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東京五輪は中止すべきだ――感染拡大、選手の安全、治療薬・ワクチン開発

杉田聡 帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)

 新型コロナウイルス禍は依然として焦眉の問題である。日本では感染拡大に鈍化の傾向が見られ、緊急事態宣言が解除されたが、世界的に見れば楽観視できる状況ではない。それどころか、憂慮すべき事態が次々と明らかになっている。

「後発国」での感染拡大

 まず、コロナ禍「後発国(地域)」での感染が、広がっている。

 バングラデシュで100万人以上が密集状態で暮らすミャンマーのイスラム教徒・ロヒンギャ難民のうちに、ついに感染者が出た(朝日新聞2020年5月16日付)。WHO(世界保健機関)は、感染が封じこめられなかった場合――その可能性は多くの感染症研究者によって指摘されてきた(杉田注)――には、アフリカで今後1年間に8万9000~19万人が死亡する可能性があるという、非常に暗い見通しを公表した(しんぶん赤旗2020年5月10日付)。また、いったん感染封じこめに成功したシンガポールで、1部屋に10人前後がすしづめ状態で暮らす外国人労働者の間で、感染が急増していることがわかった(同2020年5月17日付)、等。

今後はアフリカの感染拡大が危惧されている=南アフリカ・ケープタウン、Chadolfski/Shutterstock.com今後はアフリカの感染拡大が危惧されている=2020年5月6日、南アフリカ・ケープタウン、Chadolfski/Shutterstock.com

 以前から、医療体制の不十分なアフリカ諸国において、あるいは各地の難民の間に感染が広がった場合、長期にわたって甚大な被害を及ぼす危険性があると指摘されていたが、それはもはや杞憂ではなくなった。

「先発国」での感染増大と感染第2波

 また、韓国や中国に見るように、封じこめの可能性が見えていたコロナ禍「先発国」において、感染の第2波が起き始めている。少なくない専門家が、一度収束しても第2波、第3波はかならず起こると警告を発してきたが、第2波は現実のものとなった。

 一方、インドやブラジルなど、「先発国」の一部において急激に感染が増えている例が最近めだつ。インドは5月半ばにはアジアで最多の感染者をかかえることになった。ブラジルは、5月22日にアメリカについで世界第2位の感染国となった。しかもここでも、アメリカと同様に貧困地区で感染者が急増している。世界的に見れば、感染者は最近、毎日10万人に達する勢いで増えている。

ブラジルの感染者は世界で2番目となった=サンパウロの墓地でブラジルの感染者は世界で2番目となった=サンパウロの墓地で

 また、ワクチンや治療薬の開発がいつ頃可能になるかは、いまだ見とおせない。アメリカの企業が、ワクチンの臨床試験によって接種した人に抗体ができたという報道もあるが(朝日新聞2020年5月20日付)、まだ試験の域を出ていない。

 しかも、単に抗体を確認したことと免疫を作ることは別の事柄である。ウイルス押さえこみに不可欠な後者の道筋は見えていない。またそもそも、治療薬と異なりワクチン(予防のための抗原)は健康な人に接種されるため、治療薬以上に安全性・有効性――ことに安全性――の確認に時間がかかる。来年の五輪ありきで開発日程を組めば、安全性の確認をないがしろにする危険性を生む。

 また仮に一定の効果が得られたとしても、

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