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経営破綻の劇団わらび座、「どん底」からの再出発

創立70年で「民事再生」、人と人との交流を力に新たな一歩

管野紀子 一般社団法人わらび座理事

 創立71年という日本有数の歴史を持つ劇団わらび座は、田沢湖に近い秋田県仙北市に本拠を置き、演劇と教育、観光などを組み合わせたユニークな活動で全国に名を知られてきた。その老舗劇団がコロナ禍で経営に行き詰まり、昨年11月、民事再生の手続きが始まった。一般社団法人として「どん底」からの再出発をしたわらび座の今を、管野紀子理事がつづる。

「芸術+リゾート」目指し、順風だったが……

 2021年11月2日、「劇団わらび座が倒産、民事再生へ」のニュースがかけめぐり、全国の皆さまから驚きと心配の声が寄せられました。同時に、再生を目指すことへの多くの励ましの言葉もいただき、感謝の気持ちがわき上がりました。

 1951年に東京で創立したわらび座は、53年から民族芸能の宝庫である秋田県を本拠に、日本の歴史や伝統をモチーフにしたオリジナルの歌舞劇やミュージカルを創作してきました。全国津々浦々の学校やホールを巡る公演を重ね、海外でも公演。74年には本拠地に「わらび劇場」(700席)が完成しました。

わらび座の本拠地にある「わらび劇場」=秋田県仙北市
 80年代には数年かけて、アメリカのリージョナルシアター(地域で活動する劇場)を研究して、新しいタイプの「芸術+リゾート」を構想。92年にはホテル「温泉ゆぽぽ」を開業し、96年には「大自然の中のアートヴィレッジたざわこ芸術村」(現「あきた芸術村」)がオープンしました。

 現在の「あきた芸術村」には、約10万平方メートルの敷地に、劇場、稽古場、ホテルに加え、クラフト家具の製造と木工・陶芸体験などができる「森林工芸館」、秋田県初の地ビール「田沢湖ビール」の醸造所、ブルーベリー農園、食事処などの施設が点在しています。

 「あきた芸術村」には個人・団体の観光客に加え、多くの修学旅行生が訪れます。「生きる力を創る」を目標に、わらび劇場での観劇、農業や工芸体験、演劇や踊りのワークショップなど多様なプログラムを用意し、北海道から九州まで、中高生を中心に、毎年約15000人を受け入れ、これまでに延べ40万人以上が「わらび座体験」をしてきました。

 こうした事業を運営してきたのは「株式会社わらび座」です。従業員は約200人で、ほぼ半数が劇団(俳優含む、公演、劇場など)の仕事をし、半分がホテルなどの事業に従事してきました。

 会社の経営は順調で、2009年には過去最高の売上げ20億5700万円を記録しました。

 もちろん創作活動も活発に行ってきました。

 わらび座には俳優、劇作家、演出家、様々な部署のスタッフらが所属しており、施設の中に、稽古場、道具や衣装などを作るアトリエなどもあります。舞台作りのすべてが秋田にそろっているのです。そこに、東京から劇作家や演出家を招くこともしばしばあります。栗山民也さん、横内謙介さん、マキノノゾミさん、鈴木聡さん、高橋知伽江さんといった第一線で活躍する劇作家・演出家たちとコラボレーションした作品も多く、たくさんの劇団の財産が生まれています。

 コロナ禍の前には、全国ツアー、学校公演、「わらび劇場」公演など合わせて、年間約800ステージの公演を実施してきました。

 拡大・複合化の20年を経て、株式会社わらび座に逆風が吹き始めました。

コロナで「ふれあい」の全てを奪われた

 2011年東日本大震災。直接の被災地ではありませんでしたが、春の修学旅行3300人分がキャンセルになりました。それだけで相当な減収です。その後も、さまざまな形で影響は大きく長く続きました。さらに、団体旅行の減少、顧客の高齢化、設備の老朽化など課題も目立ってきました。

 そこに、2020年春、新型コロナによる危機がやってきました。

 この年に予定していた年間500回近い全国ツアー公演も、本拠地での年間180回のわらび劇場ロングラン公演も、15000人の子どもたちがやってくる修学旅行も、宿泊予約もすべてが中止、中止、中止。

 コロナの被害を最も大きく受けた「ライブエンターテインメント」と「観光」は、わらび座を支える二本柱です。そこが直撃されたのです。「人と人とのふれあい」を何よりも大切にしてきたわらび座のあり方が根底から覆され、できることをほとんど奪われてしまいました。

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