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現実を鋭く、愉快にえぐるーー高校演劇全国大会【上】

3年ぶり平常開催、現代演劇の多様性のショーケース

工藤千夏 劇作家、演出家

 「文化部のインターハイ」と呼ばれる全国高校総合文化祭東京大会「とうきょう総文2022」(文化庁、公益社団法人全国高等学校文化連盟など主催)の一部門として、第68回全国高等学校演劇大会が開催された。劇作家、工藤千夏さんが高校演劇の現在地を、2回に分けてつづる。
 【下】は9月20日午後4時公開予定です。

3年ぶり「平常開催」、無事の上演に安堵

 この夏、第68回全国高等学校演劇大会(東京大会)が3年ぶりに平常開催された。オミクロン株が猛威を奮い、演劇界では公演中止や延期の報が毎日のように聞かれ、ひやひやしていたが、ウェブ開催だった高知大会(2020年)、参加校の部員と関係者しか観劇できなかった和歌山大会(21年)を経て、ようやく観客を迎え、7月31日から8月2日まで、なかのZERO(東京都中野区)で、参加予定12校が1校も辞退することなく無事に上演を果たした。

 ウェルメイド・コメディ、ポストドラマ、現代口語演劇、SF活劇、ダーク・ファンタジー、学園ドラマ、反戦朗読劇……現代演劇の多様性を示すショーケースのようだった大会の様子をレポートする。

 昨年まで一部の地域にあった舞台上の厳しすぎる規制(俳優は必ずマスク着用、演じ手同士が接触したり、向き合ったりしてはいけない、等)はなくなっていて、ほっとした。

高校演劇全国大会が開催された「なかのZERO」=東京都中野区、中村忠夫撮影、全国高等学校演劇協議会提供
 ただ、密を避けるために入場者の申し込み枠を厳しくしたため、参加校以外の演劇部の部員や顧問が参加を見合わせたり、審査員講評を上演校の生徒と顧問しか聞くことができず、せっかく来場した若手顧問が門前払いされたりしたのは残念だった。大会には指導者講習の場でもあるという視点が欠如していたのではないだろうか。一般観客席と大会参加者・関係者席の配分のバランスの悪さは、感染症対策の観点からも気になった。

 大会の内容は極めて充実したものだった。バラエティに富んだコンクール参加の12作品、特別支援部門・東京都立志村学園『夕鶴』の特別上演、幕間に行われた生徒講評委員会のディスカッションも含めて、見応えがあった。それぞれ自分たちがやりたい演劇に自覚的で、かつ、その目的地に到達していた。

 子どもの貧困や格差社会などコロナが炙り出した日本の「現在」を抉る作品もあれば、コロナはあるけれど、何も変わらず日々は続くという達観した世界観も見られた。共通するのは、コロナという単語を出そうが出すまいが、マスクを着用しようがしまいが、今を生きる高校生の日常には常にコロナがあるということだ。

 大会の様子を取材した「青春舞台」が2022年9月23日午前0:30~2:30、NHKEテレで放送される。後半は最優秀賞の舞台を中継する(11月5日14時から再放送の予定)。

コロナで失われた時間や思いは取り戻せるか

 北海道大麻高等学校『Tip-Off』、岐阜県立岐阜農林高等学校『衣』、愛媛県立松山東高校『きょうは塾に行くふりをして』は、いずれもコロナによって喪失したものを見つめ直し、それを取り戻すべく奮闘するドラマである。

 コロナ禍の2年半という時間は、高校生にとって大人が考えるよりずっと切実で、その諦念の闇は深い。未来にどう踏み出せるのか、皆、一様に不安を抱えているように見える。それをどう表現するか。3作は見事に方向性が違った。

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