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黒川紀章設計「カプセルタワー」再生に新展開

中銀カプセルタワービル、美術館への寄贈や「移動」を目指す

神田桂一 フリーライター

 中央の柱にカブセルを取り付けた「中銀(なかぎん)カプセルタワービル」(東京・銀座)。1972年に完成したこの建物は、建築家・黒川紀章(1934~2007)の代表作の一つで、国内外の人々に愛されてきた。しかし、ビルの解体が本決まりとなった。この建物を後世に引き継ぐ活動をしてきた「中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト」は、取り外したカプセルを美術館へ寄贈したり、宿泊施設などに再生したりしようとしている。プロジェクト代表の前田達之さん(54)に聞く。

完成したばかりの中銀カプセルタワービル。「21世紀の住宅」と注目された=1973年、東京都中央区銀座

黒川紀章さんの思想受け継ぐには

黒川紀章=1994年撮影
 ――プロジェクトの活動と現状を教えてください。

 前田 このビルは完成した時に140のカプセルが分譲され、普通のマンションと同じように所有者たちが、組合を作って管理してきました。私はこの建物にひかれて、2010年に最初のカプセルを購入し、多い時で15戸(個)を所有していました。現在も複数のカプセルのオーナーで、管理組合の役員もしています。

 ビルの建て替えは20年ほど前からずっと検討されていました。銀座という「良すぎる立地」なので、建物を壊して新築するのが一般的なやり方でしょう。でも黒川さんが「メタボリズム」という思想に基づいて作った建物ですから、それに沿って、最大の特徴であるカプセル交換を実現することでビルを新しくしてゆけないかと、2014年に「保存・再生プロジェクト」を始めました。

 「メタボリズム」は「新陳代謝」の意味で、建築や都市を、時代に応じて空間や設備を取り換えながら変化させてゆくという考え方。中銀カプセルタワービルはその代表的な建築。着脱可能なカプセルを取り換えながら存続させてゆくプランだったが、実際には一度も交換されなかった。カプセルは全て同じ構造で、広さ約10平方メートル、直径130センチの丸い窓がある。セカンドハウス、仕事場、趣味のための空間など、いまもオーナーが様々な用途に使っている。

SF的でレトロ、海外でも人気、無二の存在

夕闇の中の中銀カプセルタワービル

 ――外観も内装も、「映え」ますよね。

 前田 撮影で使いたいという依頼は多いです。タレントの写真集やファッション写真、ミュージックビデオ、テレビのバラエティー番組など多岐にわたり、建築ファン以外にも広がりがあることを実感しています。

 ハリウッドの映画にもよく登場します。X-MENシリーズの『ウルヴァリン:SAMURAI』では、実際はサイズの問題があってオーストラリアに大きめのカプセルを作って撮影されたのですが、外観などはちゃんとロケしていました。先ごろ公開された『ブラック・ウィドウ』にも登場して話題になりました。SF的で、レトロな感覚もある。唯一無二の存在なので。

 ――それでも解体は決定的ですか?

 前田 はい、残念ですが。

 建物をどうするかは管理組合総会で決まるため、これまでは「保存派」のオーナーを増やす活動をしてきました。一方で、見学会などの開催を通して、ビルの魅力を広く知ってもらう情報発信などを続け、手応えを感じていました。

 しかし、コロナ禍の中、保存派のオーナーが徐々に減ってきました。建物は35年間大規模修繕を行っていないため、老朽化の危険性を考える必要もあります。管理組合は2021年3月に敷地売却を決議しました。まだスケジュールは決まっていませんが、ビルは解体の方向です。

 そのため現在は、ビルの記録を本にまとめることと、解体の際にカプセルを取り外して、われわれプロジェクトが引き取り、活用する計画を進めています。黒川紀章建築都市設計事務所の協力を得ながら、様々な再生案を検討しているところです。その資金の一部に充てるため、2021年8月31日までクラウドファンディングを実施しています。

カプセルを美術館へ贈りたい

中銀カプセルタワービルの内部
 ――公的な助成は受けられないのでしょうか。

 前田 数年前、東京都知事に観光資源としての保存を訴えたことがあります。海外から建築物を見るために来日する人は多く、中銀カプセルタワービルは特に人気があります。我々のプロジェクトでは定期的に見学会を開いており、月400~500人が参加されますが、コロナ前は、通常の回より、英語ガイドがつく回の参加者の方がずっと多かったほどです。しかし、民間の建物なので、援助は受けられませんでした。

 丹下健三(1913~2005)設計の国立代々木競技場(東京都渋谷区)が国の重要文化財になり、世界文化遺産を目指す運動が盛り上がるなど、現代建築を文化財として評価する方向は定着してきています。中銀カプセルタワービルは海外の専門家からも高く評価されています。でも、すぐに指定、保護の対象になるわけではありません。ですから、われわれとして、いまできることを考えています。

 ――それが、カプセルの取り外しと、活用ですね。

 前田 潰してしまうと何も残りませんから。黒川さんは設計された当初、カプセルを交換するだけではなく、荷物を入れたままカプセルごとトラックに乗せて引っ越しする「移動」も考えていた。ですので、まず、カプセルを「他の場所に持っていく」ということをやりたいと思います。

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