メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

コロナ禍のなか、テレビのエンタメで進むアーカイブ化と疑似ネット化

太田省一 社会学者

 「テレビ終わるよ」。こうつぶやいたのは、2020年4月17日放送の『夜の巷を徘徊する』(テレビ朝日系)に出演したマツコ・デラックスである。

 マツコが夜の街や商店街を気の向くままに歩くおなじみの街ブラ番組だが、新型コロナウイルスの影響でロケが困難になった。そこでセットも何もないがらんとしたスタジオで急遽収録することになったのである。冒頭の言葉は、そのスタジオにマツコが入ってきたときに発したものだった。

マツコ・デラックスさんの「テレビ終わるよ」発言の意味は?マツコ・デラックスさんの「テレビ終わるよ」発言の意味は?

 もちろん今すぐにテレビがどうなるというわけではないだろう。だが確実に影響は少なからずあり、それがどこまで広がるのか現状ははっきりした見通しが立たない。ドラマやバラエティ、音楽番組などエンタメ番組全般への影響もすでに至るところに現れている。マツコの言葉には軽い冗談の響きもあったが、いまを代表するテレビタレントの口から発せられたという意味ではやはり印象的でもあった。

 では実際、いまテレビエンタメにおいてなにが起こっているのか? 緊急事態宣言が延長されるなど状況は依然として流動的だが、現段階で見えていることをここでいったん整理してみたい。キーワードは、「アーカイブ化」と「疑似ネット化」である。

 まず、過去のコンテンツを再活用するアーカイブ化について。

 特にそれが目立つのは、ドラマだろう。この4月から始まる予定だった各局の連続ドラマのほとんどの放送が延期か中断されている状況だ。たとえば、今期最大の話題作だった『半沢直樹』(TBSテレビ系)の新シリーズも、まだ一話も放送されていない。

 そうした新作が放送予定だった時間帯では、同じ枠で過去に放送された作品の再放送(再編集などが施され、「特別編」などと銘打つケースが多い)に差し替えられているのが目立つ。たとえば、日本テレビの「土曜ドラマ」の枠では、2005年に放送された『野ブタ。をプロデュース』の特別版が放送されている。視聴率も好調なようだ。

 また2009年と2011年にTBS「日曜劇場」枠で放送されて人気を博した『JIN-仁-』は、同じ枠ではなく2020年4月18日から3週連続で土日に特別版が放送された。いうまでもなく現代の医師が幕末にタイムスリップして医療行為に奮闘する話で、現在の状況に重なる部分もありかなりの反響を呼んだ。

スポーツやクイズも、アーカイブ活用

 音楽番組も同様だ。

 『うたコン』(NHK)や『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)など生放送のレギュラー歌番組は、やはり通常の放送形態をやめて過去の名場面を流すようになっている。この2020年3月から始まった『CDTV ライブ!ライブ!』(TBSテレビ系)も同様で、元番組である『COUNT DOWN TV』の過去の出演シーンがメインになっている。この番組の場合は視聴者からのリクエスト企画を独自に打ち出し、2020年4月13日の放送ではリクエストが最も多かった曲としてSMAPの『世界に一つだけの花』がフルバージョンで流され、SNSなどで大いに話題にもなった。

 しかしながら、ドラマや音楽番組のこのあたりの対応は、今回のコロナ禍による初めてのこととも言い切れない。ドラマでは年末年始に過去の人気作や名作の一挙放送がすでに恒例になりつつあるし、また音楽番組も近年は特番などで懐かしの名曲や名場面をフィーチャーしたものが定番化しているからだ。

 その点注目したいのは、これまであまり再放送に向かないと思われていたジャンルでのアーカイブ活用だ。

・・・ログインして読む
(残り:約2295文字/本文:約3792文字)