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無人飛行機を使った取材で新たな報道の可能性と問題が

小林啓倫 日立コンサルティング 経営コンサルタント

 米軍の無人航空機(ドローン)による攻撃が問題となっている一方で、兵器ではないもう一つのドローンも注目を集めている。私たちの身近な場所で活躍する、無線操縦型の小型航空機である。

 後者のドローンについては、明確な定義はない。一般には複数のローターが装備された、ヘリコプター型のラジコン機を指すことが多い。

 おもちゃのラジコンは昔からあったが、現在のドローンがこれまでと異なるのは性能面での進化だ。

 複数のローターを備えることで、安定した飛行が可能で、空中での姿勢を一定に保つ制御などをコンピューターが行ってくれる。

 そのため素人でも操縦しやすく、機種によっては、電波の届く範囲を超えても出発点まで戻ってくる機能を備えているものまである。

現在では高性能なドローンが市販されている
 こうした高性能の小型ドローンが、安いものだと10万円前後で手に入るようになっているのだ。そのため様々な活用法が模索されており、中には「自律型ドローンに宅配を行わせる」というアイデアまで登場している。

 まるでSFのような話だが、昨年アマゾン・ドット・コムが「早ければ15年の実用化を目指す」と発表して話題となった。彼らの真意はともかく、そのような取り組みが飛び出すほど、小型航空機の民間活用が進もうとしているのである。

デモや災害報道に活躍するドローン・ジャーナリズム

 その利用法にはジャーナリズムの分野も含まれている。小型とはいえ軽い荷物を運べるほどの性能を備えているので、ドローンにカメラを搭載し、空撮を行わせようというのだ。

 最近の技術革新により、安くて高性能、撮影時間も長いカメラが販売されている。さらに前述の通り、新しいドローンは安定した飛行が可能なので、誰でも高画質で見やすい空撮映像が撮れるというわけだ。

 実際に海外の不動産業者では、大きな邸宅の全体像を空から見せるために、ドローンで撮影した映像を提供するという取り組みも行われている。  英BBCは昨年12月、タイで起きた反政府デモを報じるために、この「ドローン空撮」を活用した。空からデモの全体像を捉えることで、その規模を分かりやすく伝えようとしたのである。

 さらに効果的だったのは、同じく昨年12月にあったキエフでの反政権デモにおける例だ。この際の撮影者はジャーナリストではなく、デモの参加者だったのだが、彼らはドラマチックな演出をするために地上から撮影をスタート。少しずつ高度を上げ、個々の人々が巨大な群衆へと膨れあがっていく様子を写すことで、いかに抗議が正当かつ巨大なものであるかを印象づけた。

 こうした例が増えていることから、最近では「ドローン・ジャーナリズム」という言葉まで生まれている。デモを写すだけでなく、事故や自然災害の現場をいち早く捉えたり、野生動物の姿を間近で捉えたり、スポーツ選手のプレーをまったく新しい視点から撮影したりするなど、次々と新しいアイデアが検討されているのだ。

 さらに具体的な成果を挙げる例も登場した。

 報道機関ではなく一般人による事例だが、米テキサス州に住む男性がドローンで撮影した写真を眺めていたところ、精肉工場の近くにある川が赤く染まっていることを発見。すぐに行政機関に通報したことから、問題の工場に捜査が入ることになったのである。

 カメラを備えた携帯電話が普及したことで、一般人がジャーナリズムの領域に踏み込むという事例が珍しくなくなったが、同じことがカメラを搭載したドローンにおいても繰り返されるだろう。

事故発生やパパラッチ的利用で規制も検討される

 しかしそうなると、行き過ぎたドローン利用をどう防ぐかが問題となる。

 既にニューヨークのマンハッタン島において、何者かが操作するドローンが高層ビルに激突、墜落するという事件が起きている。

 いくら空は広いといっても、利用者や利用法が広がると、似たような事故が増えてくるだろう。既に米連邦航空局(FAA)はドローンの民間活用に関する規制の策定に乗り出しており、その内容次第で普及の速度と範囲が変わってくるだろうと予想されている。

 またプライバシー侵害のリスクも見過ごせない。

 いわゆるパパラッチ行為にドローンが活用されるという例が出てきており、過剰な報道が行われるのではないかと懸念されている。

 そうでなくても、現在の都市構造や住民は、日常的に空からの撮影が行われるなどという状況を想定していない。無関係の第三者の生活が偶然撮影される、といった事態が生まれるのは避けられないだろう。

 そこで「報道のためだから我慢してほしい」と言われて、誰もが納得するだろうか。

 国民の「知る権利」と報道、そしてプライバシーと監視の線引きは、常に新しいテクノロジーの登場によって揺さぶられてきた。市街地を飛ぶ空撮ドローンも、戦場を飛び交うドローン以上に、激しい議論を呼び起こす存在になるだろう。

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小林啓倫(こばやし・あきひと)
日立コンサルティング 経営コンサルタント。
1973年東京都生まれ。 筑波大学大学院地域研究研究科修士課程修了。 国内SI企業、外資系コンサルティング会社等を経て、2005年より現職。 著書に『リアルタイムウェブ—「なう」の時代』『災害とソーシャルメディア—混乱、そして再生へと導く人々の「つながり」』(共にマイコミ新書)など。

※本論考は朝日新聞の専門誌『Journalism』3月号から収録しています。同号の特集は「ジャーナリストを目指すあなたへ」です