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メディア企業の採用と育成2013 NHK、日経、読売、朝日採用・教育担当者座談会「覚悟を決めた若者を求む!」

 朝日新聞が発行するメディア研究誌「Journalism」3月号の特集は「メディア企業の採用と育成2013」です。WEBRONZAではこの中から、NHK、日経、読売、朝日各社の採用・教育担当者による座談会「覚悟を決めた若者を求む!」をご紹介します。「Journalism」は、全国の書店、ASAで、注文によって販売しています。1冊700円、年間購読7700円(送料込み、朝日新聞出版03-5540-7793に直接申し込み)です。2月号はただいま発売中です。

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メディア企業の採用と育成2013

NHK、日経、読売、朝日採用・教育担当者座談会

「覚悟を決めた若者を求む!」

NHK 細田修二

日本経済新聞 藤井達郎

読売新聞 吉山隆晴

朝日新聞(採用担当) 堀江 浩

朝日新聞(記者教育担当) 岡田 力

上智大学文学部新聞学科教授 司会 音 好宏

 採用活動の12月解禁が2年目を迎え、活動の短期化に企業や学生は対応できたか。メディア人気の低落や就職志望学生の傾向など、各社採用・教育担当者5人に本音で語ってもらった。 (編集部)

座談会出席者は、左から朝日・岡田、同・堀江、NHK・細田、司会の上智大学・音、日経・藤井、読売・吉山の各氏

音好宏(司会) 昨年度から会社説明会の解禁が12月になったことで、この座談会を開いている1月末あたりは、就職活動中の学生たちがいちばんバタバタしている時期なのかなと思います。採用を担当する皆さんは、どう感じていますか。

日本経済新聞 藤井達郎氏

藤井達郎(日経) 説明会の場などで学生の皆さんから出る質問などを聞いていると、まだ業界や企業の研究がこなれていないのかなと感じる部分はありますね。その質問の答えはもう会社のウェブサイトに載ってるじゃないかと……。もちろん、そういう素朴な質問が出ることが一概に悪いというわけではないですが。

 もう一つ感じるのは、昨年からの傾向として、マスコミ志望者の中に理科系学生が増えたことです。これは、もしかすると東日本大震災の影響かもしれません。なぜかと言うと、原子力や電力関係の産業の業績が相当厳しくなって、理科系学生の就職の場がさらに狭くなっている。そこで、新聞社に入って、科学を知っている目でニュースを伝えたいという声が、理科系学生たちから出てきたのではないかと。それは感じます。

 藤井さんが入社したころとは、学生の雰囲気はかなり変わったと感じますか。

藤井 私のころのマスコミの採用は、一発勝負というか、11月初めに各社の試験が集中していて、受けられるのはせいぜい3社とか、そんな感じでしたから。落ちたらもう留年という覚悟でした。その前に、他業界の採用活動は全部終わってましたので。

 それに比べると、いまの学生たちは一般企業とのかけ持ちは当たり前ですね。銀行とかメーカーとか、我々のころはマスコミとのかけ持ちが考えられなかったような企業の入社試験も受けている。いい、悪いではなく、そういう時代なのかなと思います。ただ、昔のほうが、より「マスコミ命」になりやすい環境にあったのかなという感じはします。

読売新聞 吉山隆晴氏

吉山隆晴(読売) 採用担当になって、まだ半年ちょっとの経験ではあるんですが、接してみて思うのは、すごく業界・企業を研究していて理解が深い学生と、そうじゃない学生の2極分化がかなりあることです。志望する度合いが高く、新聞の仕事を理解していて、的確な質問をしてくる学生がいるかと思えば、会社説明会などでブースに立ち寄ってくれるんですけど、ほとんど新聞も読んだことがないという学生さんもいる。

 私はずっと記者として取材現場にいて、主に年上の人とばかり付き合ってきて、久々に若い人たちと接したんですが、ちょっと驚きました。

 新聞を読んでいないのに新聞社志望ですか。乱暴というか、それは確かにすごいですね。

吉山 「これから読もうと思うんですけど」って、そう言う。もうちょっと研究して、覚悟を持って来てほしいなと思うところもありますね。

 ご自身のころと、ここは違うなというのを強く感じられることは?

吉山 そうですね。学生から出る質問が、「面接のときに『将来、何をやりたいか』と聞かれたら、どう答えればいいでしょうか」みたいなノウハウ的なことがかなり多いですね。そんなことを私に聞いたってしようがないと思うんですけど。

 あと、私たちのころには、企業に対して少し厳しい質問をする学生が必ずいて、たとえば読売新聞の社論や経営のあり方など、いろいろなことを聞く人もいましたが、そういう質問にはあまりお目にかからないですね。そこは物足りないような、ほっとするような感じですね。

■単純な答えを聞きたがる学生たちに不安を感じる

堀江浩(朝日) 私は、質問がとても軽くなったという印象を持っています。

 軽くなった?

朝日新聞(採用担当) 堀江浩氏

堀江 そうです。採用担当者からすれば、興味を持ってくれる学生が多くいることは歓迎すべきなのですが、やっぱり、新聞記者という仕事の使命感だとか重要性だとか、しんどい面もあるんだということを、どこまでわかっているのかなと心配になってしまうような学生たちの層が、昨年までに比べると増えているという感じがします。

 応募者数自体というか、興味を持ってくれる学生の数が、減っているという感じはあります。

 先ほど吉山さんがおっしゃいましたが、すぐノウハウや明確な答えを求める質問が増えているのは同感です。実名報道についてどう考えるかとか、記者クラブ問題についてはどうか、なんて質問する学生はほとんどいません。

NHK 細田修二氏

細田修二(NHK) 私は学生の2極分化を、昨年すごく感じたんです。12月解禁で就職活動の期間が短くなったので、とくに女子学生たちは最初からフルスピードで準備して、説明会でかなりハイレベルなことを聞いてくる人がいる一方、マスコミなのか商社なのか金融なのか迷っているような学生も多くて、大きな差があったんですね。

 ところが、今年は、昨年の苦労を先輩から聞いている学生がけっこう多いようで、比較的準備をしてきた学生の割合が増えたかなと感じました。昨年ほど2極化せずに、男子学生でもわりと勉強してくる人が増えている。相当に先輩から危機感を吹き込まれたな、という印象です。

 やっぱり男子学生のほうが準備不足が目立ちますか。

細田 それは明らかですね。たぶん、男性と女性との就職に対する危機感の違いもあると思うんですよ。自然に、その準備は女性が早目で、男性は立ち上がりは遅いけれど徐々にできてくる傾向はあると思います。

 ご自身のときとはかなり違っていますか。

細田 以前は、新聞の報道とテレビの報道の違いは何かというのが定番の質問でしたが、いま最も多いのは、記者とディレクターの違いは何かという質問なのです。NHKの場合は、記者も番組制作に参加して「NHKスペシャル」などを作るので、職種の違いがわかりにくいということもあるのは確かです。

 ただ、少し懸念するのは、学生たちの間に、報道の最前線で一つ一つのニュースを追いかける仕事よりも、じっくりと、まとまった作品を出したいという傾向が強いことです。学生たちが番組を非常にほめてくれて、それはうれしいんですが、実はそれって一本一本のニュースの積み重ねで作っていくもので、最前線で取材することが大型番組につながるんだというところが、十分に理解してもらっていないのかなという思いがあります。

■13年度の採用方針は前年並みまたは微増

 2012年度の採用実績と手応え、それから13年度の計画についてお話しください。

藤井 日経は、この春入社してくる12年度の定期採用分の総数は49人です。これは昨年よりも相当多く、15人増です。その前年、前々年は、リーマンショックの影響があって、採用をかなり絞ったんですね。ただ組織を維持するにはもう少し人数が必要だということになり、50人ぐらいをめどに採用活動しました。

 13年度にこれから採る学生については、もう少し増やしてもいいかなと考えています。ある程度人数を採っていかないと仕事が回らないということと同時に、採用をあまり絞ると、マスコミ業界全体の人気がさらに落ちるという悪循環につながりますから、一定数はしっかり採ろうと考えています。

吉山 読売の場合、12年度は前年よりも減っています。ただ、内定者と接してみて、質の面では、かつてほどマスコミや新聞社の人気がないなかで、しかも厳しいと言われる記者の仕事を理解したうえで、それなりに覚悟を持った人が来てくれているのかなという印象は持っています。13年度は、人数的には前年並みということになると思います。

 学生とは別枠で、経験者の採用も行いました。読売新聞はしばらく経験者採用をやっていなかったんですが、地方支局が若い人ばかりになって、やはりそれなりのノウハウを持った即戦力の記者が必要だという実感が、現場にはあります。若い人たちにとって身近な指導役、相談相手が必要だということもあるものですから。

堀江 朝日の12年度の採用は66人です。前年とほぼ同じ水準です。前々年はもうちょっと少なかったんですが、そこまで削ると、年齢構成上、組織を維持していくのがかなり厳しい。それに、新しいものを作っていかないといけない時代ですから、そこはやっぱり若い人に期待したいところがあるので、13年度の採用数はちょっと増やしたいと考えています。

 質の面で言うと、入社後の評価はわかりませんが、採用した我々の段階ではけっして悪くはないんじゃないかと思っています。記者として頑張るぞ、大事な仕事なんだと、やる気のある人たちが最終的に残ってきてくれているんじゃないかと感じています。

 心配なのは、応募者が減っているなかで、採用活動の対象となる母集団の確保の部分ですね。それが最終面接に残る人の質にも直結してきますから。みんなが優秀で選ぶのに困る状況ならば、うれしいですが、すごく優秀な人がいる一方で、そこまで届かないかなという人が最終面接段階でも残っている傾向があります。

細田 NHKは記者だけじゃなく、映像取材というニュースカメラマンと、ニュース映像編集の3職種を合わせて取材職と呼んでいて、その12年度採用者数が73人です。記者の数は、各新聞社とそんなに変わりませんし、傾向も同様に、増えもせず減りもせずです。

 ただ、NHKが新聞社と少し違うかもしれないのは、地方での採用活動に力を入れていることです。全国組織として、やはり地域の報道を支える人材がほしいんです。実際に、私が昨年、採用を担当してみて、もちろん首都圏は大学も学生数も多いので、数のうえでは首都圏の大学出身者が多いんですが、例年以上に東日本大震災の被災地を含めた地方大学出身者を採用できて、よかったと思っています。NHKはいま、大震災検証と復興の報道を最重点にしていて、そういった番組を見て、社会に貢献したいと、素直に言う地方大学の学生が多かったなという印象があって、すごくいい傾向かなと思っています。

 13年度の採用方針は、ほぼ前年並みでいくだろうと考えています。

■スマホ頼りの情報収集 人に会って話してほしい

 すでに各社、13年度の採用活動を始めていて、会社説明会も開いておられますね。学生たちに聞くと、就職活動には絶対スマートフォンを持ってなきゃだめだと言うんですね。ツイッターを使い、フェイスブックを使い、最近だとLINEでやっている。彼らのネットを使った就活を、みなさんはどう見ていますか。

藤井 おっしゃるとおり、スマホは必須だと思います。例えば、我々が説明会の参加申し込みを募るときは、先着順の場合もあります。ずっとパソコンの前にはいられないわけですから、スマホで応募することになります。それは携帯電話では無理でしょう。学生たちから見ても現実問題として、就活にからむ手続きは、スマホですべてをやらざるを得ない状況になっているのだろうと思います。

堀江 スマホを使って素早く反応してくれるのはいいのですが、その半面、ネットで簡単に企業の情報が手に入ることで、かえって仕事や各社への認識や理解が浅いという感じがします。現役の記者や社員に会って話を聞こうという意欲が薄いようにも感じます。簡単に手に入る情報だけで満足して、1回、説明会に行けばいいかなで済ませてしまう人が多いようにも思います。

細田 堀江さんと全く同意見です。NHKでは説明会を開いた後に、いろいろな報道現場で働く現役職員に自由に話を聞ける場を設けているんですが、昨年ぐらいから目立つのが、説明会が終わったらいきなりスマホをいじり出す学生たちです。あれ、みんな、直接話を聞けるよ、いまがチャンスだよって言ってあげないと、聞きに行かない。

 以前は、そこで粘って、何分も話し込む学生が多かったんです。もちろん、いまもそういう学生もいるんですが、説明会に出たら、それで終了、次の企業のエントリーか何かをしているのか、対話に行かない学生がいて、それは残念だなと。

吉山 情報を得るというのは人と会うことだよと、ことあるごとに、もう口を酸っぱくして言っているんですけど、やっぱり手軽に、それなりの質と量の情報が得られることの副作用が出ているなという感じはしますよね。

■短期決戦化する採用活動、インターンがより重要に

 12月解禁が2年目に入って、学生への対応法を変えたり、会社説明会のやり方を変えたりはしましたか。

吉山 こまめに大学などの説明会を回って、直接、学生と会ったほうがいいだろうということになりました。前年は大きな自社イベントを開いたりしたんですけど、今回はそういうのはやめて、足で稼ぐほうに重点を置きました。

藤井 今年1月には日経と三井物産との合同で学生向けの会社説明会を開いて、両社の社員にお互いの会社について語ってもらったりしました。これが応募や採用にどうつながるのかはわかりませんが、新しい試みです。そういうことも含めて、活動期間は短くなりましたが、やることはむしろ増えている感じです。また先ほどもお話がありましたが、私たちも地方の大学のマスコミ志望の学生にこれまで以上にアピールして、よい人材を採りたいとの思いがあります。

細田 短期決戦だった昨年の反省から、今回は記者志望の人には、仕事の内容をわかったうえで、ある程度、自分で腹を決めて受けてもらいたいと考えました。昨年12月の総選挙が終わるまでは選挙にかかりっきりで動けませんでしたが、それ以降、12月、1月にイベントを増やして、なるべく早く接触して、学生にもちゃんと考えて腹を決めてほしいなと。昨年はぎりぎり2月になって、やっとマスコミを志望しますという人が多かったですが、今年はイベントを早くした効果が出るかなと期待しているんですが。

堀江 12月にロケットスタートして、すぐ4月にゴールという状態ですよね。ロケットスタートを切れる人はいいですが、スタートを切れない人もいる。1月、2月になって、新聞記者って面白いなと思っても、採用試験を突破するのはなかなか難しいんじゃないかなと思うんです。もっと前から気持ちを深めてくれて、あるいは研究してもらえたら、いい結果が出たかもしれない、もったいないという気がします。それもあるので、新聞社ってこういう仕事なんだよとか、新聞を読むといいことあるよとか、伝える仕事っておもしろいと思わない? とか業界研究、仕事研究という趣旨で、10月、11月にも機会があれば出ていくことに力を入れました。

 それから、採用には直接からめていませんが、夏に学生インターン研修をやりました。彼らに我が社を受けてもらえるといいなという気持ちはありますね。

 上智大学でも、インターン研修をいくつかの新聞社、放送局などでお願いしていますが、やっぱりインターンを経験した学生は、必ずマスコミを受けると決めたという者が出る一方、この業界は自分には向いていないことがわかったという者もいて、方向性をはっきりするのには非常によいです。就職後のミスマッチを防ぐ効果が大きいですね。

藤井 日経ではインターンシップを9月に実施しています。記者コースは8日間にわたり編集委員をつけて、模擬取材的なことも含めてやっているので、学生の感想を読むと、いままで知らなかったことが非常によくわかったと。やっぱり、記者職に限らず、新聞社で働くことを体験するのは非常に役立つだろうと思います。

 ただ、たくさんの人数は受け入れられないんですよね。時間と手間と人手がかかるので、枠を増やしたいけれども、なかなか難しい。インターン参加者が全員、我が社を受けてくれるわけでもないですしね。ただ、インターンシップは、いい機会だなと思います。

吉山 読売の場合のインターンシップは、大学の教室などを使って大規模にやっているものですから、他社とはやや性質が違っています。5日間、新聞社の仕事を、記者職、業務職ともに経験してもらいます。内定者の中にもインターン経験者が何人かいますし、やっぱり会社や仕事への理解、あるいは社風を感じるというところには、役立っているだろうなと感じます。

■最大の筆記試験対策は新聞・ニュースに触れる

 学生たちの間ですごく話題になっているのは、大手新聞社やNHKが4月に実施する筆記試験の日にちが、例年は重なっていたのが、今年は少し分散して、複数の社を受けられるようになったことです。曜日の関係や会場の手配の都合など、各社いろいろ事情があるようですね。筆記試験の内容については、どういう傾向になりそうですか。

藤井 うちは日経TEST(日経経済知力テスト)というものを用意していて、これを採用のときの筆記試験用にアレンジして使います。試験対策はもう、新聞を読んでくれということに尽きます。しっかり読んでもらえれば、そこそこの正答率になるんじゃないでしょうか。

吉山 筆記試験の傾向は例年と変わらないと思います。新聞社は難しい筆記試験があって、やたらとハードルが高いと思っている学生もいるようなので、いろいろな機会を通じて、「そんなに難しくないよ。別に100点取る必要はないよ」と言って回っているようなところがあります。

 やっぱり新聞社ですので、きちんと新聞を読んできてほしいということと、日本語の新聞を出しているわけだから、日本語にも敏感になってほしいという気持ちはあります。「漢字や熟語の問題を多く出すのは、そういう意図があるんですよ」と説明すると、学生たちは安心してくれるように思いました。

堀江 朝日では筆記試験の問題を現場の記者たちに作らせていますが、そうすると、どうしても枝葉の問題になりがちです。なるべくやさしくして、幹の問題にするように意識はしています。それから、満州事変を知らないようでは困るということもあって、歴史、とくに近現代史の問題を出すようにしています。説明会では、「歴史の問題も出ますよ」と、ちゃんと言っていますし、英語の問題などは「朝日新聞の英語サイトから出ているから、ふだんから見ておいてね」と説明はしています。傾向としては、歴史と国語の問題が正答率がやや低いです。

吉山 うちでも漢字の書き取りなどは、けっこう平均点が低いです。

細田 私には意外なのですが、学生たちからNHKの問題は難しいって言われるんです。新聞社より難しいですねって。

堀江 それはよく聞きますね。

細田 でも、朝日さんとか日経さんの問題を見ると、いや、そちらのほうが難しいだろうと思うんですけどねえ。

 学生には、記者をめざす以上は、新聞の1面、NHKならば「ニュース7」のトップに来るニュースは常にチェックしなさいよと言っています。NHKの筆記試験には一般教養問題と時事問題がありますが、やっぱり僕らが見るのは、時事問題がどうかなというところです。学生の社会への関心度が如実に出てくるので。「ニュース7」のトップになるのは、NHKとして世の中に真っ先に伝えたいニュースだから、それは見てほしい。それだけでも相当の対策になると思います。

 いつも同じことを話すのですが、上智大学の新聞学科は現在、女子学生のほうが多いんです。成績も平均的に女子のほうがいい。各社の筆記試験の結果もそんな感じですか。

■男女差は縮小傾向か 筆記・面接試験の成績

堀江 いや、うちは男子がいいですよ、筆記試験は。面接は女子のほうがいいですけど。

吉山 現在の採用相当になる前に、私が面接員の1人として務めたときは、女子学生がみんなよく見えたんですね。変な意味じゃなくて(笑)。で、今回、秋の採用をやってみて、そんなに差を感じなかったです。女子のほうが優秀に見えるとは言われていたけれども、そんなに男子が頼りなく見えたということもなくて、バランスが取れているように感じました。

藤井 春と秋の採用活動を通じた印象では、女性のほうがしっかりと受け答えする学生が多いように思いました。面接の間に力を出し切ろうという覚悟を感じる人はたくさんいましたね。ただ最終面接のあと評価する時は、面接の評価とともに、将来性とか、さまざまなことを考慮して、採用を決めます。

細田 以前と比べて、職場に女性記者がかなり増えてきましたよね。面接担当を務める職員にしても、自分の部下に女性記者が増えたので、ある程度、基準が定まってきたかなと感じます。この学生は社会部にいるあの女性記者のタイプかなとか、この人は国際部にいる特派員の女性のタイプかなとか。最近はあまり女性ばかり優秀だという声は聞かなくなった気がしますが、それは、そういう物差しができたせいかなと、個人的には思っています。

■新人記者教育の基本は配属先での実地訓練

 採用後の配属と教育についてお聞きしたいと思います。

 先ほどNHK・細田さんから地方大学生の採用の話がありましたが、地方採用に対して強い関心を持つ学生もいるんですね。地元に帰って地域に貢献できるのがいいと言います。

 一方で、学生たちの中には、長い地方勤務を経るのではなく、最初から東京や大阪の本社で華やかな仕事をしたいと言う人もいます。新聞社やNHKは、まずは地方の総局・支局に配属され、そこで実地訓練を通じて成長して、数年後にやっと本社に上がって来られるシステムであることが知られているわけですが、それは望まない者もいるわけです。

 そうした個々の希望に、各社はどのように対応しているのでしょうか。

藤井 日経の場合は、もともと1人支局も多く新人の地方配属は少ないですね。最近は大阪に若干名を配属するほかは、ほとんどは東京という傾向になっています。会社説明の際には、そこを売りにしたりもします。大半は東京配属ですぐに面白い仕事ができるよ、と言ったりもしますね(笑)。

 配属に当たっては、4、5年前から研修期間を少し延ばしました。これは年齢構成の問題にかかわりますが、中堅層が薄くなってしまっているのです。40歳から上ぐらいが非常に多いのに対して、そこから下が少ないので、新人の面倒を見る立場の中堅クラスが仕事に追われて忙しいのです。入社してすぐに新人を配属したのはいいけれど、放っておかれるケースが出てくるようではいけない、ということで、助走期間を少し延ばしました。

 その長さは試行錯誤で、半年ぐらい研修した年もあれば、12年度は3カ月程度でしたね。昨年4月に入社した新人記者は、最終的に7月初めに配属しました。最初の1カ月ぐらいは新入社員全員で研修して、さらに記者職はプラス2カ月ぐらいの研修を行い、ちょっと地方に行ったりさせながら配属を決めました。その間に、本人の適性とか性格なども見ながら、じゃあ、こいつはここにしようというような形です。ただまだ完成形ではなく、年によって変わったりもします。

吉山 読売の配属の決め方は、基本的には以前と変わっていません。おそらく、いま内定者のいちばんの関心は、自分がどこの支局に配属されるかですね。面接して事前に希望を出してもらっていますが、もちろん全員の希望がかなうわけではありません。配属する前の研修も大切ですが、基本的にはオン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)でしかなかなか成長できないというところが、新聞記者の仕事はあると思うので。ですから、研修内容は、絶対にやってはいけないこと、コンプライアンスだとか、仕事で得た情報をどう扱うべきかといったところに重点を置いています。実際の仕事は、配属された支局で学ぶというのが基本的だと思います。

 ただ、採用人数が減ってきていることの影響は考えざるを得ません。我々の時代は、私の初任地、青森支局でも、新人3人が一緒に配属されました。いまはそんなことはあり得ない。新人1人の支局もたくさんあります。そうすると、傷をなめ合ったり、愚痴を言い合ったり、けんかしたり、ということができる同僚がいなくて、追い詰められてしまうようなことも起こってきます。真剣に考えなければいけない課題です。うちの場合はメンター制度を設けて、直属の上司である支局長、デスクとは別に、話し相手になる人を、新人にマン・ツー・マンで付けるということをやっていますが、そこはこれからも気をつけて見ていかなければいけないところだと思っています。

■新人・若手記者を見守るチューター役の中堅記者

朝日新聞(記者教育担当) 岡田力氏

岡田力(朝日) 朝日の場合は、入社後、1カ月弱の研修を経て配属になります。全国の本社・支社と横浜や神戸など拠点総局17カ所に、新人記者を2~3人ずつ配属します。こうした拠点総局には、記者教育を担当するジャーナリスト学校兼務のベテラン記者を1人ずつ置いて、新人をフォローしています。そうした拠点総局でのOJTと並行して、ジャーナリスト学校が主催する入社後半年、1年、2年、3年の節目の研修もあり、3年間にわたってかなり手厚くやっています。

 入社時の研修は、なるべくスムーズに最初の職場や仕事に入れるようにすることが目的で、ここ3年ほど試行錯誤しています。読売・吉山さんがおっしゃったように、記者を育てるにはやっぱり現場でのOJT以外に方法がないという部分はあるのですが、そこに至る前に壁にぶつかってしまうケースが、ときに見られます。失敗した経験の少ない若い人が多いものですから、たとえば、取材から総局に帰ってきて、デスクや先輩から「これを聞いたか」と問われたときに、聞いてませんと言えないんですね。聞いてこなかったと言えば、当然「もう一回聞きに行け」と怒られますから。それが怖くて、聞きに行ってないのに「聞いてきました」ということが起きかねない。

 これでは情報を扱う産業として破綻してしまいます。そういうことが起きないように、いきなり現場に送り出すのではなく、まず入社時にきちんと根っこは押さえてから送り出そうと。今年4月の新人記者研修でも事実を突き詰める取材の演習を通して、記者として絶対にやってはいけないことを徹底する研修を計画しています。全国17カ所にいる兼務者を総動員して、新人4人に指導者1人という態勢でみっちりやる計画です。

藤井 兼務者というのは、チューター的な役割ですか。

岡田 みな、総局の中堅記者です。たとえば新人記者が県警担当になれば、直属は県警キャップの先輩、その上にデスク、総局長がいるのが仕事のラインですが、そこからちょっと外れた位置から見られる立場の人ということでお願いしました。チューターと呼んではいませんが、そういう面も担ってもらい、最初は必ず新人と同行取材するようにしています。やっぱり誰かのやり方を見て学ぶのがいちばんですから。昔はよく地元紙など他社の記者の仕事を見て学んだものですが、いまはそういう時代でもないでしょうから、その機会をこちらで用意するようにしています。

■希望を聞くか聞かないか各社の配属先の決め方

細田 NHKの場合は、入局後1カ月間、研修センターに泊まり込んで研修を受けます。記者といっても、ニュース映像がわからなければいけませんから、カメラ撮影や映像編集など映像ジャーナリストとしての研修もあります。

 配属先は、その様子を見て決めるんですか。

細田 いえ、内定段階で本人から全国ブロックのどこに行きたいかという希望を、九州とか北海道とか東北とか第3希望ぐらいまで出してもらいます。同時に、将来どういう分野を取材したいか、国際報道だとか、事件取材をやりたい、経済や農業を取材したいといった希望を出してもらうんです。そういう本人の志向と地域をクロスさせて配属先を決めているというのが実態です。

堀江 では、この中で希望を聞かないのはうちだけですか。

吉山 まったく聞かないんですか。

堀江 聞いていないです。配属先は、こちらで決めます。

細田 日経・藤井さんもおっしゃっていましたが、NHKでも地方局の中堅層が薄くなっていることが問題になっています。ネット報道部を作ったり新しい取り組みをするなかで、東京の比重がさらに大きくなってしまい、働き盛りの30代、40代の人たちが東京に集まってしまう。

 いまはデスクと新人の年齢差がとても大きいんですよね。そうなると、なかなかデスクに相談できない悩みもけっこうあります。そこでデスクと若手記者をつないだり、若手の相談に乗ってあげる兄貴分の存在が必要だということで、東京の最前線の取材現場を経験した、入局10年目前後ぐらいの記者を「中核記者」として地方局に配置するようにしています。現在、全国56局中46局には配置されています。若手記者が取材した地方のネタを、彼らが取りまとめて「クローズアップ現代」や「NHKスペシャル」に発展させることで、若手に成功体験をさせて学ばせることに力を入れています。

■中堅層を補強したい 経験者採用への期待

 これまで新卒者の定期採用を中心にお話しいただきましたが、いまや経験者採用や中途採用も当たり前のようになっていますね。その採用やトレーニングは、どういう方針なのでしょうか。

司会:上智大学文学部新聞学科教授 音 好宏氏

藤井 日経ではもう何年も、若干名ですが中途採用を続けています。最近では多い年で4人採った年があります。記者を中途で採る場合は即戦力を求めますから、結果的にテレビを含めたマスコミの経験者になるケースが多いです。必ずしもそういう人だけに限って募集するわけではないのですが、いきなり現場に入ってもらうのに、一から訓練するというのは現実的ではないということもあって、どうしても経験者中心になりますね。

 いまのところ明確に中途採用を拡大するというところまでは至っていませんが、採用をもう少し通年化できないかということは検討しています。おそらく、だんだんとその方向に行くだろうなとは思います。

吉山 読売は、しばらく経験者の採用をやってきませんでしたが、今回12年度は、離職者が出たりしたこともあって、若干名という形で実施に踏み切りました。日経・藤井さんがおっしゃったように、地方紙や通信社、放送局といったところで経験を積んだ方にエントリーいただいて選考しました。もちろん即戦力として期待しています。

 トレーニングといっても、新人に施すような模擬取材などはしません。必須なのは、やはりコンプライアンスですね。情報の扱い方などは、会社によってある程度違いがありますから、うちの方針はこうなんだということだけは徹底してやります。そのうえで、NHK・細田さんが先ほどおっしゃったような、支局の若い人とデスクをつなぐ役割として活躍してもらいたいと考えています。

堀江 朝日では毎年、社会人・経験者採用を実施していて、最近は年に4、5人を採用しています。社員の年齢構成の補正という目的とともに、他社でバリバリ活躍している人にぜひ来てもらいたいという気持ちがあるので、やめようという話にはなっていません。

 経験者には、どんなトレーニングを施すのですか。

岡田 5、6年以上経験してきた30歳前後の人がほとんどですので、記者としての技量はかなり信頼しています。ですから、トレーニングというより、記者用パソコンの使い方だとか事務処理の方法だとか最低限のことに加えて、組織によって異なる〝作法〟や〝社風〟など機微に触れる部分の説明や、コンプライアンス的なことだけ押さえて送り出します。

細田 NHKの場合、定期採用の枠自体が採用時に30歳未満なら既卒者でも社会人でも受けられるので、他社の現役記者など経験者が合格して入っています。

 それとは別に「キャリア採用」枠として、秋に社会人を対象にした採用をしています。年齢や学歴は一切問いません。職歴もマスコミだけに限らず、昨年の例で言うと金融とか商社など他業種からも採用しています。なぜかと言うと、ずっと自社だけで育った人ばかりの組織というのは風通しが悪くなりがちなので、違う組織で育った人を常に一定数は入れて、風通しのいい組織にしたいという思いが強いのです。それで、いろいろな業界出身の人に入ってもらっています。

 そういった他業種から入ってくる人には、4月の定期採用の新人と同じように丸々1カ月の研修を受けてから地方局に行ってもらいます。

■就職人気低下を招く? 学生の間のマスコミ不信

 このところ、ネット上などを中心に、「マスコミ批判」的な論調が目立ってきました。そういうものに影響を受ける学生も多いと思いますが、みなさんはそうした傾向を感じることがありますか。「3・11」後、マスコミと役所と大学の先生は信用できないみたいな風潮が生まれたなかで、志望者数がやや減っているのは、その影響があるのでしょうか。

藤井 明確に分析できていないですけど、少しはあるかもしれないですね。検証するのは難しいですが。「3・11」を契機にマスコミの役割が再確認された部分もかなりあるとは思うんですが、プラス・マイナスはわかりません。ただ、傾向としては、少し応募者数が減っているのは確かだと思いますが……。

吉山 説明会などでは、大上段にマスコミを批判してくる人ってあまりいないんですよね。ただ、ネット上で流布しているような漠然とした批判というか、陰謀史観みたいなものにとらわれて、マスコミ報道は権力に操作されているのではないかといった声はたまにあります。それに対しては、違うんだよと、新聞なりテレビで報ずるのはちゃんと取材して確認したものなんだよと、説明するようにしています。

 じゃあ、「iPS細胞誤報」問題は何なんだという話になると思うんですが、あのとき読売新聞は1面を使って、どうしてあの記事が出たかを検証し、そのうえで責任者を処分しているんですよと。もし間違った記事を掲載してしまうと、こういう厳しい事態になるという覚悟のもとで我々は情報を発信しているので、理解してくださいという話をしています。そこは納得してもらえているんじゃないかと思います。

堀江 マスコミ批判の広がり、信頼感の低下は確実にあります。それが応募者減に直結していると思います。説明会の場などで私たちが接する学生は、まだこちらを向いている人たちなので、彼らがマスコミ批判を持ち出して質問するのは、「こういう声もありますけど、どう思いますか」と、確認のために聞くケースが多い感じがします。

 でも、その外側には、「マスコミなんか受けないよ。だって偏向しているじゃん」って答えるような学生が、10人中7、8人はいそうな、むしろ、それがスタンダードのような印象があります。

細田 採用担当になってから、マスコミ批判じゃなくて「マスコミ不信」を口にする学生が意外と多いことに実はショックを受けています。彼らの発言の根拠は非常に曖昧なんだけど、「あのとき、NHKが隠したことはあったんですか」とか、「真実を伝えられないときって、どういうときですか」って。積極的に攻撃してくるわけではなく、さりげなく普通に聞いてくるんですよ。それは非常にショックでした。

 それと根っこは同じだと思うのですが、大震災以来、「NHKの情報は信頼できるから応募しました」という学生も多いんですよ。NHKの一員としてはうれしいんだけど、そう素直に「信頼できますから」と言われると、それが志望動機なのと聞き返したくなります。私は個人的には、もっと前向きな批判をしてほしいんです。ジャーナリストをめざす以上、批判精神はぜひ持ってほしい。

 最近の学生たちは、まさにネット情報の洪水に溺れているのかなと、よく思います。何が本当に重要な情報で、何が根拠のあやふやな情報なのか、自分で判断する力をもっと鍛えておかないと、記者になったときに大変じゃないかと、やや危機感を持っています。

藤井 一人ひとりがツイッターなどを使ってつぶやくだけで情報を発信できる時代になってしまったわけですから。個人的な感情から発したものであっても、それに共感する人がいたら、どんどん流布してしまう。そういうものは、新聞社や放送局という組織や、そこで働く記者の情報発信とは根本的に違うということが、学生たちにはなかなかわからないのかもしれませんね。その辺は我々もしっかりと認識したうえで、対応していかなければならないだろうなと思います。

■記者は大変だけど面白い、覚悟を決めて来てほしい

 最後に新聞記者や放送局の取材職を志望する学生たちに望むこと、これはちゃんとやっておきなさい、といったアドバイスをお話しください。

藤井 志望する以上、その対象はちゃんと研究してほしい。面接をしているときに、実はあまり新聞を読んだことがないなんて言われると、ガクッと椅子からずり落ちそうになります。じゃあ、何で入りたいわけ? という話になりますよね。だから、あえて面接で聞くんですよ、うちの新聞とは言わないから、この1カ月で心に刺さるような記事とかニュースって何だったと。そう言うと、考え込んだりする人がけっこういるんですよ。記者を志すのならニュースに対するアンテナを高くして感性を磨いておいてほしいと思います。

 そういう一種の覚悟みたいなものが腹の中にないと、入社して仕事を始めてから悩むだろうなと思うのです。だから、就職することは決してゴールじゃないよと。新聞社に入ったら私はこれがしたいんだということを、もう一度認識してもらいたい。会社にとっても、本人にとっても、そこがスタートだと思います。

 よく、どんな人を求めているのですかと聞かれますが、同じような人をたくさん採っても仕方がないんです。4番打者ばかり集めても組織としては機能しません。そういう人ばかりだと紙面ができないわけです。だからいろいろなタイプ、いろいろなことに興味を持っている人がほしい。そのためには志望者には素のままの自分を出して、見せてもらいたいと思います。

 そして、いろいろな仕事の話を聞いたうえで、自分はそれを本当に好んでできるのかどうかについて自分の中で折り合いをつけて、覚悟を持って来てくださいと言いたいですね。

吉山 藤井さんにほとんど言われてしまいました(笑)。

 決して楽な仕事じゃないので、覚悟を持ってきてほしいということがひとつ。それに加えて、やっぱり自分で決めてほしい。自分で選んだ仕事じゃないとね。新聞社に限りませんが、どんな仕事だっていろいろなハードルや壁があるでしょうけれど、それを乗り越えられるのは、これは自分がやりたいと思って選んだ仕事だというところだと思うんですよね。私も支局時代、いろいろつらいことはありましたけれど、新聞記者になりたいと思ってなったんだから耐えられたし、そのうちにこの仕事の楽しさや面白さもわかってくるわけです。そこを覚悟したうえで、自分できちんとこの仕事を理解して、決断して来てほしいと思います。

堀江 私は、今回の採用が4回目になって、ちょっと小言じいさんみたいになってしまうんですが、チャレンジしない、安全志向、安定志向がさらに強まったなという感じがしています。入れるところに入ればいいやという発想の学生が多いように感じます。その状態で私たちに接触してくるから、出てくる質問が、いま何をしておいたほうがいいでしょうかとか、御社の特徴は何でしょうかというレベルで終わってしまう。

 そういう就活になっていること自体、彼らに怒ったってしようがなくて、むしろ申し訳ないと思いながら、早くそこを突き抜けるためには、あなたのやりたいことをちゃんと見つけて、それができそうな会社にトライすることこそが就活なんだよ、という話をいつもしているわけです。

■チャレンジ精神と当事者意識を持って

岡田 新聞記者という仕事はとにかくやりがいがありますよね。事実を突き詰めていって、それを記事として、あるいは放送として発表した場合に、大きく社会に影響を与えることもあり得ます。社会にはマスメディアが伝える情報というのは間違いなく必要なものであって、そこにかけることの生きがいが、すごくダイレクトに得られる仕事ですから。それをぜひ感じてほしいと思います。

 いまメディアは激変していますよね。今後どういう情報発信が行われるようになるかわからない状況だけれども、多分、ジャーナリズムというものは社会に絶対必要なもので、それを若い人たちが新しく作っていかなきゃいけない部分もかなりある。そういうチャレンジ精神を持って、この業界の門をたたいてほしいなと思います。

細田 昨年の面接で、多くの学生に投げかけた質問があります。嘆き悲しむ東日本大震災被災者の取材がどうして必要だと思いますかと―。

 なぜかと言うと、いまでもNHKでは常時、全国から30人ぐらいの若い記者が被災地取材に応援に入っています。ですから、もしNHKに入ったら、必ず被災者と向き合うことになるんですね。その場合に、なぜ被災者を取材するのか。それをどう伝えようとしているのかと、必ず被災者から聞かれるんですよ。

 私たちの仕事って、もろ手を挙げて取材に応じてくれる人ばかりではなく、むしろ取材を受けたくないという人が多い。でも、私の経験から言うと、取材を受けたくないという人ほど重要なメッセージや情報を持っている人が多いです。だから、経験のない学生であっても、自分なりにちゃんと人と向き合うということを考えてほしいなと思っています。人の痛みがわかる人じゃないと、この人になら話してみようかとは絶対に思わないですから。そういったところを感じてほしいなと思っています。

 アドバイスをと求められたとき必ず言うのは、とにかく新聞を読み、NHKのニュース、番組を見てほしい。それも傍観者としてではなく、自分が記者になったらどう取材するのか、どう言って説得して取材するのか、自分ならどう伝えるのか、当事者として見てほしい。それが、あなたが記者になったらずっと続けていく仕事になって、いちばんの蓄積になるから。長い記者人生を考えたら、ぜひ今からその癖をつけてほしいなと言っています。社会の当事者になることによって、学生たちの意識も変わるんじゃないかと期待しています。

(座談会は2013年1月30日、東京・築地の朝日新聞東京本社で。写真撮影はすべて石野明子)

◇略歴

藤井達郎(ふじい・たつろう)

日本経済新聞社総務局次長兼人事部長。1985年入社。編集局流通経済部(現消費産業部)、編集局産業部次長、同デジタル編集本部デジタル報道部次長、名古屋支社編集部長などを経て2012年4月から現職

吉山隆晴(よしやま・たかはる)

読売新聞東京本社人事部次長。1989年入社。青森支局を経て政治部で外務省キャップ、国会デスクなど担当。世論調査部デスクなども。2011年6月から現職

細田修二(ほそだ・しゅうじ)

NHK人事労務部副部長。1989年入局。岐阜放送局、報道局社会部、長野放送局放送部デスク、報道局社会部副部長などを経て2012年6月から現職

堀江 浩(ほりえ・ひろし)

朝日新聞社管理本部(人事セクション)採用担当部長(座談会時点)。1986年入社。秋田支局などを経て東京社会部、地域報道兼社会グループデスクほかを担当。2010年1月から採用担当部長(13年2月から報道局選挙事務局に)

岡田 力(おかだ・ちから)

朝日新聞社ジャーナリスト学校記者教育担当部長。産経新聞社を経て1992年朝日新聞社入社。地域報道兼社会グループデスクを経て2010年4月から現職

音 好宏(おと・よしひろ)

上智大学文学部新聞学科教授・新聞学科長。専門はメディア論、情報社会論。上智大学大学院文学研究科新聞学専攻博士課程修了。日本民間放送連盟研究所研究員、コロンビア大学客員研究員などを経て2007年から現職