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「カムカムエヴリバディ」の「不穏な未来」と「暗闇」が表す傑作の予感

矢部万紀子 コラムニスト

 2月某日、とあるフルーツパーラーに入った。種類多すぎのパフェメニュー。悩むと気づけば、聞き覚えあるインスツルメントのBGM。サビになった。

 ♪なーみだーの河もー、海へーと帰るー。誰のー心もー、雨のちー、晴れるやー

 よみがえる歌詞。ゆず「雨のち晴レルヤ」、朝ドラ「ごちそうさん」(2013年度後半)の主題歌だった。

 放送初回に「雨のちー、晴れるやー」を聞いて、私の中の渥美清がつぶやいた。「それを言っちゃあ、おしまいよ」。だって、おいちゃん、朝ドラって、そういうもの。最短でまとめるなら、人生、雨も降るけど最後は晴れ。わかって見ているのに、歌われてしまうとなー。という記憶。

 現在放送中の「カムカムエヴリバディ」の主題歌「アルデバラン」(AI)は、全く違う。こう始まる。

 ♪君とわたーしは、仲ー良くなれるかな、この世界が、終わるそのまーえに

 「世界=終わる」という認識に立っている。「きっといつか儚く枯れる花」「不穏な未来に手を叩いて」と続く。「花=枯れる」「未来=不穏」という認識は、「雨のち晴れる」の気楽さとは真逆だ。そういう歌に当初は面食らったが、回を重ねるうち、これこそが「カムカムエヴリバディ」だと思うようになった。

朝ドラ「カムカムエヴリバディ」で3人のヒロインのうちトップバッターを演じた上白石萌音さん=撮影・村上健朝ドラ「カムカムエヴリバディ」で3人のヒロインのうちトップバッターを演じた上白石萌音さん=撮影・村上健

 というわけで「カムカムエヴリバディ」。控えめに言って、かなりの佳作だ。朝ドラらしさを踏まえつつ、今の時代の価値観を提示している。朝ドラの新たな扉が開きつつある、とさえ思っている。

朝ドラ史上初の試み、3世代を描くその効果は

 朝ドラとは「何者かになりたい女子」を描くもの。そう定義している。「何者=職業」とは限らない。が、そこへ向かって歩く姿が骨格で、そこに自分が重なれば重なるほど入り込める。「安子、るい、ひなたと、三世代の女性たちが紡いでいく、100年のファミリーストーリー」(番組ホームページ)という「カムカムエヴリバディ」では、トップバッターの安子(上白石萌音)からその骨格がぐいぐい描かれていた。

 1925(大正14年)生まれの安子は、小さな和菓子屋の娘。3話で繊維会社の御曹司と出会い、“身分違い”の恋が始まり、15話で結婚、16話で出産、20話で御曹司は戦死する。スタートから1ヶ月で伴侶を失うという朝ドラ史上最速(たぶん)の展開。

 そこから安子はどんどん変わる。娘を1人で育てることになり、家業の和菓子作りで生計を立てる。食料事情から最初は芋飴、そこから小豆を煮ておはぎを作る。おいしいと評判になり、卸売りもする。寝る間も惜しんで作る。恋する少女が瞬く間に働く母に。心を持っていかれた。

「カムカムエヴリバディ」の「カムカムエヴリバディ」の脚本家・藤本有紀さん
 脚本の藤本有紀さんは、15年前にも朝ドラを書いている。落語家になる女子を描いた「ちりとてちん」(2007年度後半)。私はこの作品で、朝ドラの骨格を理解した。だから藤本さんが安子の自立を巧みに描くのは当然で、2度目の執筆にあたり、新たな朝ドラを作ると決意したのではないかと思う。3世代を描くという朝ドラ史上初の試みがその第一歩で、効果のほどは見ていてよくわかった。

暗闇を見つめ、耳を傾ければ、世界は開ける

 安子、るい(深津絵里)、そして2月10日放送回で高校3年生になったひなた(川栄李奈)。健気な安子から複雑なるいになり、ひなたは今どきの女の子。そんなキャラ変は、ドラマに新鮮さを与える。が、それだけではない。ヒロインが変われば、違う価値観を打ち出せる。これが藤本さんの狙いだったと思う。

 まずは安子→るいで、

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