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『トップガン マーヴェリック』は若者も年を取った人もやる気にさせる

甘んじない、ただそれだけ

野菜さらだ コラムニスト/言語聴覚士

 「良かったわー」

 映画『トップガン マーヴェリック』のエンディングロールの最後の文字がスクリーンから消え、館内の照明が付いた瞬間に、隣からその声は聞こえてきた。声の主は大学生くらいの男性グループ。映画が始まる前にポップコーンをポリポリ食べており、集中して映画を見たいと思っていた私はその音に少し「イラッ」としていたほどだった。

 その「イラ」は、「良かった」の一言で吹き飛んだ。前回論座(「トップガン再来、トム・クルーズが同世代の私たちに言いたいこと」)で私自身の感想は散々書いた通りであるが、トム・クルーズと同世代の私たちには面白い以上の何かをもたらすであろうことは容易に想像できる。

Ned SnowmanNed Snowman/Shutterstock.com

 しかし、20歳前後の若い世代にも「良かった」と言わせるとは? と思わず、隣の彼らに「面白かったですか?」と尋ねてしまった。「面白かったっす」とすぐに返事が戻ってきた。聞けば(見るのは)「3回目」だという。

 ネット上にも同じように若い世代から「すごい」という声が溢れている。そして、異口同音に「映画館で観るべき」と言っている。「今まで生きていて一番心に残る映画だった」という20代のコメントには逆に驚いたほどだ。

一作目も知らず、誘われても気乗りせずついて行っただけだが見事にハマった。映画の中に入りたい!!とどれだけ思ったか! 今まで生きてきて一番心に残る映画だった。初めて同じ映画を2回以上見に行った。(一部抜粋)

 そうか、こんな若い世代にもマーヴェリックは響くのか……と思うと同時に、これは私が20代のときの初代トップガンを見たときの感動と瓜二つでもあった。初めて同じ映画を複数回観た映画──それがトップガンであったことも思い出された。今回は初代トップガンを知らない若い世代にも響くものは一体何かという別の視点で考えてみたい。

やる気にさせてくれるのは、トムが自らに甘んじることがないから!?

 1986年公開の初代トップガンをリアルに見ているのは、おそらく当時中学生くらいがぎりぎりであろう。ということは、少なく見積もって今は50代以上がほとんどとなる。40代より若い世代は、DVDで見たとか、親が見ていたとか、知っていたとしてもライブ感はないはずだ。

 その世代のYouTuberが鑑賞後感をあれこれ動画で公開している。その筆頭は、チャンネル登録者数482万人を誇る、YouTube大学のお笑いタレント中田敦彦氏であろう。「己の強さは誰かのために使うべき!」と題した動画を7月11日にアップして、トップガンを大絶賛している。

 中田氏は慶應義塾大学を卒業後、吉本興業の芸人として活動していたが、2019年よりYouTubeで、特に様々なジャンルの話を図書紹介という形で配信、中でも歴史カテゴリーの面白さは群を抜いている(そういう筆者も何本も視聴している)。2022年7月現在のYouTubeチャンネル登録ランキングで20位に入り(「ユーチュラ」2022年7月、チャンネル登録者ランキング)、YouTuberとしてはある意味大成功を収めている人物である。

 その中田氏が、トップガンについての40分間の動画の半分は「己がこれからどうあるべきか」を語っているのだ。「自身がすでにレジェンドとして扱われることへの違和感」「俺だって、これからなんだよ」ということがトム・クルーズと重なるという。

 「チャンネル登録数を伸ばすとか、そういうことじゃないんだ」「みんなでYouTubeを盛り上げていきたい」「いろんな人の良さを引き出したい」と繰り返す。そして、「自分さえ良ければという自分中心」から、「他の幸せを願う」という価値観の大きな転換があったことを様々に言葉を変えながら切々と訴えているのだ。

 しかし、肝心のトップガンの中で「自分のことばかりではなく、他者のことも考えましょう」などと直接セリフを言う場面はどこにもない。しかし、なぜ中田氏はこういうメッセージを映画から受け取ったのだろうか。

 それは、トム・クルーズが全編を通して「映画館で観てこそ面白い映画を作る」ことに全力を尽くしているからだろう。そのために、例えば戦闘機シーンは実機を使い、自分はもちろんのこと、出演した俳優陣も本当に戦闘機に乗って高いG(重力加速度)に耐えながら撮影に臨むという、「実物の映像」にこだわりきった撮影をしたという。

 この点について、友人の娘さん(23歳)はこう語っている。「前作をアマプラ(Amazonプライム)で鑑賞したら面白かった(古い映画は現代の作品より映像技術的に劣る部分が多くあまり趣味ではないが、古さを感じさせることのないリアルさがあり飽きずに見られた)。YouTube等で予習動画を検索したところ、かなり大掛かりで撮影されていることがわかり、音質画質のいい映画館で見た方がいいと感じた」。

 試しにプレビューとしてYouTubeにアップされている動画(それでも、2800万以上の再生回数を誇っているが)を例えば自室で小さいスマホの画面で観てみよう(TOP GUN 2 MAVERICK: 8 Minute Trailers)。

kuremo/Shutterstock.comkuremo/Shutterstock.com

 一度、映画を観た人には、「あの映画での体感を思い出す刺激」にはなるだろう。しかし、決定的に違うのは

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