けっこう厳しいですね。

鳥越 とくにリリーフとして補強したスコットとD.J.ジョンソンが、そこまで三振を取れていないところが心配です。リリーフ投手というのは「どれだけ空振りを取れるか」というところが評価の対象なので。

――なるほど。カープは補強に失敗している可能性もあるのか。

鳥越 ただし、先発投手としてドラフト1位ルーキーの森下暢仁が加入したのは評価できます。それでも、大瀬良大地、クリス・ジョンソン、森下以降の先発投手が固まっていない。セ・リーグを1年間戦う上では、整備が間に合っていないようですね。

――私はアドゥワ誠がものすごく好きなんですが、どうでしょう。恵まれた体格から超剛速球に見せかけたムービングボールを投げるっていう。でも昨年の途中から攻略されてしまったんですよね……。

鳥越 それはストライクゾーンに投げ込むからだと思います。

――それって、いいことなのではないですか?

鳥越 いえ、いまのバッターは、ストライクゾーンに来たボールなら、動いていても打てる技術を持っているんですよ。だから、ストライクからボールに逃げるようなボールが投げられる投手じゃないと、セイバーメトリクスで評価されるような数値を残せません。

――ストライクゾーンへ多く投げられるからいいというわけではないのですね。

鳥越 そうです。ストライク投球率が45%とかでも好投手は数多くいます。こうした投手は、ストライクに見えるボール球を投げる技術があり、空振りが取れるのです。

――ストライクゾーンに投球をそろえてしまうアドゥワのような投手はどうすればいいのですか。

鳥越 イーグルスの岸孝之を見習いましょう。彼は見逃し三振が多いんですよ。

――たしかに。打者が普通にど真ん中を見逃しちゃいますもんね。

鳥越 そうそう。この岸のような相手の裏をかく投球術を持たないと、アドゥワは生き残れないかもしれませんよ。

――とても勉強になりました。さて予想オーダーを拝見すると、上位に出塁率の高い打者を固めるようにはできていませんね。

鳥越 まあ、1番バッターとして田中広輔が復調すれば期待できます。ですが2番を菊池涼介にせざるを得ないようなので、打線が分断されてしまうでしょうね。練習試合で佐々岡真司監督はいろいろな打順を試していますが、もっと柔軟に鈴木を生かせる打線を組むべきだと思いますよ。

――會澤や松山竜平の打順を前に詰めたほうがいい気がしてきました。

鳥越 そうした上で、ベイスターズがやっているように、菊池を9番に置いたらどうでしょうか。あるいはその打順なら、小園海斗を併用するのもありでしょう。

――菊池の守備には助けられてきたし、移籍せず残留してくれたのには本当に感謝しているのですが、攻撃力を考えると仕方ないのかもしれませんね。ううん、厳しいなあ。

補強がうまく行っていないドラゴンズ

鳥越 で、5位に予想したのは中日ドラゴンズです。

――わりと下位の予想なんですね。

鳥越 ドラゴンズは捕手をのぞき、野手のメンバーを完全に固定してしまいました。昨シーズンも規定打席に5人が到達しています。これが与田剛監督の方針なのでしょう。

――ファーストビシエド、セカンド阿部寿樹、サード高橋周平、ショート京田陽太、レフト福田永将、センター大島洋平、ライト平田良介。たしかに名前がすらすら言えてしまいます。

鳥越 もう予想オーダーは悩みませんでした。これまで選手層が厚い球団を高く評価してきましたが、ドラゴンズの場合はその逆なわけです。バックアップがいないので、レギュラー陣に何かあったら大幅な戦力ダウンが懸念されます。そのレギュラー陣も、指標を見ればそれほど突出しているわけではない。1番バッターの大島はいいですが、あとの選手はもっと底上げが必要でしょうね。

――根尾昂の活躍を今年も見られないのでしょうか。

鳥越 与田監督のなかではまだ早い、という判断のようです。それより、ドラフト1位ルーキーの石川昂弥のほうを買っているようですね。私もビシエドのバックアップに石川が入るのではないかと予測しています。

与田剛監督(右)も注目する高卒新人・石川昂弥(中日)与田剛監督(右)も注目する高卒新人・石川昂弥(中日)

――投手陣もコマ不足のようですね。

鳥越 指標を見ても厳しいところです。これでは補強がうまく行っていない、という印象を持ってしまいます。さらにロメロが離脱してしまった。こうなると、どうしてもドラゴンズを上位には推しづらくなってしまいます。

――なるほど。でもその下、最下位がいるのですね。

バレンティンが抜けたスワローズは…

鳥越 はい、東京ヤクルトスワローズが6位予想です。ドラゴンズと同じく、ずっと弱点であった投手の補強が充分にできていないからです。新加入のイノーアも、いまのところ指標を見ると評価しづらい投手ですね。

――でも、今年のリリーフ陣の指標は良化していますよ。

鳥越 そもそも昨年の指標が悪かったのは、リリーフの登板過多のせいだと見ています。勝ちパターン、同点、負けパターンで投手を使い分けなかった。梅野雄吾68試合、マクガフ65試合、移籍してしまいましたがハフも68試合、これは投げすぎですよ。ベイスターズやファイターズは、中継ぎ投手のローテーション表のようなものを整備して、過剰な連投をしないでリリーフをうまく回しています。ベイスターズは2連投したら、必ず1つ休むようにしています。

――なるほど、この運用の差が1位予想と6位予想の差の一因にもなっているのですね。

鳥越 そうです。ですが先ほど話に出たとおり、今年のオープン戦におけるリリーフ陣の指標はプラスに転じている。新加入した長谷川宙輝も含めて、タレントはいるということなのです。だからこそ、シーズンではうまく運用してほしいのですが……。

――高津臣吾監督はリリーフ投手でしたし、期待できるかもしれませんね。そして攻撃陣は指標を見ると、山田哲人とバレンティン頼みだったわけですが、そこからバレンティンがホークスへ移籍して抜けてしまった。これは厳しいでしょうかね。

鳥越 予想オーダーを見ながら検討してみましょう。高津監督は塩見泰隆に期待をかけているようなので、バレンティンのいたレフトに青木宣親を回し、センターに塩見を置くこととなりそうです。

 1番は負傷から復帰した坂口智隆、2番に賭けですが山田、山田を敬遠させないために3番に青木。そして4番村上宗隆になるのではないか。そのあとに塩見が続きます。

――あの応援歌がかっこいい、高卒3年目の村上が4番!

鳥越 村上はまだオープン戦での出場試合数が少ないので評価しづらいのですが、彼に高津監督はチームの浮沈を賭けるのでしょう。練習試合では実績のある雄平を下位に回していますから。

村上宗隆2019年は、高卒2年目で36本塁打と大ブレークした村上宗隆(ヤクルト)

――なるほど、走力があり守備も期待できる塩見を起用しつつ、上位に大爆発が期待できる打者を集める。これでバレンティンの穴が埋まるかもしれませんね。

鳥越 ただどうしても、7番、8番の打力に厳しいところがあり、打線がまだ繋がらないのは心配です。新外国人のエスコバーも、狭い神宮球場で起用するのに長打が見込めないのでは微妙だと言わざるを得ません。

――ならば、投手陣を勘案するとヤクルトよりカープは上に行けるかもしれない。

鳥越 いまのところ、そうですね。鈴木誠也がいるだけで有利ですよ。

――ああよかった。しかしベイスターズにはおよばない、と。悔しいけれど、これからはベイスターズの黄金時代が到来してしまうのでしょうか。

鳥越 それどころか、私は常々こう言っているのです。「ベイスターズが黄金時代を作らないと、セ・パの格差は埋まらない」と。

ベイスターズが強くなれば、パ・リーグに対抗できる!?ベイスターズが強くなれば、パ・リーグに対抗できる!?

――どういうことですか?

鳥越 すでにパ・リーグでは、ホークス、イーグルス、ファイターズなどがデータを充分に活用して球団を運営しています。戦力を整え、バックアップを備え、試合では緻密な選手起用をして……という形で戦っている。その結果、交流戦でも日本シリーズでも、セ・リーグはなかなか勝てなくなった。

――近年のカープの日本シリーズも、悲しい記憶ばかりです。

鳥越 ジャイアンツが進出した昨シーズンなんて、0勝4敗で決まってしまいましたからね。ホークスはデータを生かして、そうなるための下準備を入念にしていたということなんですよ。

――過去10年間で9回パ・リーグが日本一になっているのは、ドラフトのくじ運のせいだけじゃない、ということですね。

鳥越 いま、セ・リーグ球団でその格差を埋める努力をしている親会社は、DeNAしかありません。懸命に球団経営を改善し続け、データを使ったチーム作りに取り組んでいる。だからベイスターズが覇権をとれば、まわりの球団もマネをしようと考えるじゃないですか。そうなってはじめて、セ・リーグも意識改革が始まるわけですよ。

――そうか。ベイスターズがこれから突破口を開いていくのかもしれないのですね。

鳥越 はい。セ・パの格差を縮められる道はあると、私は思っています。

――カープファン的にはやっぱり少し悔しいですが、濃い話をたっぷり聞けて幸せでした。これで試合がなくてもまだ頑張れる気がします。今度はご高著『勝てる野球の統計学――セイバーメトリクス』(岩波書店)についてうかがいながら球場で接待させてください。ありがとうございました!

プロ野球は開幕しても当面、無観客試合となりそうだ当面、無観客試合となりそうだが、ファンは1日でも早い開幕を待っている

*ここで紹介した本は、三省堂書店神保町本店4階で展示・販売しています。