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つかドラマの結末、そして、イチャモンを少し

『つかこうへいのかけおち'83』⑨〈完〉

長谷川康夫 演出家・脚本家

別作品と似たオープニングへの違和感

 さて、つかこうへいによるNHKのドラマ、『かけおち'83』に関する話も、この項で最後となる。

つかこうへい=1986年撮影
 以前の回で予告しながらそのままになっていた、このドラマへの僕の唯一のイチャモンを、そろそろ書いておかなければなるまい。

 僕がどうしても引っかかるのは、オープニングのタイトルバックとなる、大竹しのぶのダンスなのだ。

 いや、それ自体に何か問題があるわけではない。

 ここで大竹は『スタンドバイミー』という洋楽に合わせ、スーツ姿の男性2人を従えて踊る。振付は萩原流行だった。ドラマの中では康夫の弟としてワンシーン登場するだけの彼に、つかはその役目を与えることで、ここでもまた「落し前」をつけたのだ。

 もちろんこのタイトルバックもすべてつかのアイデアで、このとき大竹に着せたのは黒いレオタードである。

 それはつまり『つか版・忠臣蔵』での、松坂慶子によるオープニングシーンと完全に被るのだ。違うのは、大竹のレオタードがミニスカートボディコン風であるのと、松坂の場合はこのときバックで踊った石丸謙二郎と萩原流行がほぼ映らないことだけだ。

 そもそも彼ら2人を従えてのダンスシーン自体が、『蒲田行進曲』の舞台での根岸季衣による場面の焼き直しだし、さらに言えば、その始まりは『ストリッパー物語』=『ヒモの話』で根岸が男と絡む(相手役は公演ごとに変わったが)ダンスだった。

 つかはこの形がよほど気に入っているらしく、こうして何度も同じパターンを使ってみせた。

 しかし別々のドラマのオープニングに、わずか半年の間隔でそっくりのシーンが繰り返されるなど、やはりルール違反だろう。NHKサイドはたぶん『つか版・忠臣蔵』のことに気づいていなかったのではないか。とにかくつかの方はまるで無頓着だった。

タキシード、初めは意味があったのだが

 実はつかこうへいにはそういうところがある。いったん何かで評判を得ると、ためらうことなく平気で多用するのだ。

 ひとつ例を挙げるなら、つかの結婚披露宴での僕らの衣装ではないが、男たちのタキシードだろう。

 『蒲田行進曲の』カーテンコールでは、それまでの「四畳半芝居」をすべて稽古着で押し通した小夏役の根岸季衣が、純白の燕尾服姿で現れるのだが、それを迎えるのは、全員、これも打って変わった黒いタキシードに身を包んだ、芝居の登場人物たちなのだ。

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