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【4】ドラマの基本の型は五言絶句 その2

4コママンガの2コマ目はドラマの核、内容そのものです

中川文人 作家

まずは「意を立てる」

 前回は唐の詩人、杜甫の五言絶句を持ち出して、「これが4コママンガの基本の型だ」という大胆なことを言いましたが、今回はさらに踏み込んで、五言絶句の一行一行がもつ意味と役割を明らかにし、この型が現代の4コママンガにどう生きているかを見ていきたいと思います。

 現代の4コママンガの例には、前回紹介しました「ジキルとハイド」「星の王子様」「たけくらべ」「蒲団」の4つを使います。

 基本となる型、杜甫の五言絶句はこちらです。

 江碧鳥逾白  江は碧にして 鳥はいよいよ白く
 山青花欲燃  山は青くして 花は燃えんと欲す
 今春看又過  今の春も看のあたりに又過ぐ
 何日是歸年  何の日か 是れ帰る年ぞ
*書き下し文は、『新唐詩選』(岩波新書)より

 さて、一行目から行きます。

 江碧鳥逾白  江は碧にして 鳥はいよいよ白く

 この行は何を意味しているのか。はじめに答えをいいますと、一行目は詩人の宣言です。杜甫はここで、「俺は今、大きな河を前にしている。白い鳥が空を舞っている。でかい、広い、すごいスケールだ。俺は大自然の中にいるんだ。よし、この自然を詩にするぞ」と宣言しているのです。

 山水画の世界には「意を立つるを以て先とする」(以意立為先)という言葉があります。「まず意を立てる。まず心を決める。すべてはそこから始まる」という意味なのですが、杜甫はまさに意を立てたのです。

 「以意立為先」には「創作はトップダウンじゃなきゃダメだ。ボトムアップじゃダメだ」という意味もあるのですが、ボトムアップでものを作っていく人もいます。それを間違いだとはいいません。が、杜甫の流派ではトップダウンが原則です。なぜ、杜甫はトップダウンの道を選んだのか。それは、私にはわかりません。ただ、山水画の世界で「以意立為先」という考え方が広まったのも唐の時代のようですから、時代の問題があるのかもしれません。

 次に現代の4コママンガ、「ジキル博士とハイド氏」の1コマ目を見てみましょう。

作画:斉田直世

 親分猫が「ジキルとハイドは同一人物だったんだ」と言っていますが、これは、「これから、二重人格の話をするぞ」という宣言です。作者(私のことですが)は、「二重人格の話をするんだ」という意を立てたのです。

 次は「星の王子さま」の1コマ目です。

作画:斉田直世

 「星の王子さまの特集ですか」「はい、先生にもエッセイを書いてほしくて」という会話が見られますが、このシーンは「星の王子さまの原稿を巡って繰り広げられる作家と編集者の駆け引きを描くぞ」という作者の宣言です。

 次は「たけくらべ」です。

作画:斉田直世

 お花畑で可愛いメス猫が遊んでいます。子分猫が「あれが有名な美登利ですよ」と親分猫に紹介しています。これは、「美登利ちゃんの話をするぞ」という宣言です。

 次は「蒲団」です。

作画:斉田直世

 岸谷編集長が小倉編集部員に「新婚生活は楽しいか?」と訊いていますが、これは、「新婚生活の生々しい話をするぞ」という作者の宣言です。

 以上、4つのマンガの1コマ目を見てきましたが、どれも杜甫の五言絶句の一行目と同じ「宣言」でした。まあ、杜甫の五言絶句を型にして作っているのですから、当然、そうなるわけですが、とりあえず、1コマ目は宣言と覚えておいてください。

具体的な内容に踏み込む

 杜甫の五言絶句の二行目を見て

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