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ワクチンのデマを信じて接種を避ける若者はなぜ多いのか?

背景にある若い世代への冷酷な政治

勝部元気 コラムニスト・社会起業家

 新型コロナウイルスのワクチン接種が進む一方で、若い世代ではワクチンを「打ちたくない」と考えている人が、一定数いるようです。筑波大学の原田隆之教授の調査では、20代、30代の2割以上が「多分打たない」「絶対打たない」と回答しました。

 理由としては、「副反応への不安」が最多です。確かに、その懸念自体は分からなくもありません。若い世代のほうが副反応が出やすい傾向にあるようで、厚生労働省が医療従事者を対象に実施した「新型コロナワクチンの接種後の健康状況調査」でも、2回目接種後(ファイザー)に37.5度以上の発熱があった20代の割合は50%に達し、60代の約3倍に及んでいます。

 実際、私もこの記事を書き終える前々日に1回目の接種を終えたところですが、接種前は他のワクチン接種時より少し不安を覚えました。このような副反応に関する実際のデータに触れていない(触れ方が分からない)人々は、おそらくもっと不安なのでしょう。

芸能人にも広がる「ワクチンで不妊」というデマ

danielmarinshutterstockdanielmarin/Shutterstock.com

 それに加えて、副反応に関する様々なデマが広がっていることも、ワクチン忌避に影響しているようです。インターネットを中心に、「不妊になる」「遺伝子を組み替えられる」など、科学的根拠の無いデマが蔓延しています。

 中には著名人でも信じてしまった人がいるようです。たとえば、タレントのりゅうちぇるさんは、2021年7月4日の「サンデー・ジャポン」(TBS系)で、「接種券は届いているけど、(子ども)2人目が欲しいなとも思っているので、僕たちはまだ待ちたいなと」と発言していました。
(*一方では「打たない選択肢が誰かに迷惑をかけてしまうのではないかとそういうところで悩んでいる」とも語っています)

 また、藤田ニコルさんも6月27日の「サンデー・ジャポン」で、「聞いたのはワクチンが卵巣にたまる。ちょっと怖くなりませんか? (将来)子供を産みたいなと思ったら怖いなと思いました。うそなのかも分からないですけど」と発言していました。

ワクチンデマが広がるのは政府にも責任がある

 このような状況を憂慮して、政府や医療関係者はワクチンの有意性や正確な副反応に関する情報を伝えようとしていますが、デマは広がりやすく真実は広がりにくいため、正しい情報が知れ渡るまでにはかなりの時間がかかりそうです。

 ただし、これには政府の責任も一部あると言わざるを得ません。政府が発する情報には信用に値しないものや、国民を欺くかのように思えるものが目立つからです。

 たとえば、モデルナのワクチン供給量が減ったにもかかわらず、河野太郎ワクチン担当大臣は事実を知ってから約2カ月も経った都議選後まで公表しませんでした。丸川珠代五輪担当大臣は東京五輪のボランティアに対して「1回目の接種で、まず一次的な免疫をつけていただく」と発言し、医療の専門家から「一次的な免疫という医学用語は存在しない」と指摘されました。ワクチン接種1日100万回の達成時期が菅首相と閣僚で異なっていたこともありました。

 薬害エイズ問題以降続く保健行政に対する根強い不信を打ち消すどころか、むしろますます不信を招く発言をしているのは自分たちであり、同じ口で「これが正しい情報です!」と言われても、信用するのは無理な話です。「反ワクチン」によるデマが拡散しやすい土壌を作っているのは、他でもない政府自身だと言えるでしょう。

若い世代でデマが広がりやすい核心的理由

6月、宮崎県延岡市の住宅街に投函された怪文書。ワクチン不要論や接種の危険性を説く内容で、差出人は匿名 一部を加工6月、宮崎県延岡市の住宅街に投函された怪文書。ワクチン不要論や接種の危険性を説く内容で、差出人は匿名(一部を加工)

 それにしても、なぜ若い世代にデマを信じてしまう人が目立つのでしょうか? これに関して、一部の専門家から、若い世代ほどSNSに触れる機会が多いため、ネットのデマに晒されやすいことが原因ではないかと指摘されています。

 確かに日常生活で実際に触れ合う人々以上に価値観の近い人たちと交流することの多いSNSでは、エコーチェンバー効果(閉じたコミュニティの内部で、同じ意見が繰り返し反復されること)が働きやすく、デマが広がりやすい構造になっているというのは事実でしょう。

 ですが、私はその説にはやや疑問です。というのも、

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