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吉村大阪府知事の高評価とポストトゥルース時代(下)~ファクトより情緒

木村涼子 大阪大学大学院人間科学研究科教授

吉村府知事の頻繁な「発信」

 現在、吉村知事のインスタグラムのフォロワーは20万を超えている。3月初めに投稿された吉村知事の散歩中の写真に対して、「イケメンすぎ」「自撮りかわいい」というコメントが、「殺到」していた(「吉村知事、オフの散歩ショットに異例の“黄色い声”殺到」スポーツ報知、2021年3月8日)。なるほど、大阪城天守閣をバックに、「三密を避けて散歩。 #宴会を伴う花見は控えましょう。」とのコロナ感染対策に関するメッセージを添えた自撮り写真では、すっきり整えられた眉や額が見えている。

 この記事が紹介したコメントの一つが以下である。「大阪の知事が吉村さんで本当に良かったです。私はずっと吉村さんの発信された事を理解し、その通りにしてます。大阪のためにいつもありがとうございます」。

 吉村知事は確かに頻繁に「発信」はしている。彼の発言や姿は目立っている。だが、目立つ動きの中には、失策と思われることが多い。2020年4月に松井大阪市長と共に呼びかけた雨ガッパ寄付、5月設定の独自基準「大阪モデル」の揺れ、十三市民病院を突然コロナ専門病院に指定したことによる混乱、8月の「イソジンはコロナの陽性率を減少させる」と言い出した会見騒動、11月、コロナ禍が収まらない中での大阪都構想住民投票の強行、今年2月、緊急事態宣言の前倒し早期解除要請、4月、「飲食店に対するガイドライン遵守徹底のための見回り調査」の「見回り隊」、それらに加えて春から今も続く医療体制の逼迫問題(指摘される「医療崩壊」)など、途切れることなく物議をかもす施策を打ち出している。

うがい薬でのうがいを奨励する大阪府の吉村洋文知事=2020年8月4日20200804昨夏、イソジンなどのうがい薬が新型コロナウイルスの陽性者を減らすと訴えた吉村知事=2020年8月4日

 「医療崩壊」が懸念される状況は、維新の会による府政以前からの路線とはいえ、維新の会がそれを引き継いで進めてきた公的な医療体制の弱体化が、原因になっているとの指摘もなされていた。大阪府の地域医療を支えていた住吉市民病院が、市民の反対の声もむなしく2018年3月に閉院された。その跡地には民間病院を招致すると府は謳っていたが、その計画は頓挫したままである。住吉市民病院が存続していたならば、コロナ対策においても大きな役割を果たしたはずであった。

 また、感染者数が低下していた3月には、医療関係者などの反対を無視し、重症病床の約3割減を強行するという、現状を鑑みれば愚策としか言いようのない政策を展開している。

 にもかかわらず、現状を招いた行政責任の長として吉村知事への批判が噴出しているか、というと、上述したように支持は衰えていないようにみえる。

ポストトゥルースの時代?

Heidi BesenshutterstockHeidi Besen/Shutterstock.com

 この状況を読み解くためには、2016年を契機に盛んに使われるようになった、ポストトゥルース(ポスト真実)という言葉をキーワードとして考えるのが適当なのかもしれない。

 イギリスで2016年を代表する言葉(Word of the Year、オックスフォード英語辞典を出版するオックスフォード大学出版局が選考)として選ばれたのが、ポストトゥルース(post-truth)であった。その年、イギリスではEU離脱が国民投票で決定され、アメリカでは熱狂的にトランプ大統領が迎えられるなど、人々の情緒的な波動が政治を動かすことを印象づける出来事が相次いだ。

 この言葉は、客観的な事実や具体的な施策の作用よりも、心情や信条のアピールが重視される政治・社会状況を指して用いられることが多い。時には事実と異なる情報が、ひとびとの感情に訴えかけながら、「真実」としてみるまに広がっていく危険な事態をも招く。2020年のアメリカ大統領選挙で「不正」があったとのトランプ大統領による主張の拡散、その末に1月の議事堂への乱入事件が生じたことも、ポストトゥルース時代の象徴的な事件だと言われる。

 コロナ対策においても、

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