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マスメディア採用担当者による徹底議論

デジタルもジャーナリズムも――コミュニケーション能力の高い若者たちよ、来たれ

堤和彦 吉山隆晴 橋爪尚泰 岡本峰子 水島宏明

 就職先としてのメディアの人気の低下が言われる中、各メディアの採用担当者に、採用活動で力を入れている点や、求める学生像について、本音で語り合ってもらいました。大学でのジャーナリズム教育、各社のインターンシップ、ワーク・ライフ・バランスに関する取り組みなどについても、熱心に議論が交わされました。(『Journalism』編集部)

(司会はジャーナリスト・法政大学社会学部教授・水島宏明氏)


水島 法政大学の水島です。札幌テレビを経て3年前まで日本テレビにいまして、それ以降、法政大学社会学部でジャーナリズムを教えている立場です。最近学生から就活についての相談も受けることがあります。

 まず、どんな人材を各社採用したいのかですが、私自身問題だと思っているのが、学生たちにリアルな経験がとても不足していることです。いろいろなことについて評論家的な口はきくのですが、例えば「ホームレスはこうだよ」と話す学生に、「ホームレスの人を実際に知っている?」と聞くと、実は見たことも話したこともないといったことが、いろいろな分野であります。その辺のリアリティーを学生たちにどう獲得させるのかを、私自身も課題にしています。そういうことも含めて、どんな人材を求めているのか、読売新聞の吉山さんからご意見を聞かせてください。

吉山隆晴 読売新聞東京本社総務局人事部次長吉山隆晴 読売新聞東京本社総務局人事部次長=撮影・吉永考宏
吉山 リアルな経験が不足しているという話が出ましたが、そういうことは私も感じています。学生時代にいろいろな経験をしていて、頭で考えるだけでなく、実際に行動し、いろいろなことを体験している学生に来てほしいと思いますね。あとは、社会に対する関心や好奇心の沸点が低い人、「これはひどい」「これはおもしろい」と感じる人が記者、ジャーナリストの仕事を楽しめるのではないかと思います。

水島 言葉を変えれば、熱くなれる……?

吉山 そうですね。そういう言い方もできると思います。

好奇心が強く足腰が軽い人を

水島 わかりました。では、堤さん。

 我々がいつも学生に訴えているのは、好奇心が強い人を探しているということです。それから、足腰、フットワークが軽い人ですね。

 取材先としっかり人間関係をつくっていかなければならないので、懐に飛び込む力や、人としての幅の広さですね。いろいろな人といきなり会って話を聞く仕事ですから、そういうことを求めていると伝えています。

水島 橋爪さんはいかがですか。

橋爪尚泰 NHK人事局副部長橋爪尚泰 NHK人事局副部長=撮影・吉永考宏
橋爪 今、情報社会になって、いろいろな情報があるがゆえに、頭でっかちになってしまっているのではないかと思います。情報が多すぎるがゆえに、自分がやりたいことや関心があることに没頭しきれていないことが、もの足りないと感じています。部活でもアルバイトでも何でもいいのですが、人間関係の中でコミュニケーションを取りながら、一生懸命やっていければ、記者としての第一歩の素養はあるのではないでしょうか。

 今一番大事にしているのは、コミュニケーション能力です。人と話す力、人からいろいろな話を聞きだせる力がないと、記者としてうまくスタートが切れないのではないかと思っています。

水島 では、岡本さん。

岡本 私は着任して2年なのですが、2年間学生と付き合ってきて、礼儀正しくてそつがない人が多いと感じます。ただ、打たれ強さ、懸命に食らいついていく粘りが、もう少しあるといいなと思うことがあります。

 また、ウェブ展開が進むにつれて、さらに多様な人材が求められると考えます。ウェブプロデュースの仕事の比重が高くなっていますが、自身の取材力の他にも、編集者マインドやデジタルの「土地勘」も要る。編集者マインドというと、かなり自分や事象を客体視できる能力が必要だと思います。きちんと物事を俯瞰して見て考えて、提案できる人が必要な比重が、増すのではないでしょうか。

問われるデジタル時代への対応

水島 今、岡本さんからウェブプロデュースという言葉が出ましたけれども、デジタル時代にどう対応するかというのは、共通の課題になっていると思います。そういった点はどのように選考基準として組み込まれているのでしょうか。

吉山 読売新聞の場合、デジタルについて朝日さんや日経さんと少しスタンスが違います。基本的に紙の新聞を中心にやっていますので。現状では記者として、ジャーナリストとしてふさわしい素質を持っているかどうかを見ています。新しいビジネスモデルを確立していかなければいけない時代でしょうから、そういう点はこれから入ってくる若い人たちに期待するところ大ではあります。

水島 学生たちに聞くと、就職の面接活動で、例えば「記事をデジタルと連動させて何ができるのか、答えなさい」という質問をされる。番組であれば、同じようにテレビでデジタル的に何ができるか、ではここで議論しなさいという課題が与えられる。民放は特にそのようなものが出ているらしいです。

堤和彦 日本経済新聞社総務局人事・労務部担当部長堤和彦 日本経済新聞社総務局人事・労務部担当部長=撮影・吉永考宏
 日経電子版が創刊して今年で丸5年になります。これからは動画で取材して、リポートまでできるような人材が必要になってくるだろうと、社内で議論しています。当然採用の段階でも、そういう人材を探す作業が徐々に大きなウェートを占めてくるようになるのではないかと思います。今年2月に実施したインターンシップでは1クラス電子版コースを新設し、カメラも持たせて動画の取材と編集を体験してもらうことを試行的にやってみました。

水島 NHKはどうですか。

橋爪 テレビ記者なので、自分がカメラの前に出てしゃべる、映像を撮るなどは、昔からやらざるを得ないことで、デジタルに対応した表現者としての記者というのは、あまり意識していません。

 デジタルでいうと、NHKは今ビッグデータをどう分析して新しいジャーナリズムの形にするかに力を入れています。この分野では、かなりデジタルの技術的なプログラミングのこととジャーナリズムのことと両方わからなければいけない。システム的にはNHKの技術の人間が入っていろいろなことをやってくれているのですが、それをどう読み解いてニュースとして出していくかについては、できる人材が少ないのは事実です。キャリア採用も含めて検討する必要があると感じています。

水島 朝日新聞は?

岡本峰子 朝日新聞社人事部採用担当部長岡本峰子 朝日新聞社人事部採用担当部長=撮影・吉永考宏
岡本 既に地方総局では総局記者が動画取材をすることが当然になっています。なので動画を送稿するスマホアプリも開発しました。橋爪さんから、デジタルのプログラミングもジャーナリズムも両方わかっているという人材のお話がありました。まさに、そういう人材を育て、増やしていく方向です。

 例えばデジタル編集部ではHTML(ウェブ上のページを記述するためのプログラミング言語)を書ける記者がいて、「記事を書く時間よりHTMLを書く時間の方が長い」と言っています。ウィズニュースという昨年7月にスタートしたコンテンツがありますが、こうしたウェブのセンスを持つ中堅記者、社員たちが発案・企画したものです。写真や動画、グラフィック、CG、音声などあらゆるデジタル技術を駆使して長文のストーリーを読んでもらうイマーシブ(没頭型)コンテンツも増やしており、ますます人材が必要です。

学生が用意した鎧を質問力で脱がしていく

水島宏明 ジャーナリスト・法政大学社会学部教授水島宏明 ジャーナリスト・法政大学社会学部教授=撮影・吉永考宏
水島 新聞社や放送局はジャーナリズムを担う会社、組織です。ジャーナリストとしてどんな人材、どんな資質を求めるのかという点については、どうですか。

吉山 一般の人よりもほんの少し強い正義感、あるいは好奇心は必須だと思います。過剰な正義感は、独りよがり、あるいは上から目線になってしまいますが、ほんの少しでいいから正義感はジャーナリズムに携わる上で必須だと思います。

 きちんと人と付き合う力、コミュニケーション能力という話もありました。学生はコミュニケーション能力というと発信する力だとおそらく多くの人が思っています。記者としては聞く力が大事です。これまでは狭い人間関係の中でのコミュニケーションというのがほとんどだったと思います。ジャーナリストになればバックグラウンドも違う、年齢も違う人たちと会って、その中でその人が何を考えて、どういうことを求めているのか、発信したいのかを聞き出すわけですから、正確に聞き出す力というのがジャーナリストとしては大切だと思いますね。

水島 そこをどう見分けるか、それぞれの人事の担当者は非常に心を悩ませていらっしゃると思います。学生も「コミュ力」や「プレゼン力」だと言って練習していたりする。話題づくりのために浅草で人力車を引いていましたとかね。変わったバイトでつかみを取ろうということで、小賢しいと思うのですが、聞いてみると、それで受かっていたりするのですよ。それだけで受かっているわけではないと思うのですが、本当のジャーナリストにふさわしい人をどう選び取っているのでしょうか。

吉山 そこは面接官の質問力が問われてきますよね。学生は用意していた回答をしゃべろうとするのですが、もちろんそれは鎧よろいなわけです。その下にあるものをどう見極めるか。向こうが用意してきたもので、立て板に水で行きますよね。質問力でその鎧を脱がしていくしかないのではないでしょうか。

 そこは我々も悩んでいます。面接官に事前にレクチャーするのですが、どうしても突っ込み方にばらつきが出ます。学生にリラックスしてもらいたいから、最初に必ず志望動機を聞きます。これは学生も準備している。そこからが勝負なのですが、正直言って見破れているかというと自信がないところも多いですね。

 日経は中正公平という社是を常に意識しています。いろいろな考え方が世の中にはあって、それに耳を傾けられる姿勢を持っている人かどうか、自分の主張だけではなくて、いろいろな考え方があると受け止められる力を持っている人、それは視野の広さにもつながってくる。そんな人に出会いたいと考えています。もちろん健全な批判精神も求められます。

 新人研修などでは、「謙虚であれ」ということは口をすっぱくして言っています。名刺一枚でいろいろな人に会えるよと我々が採用の段階で訴えていることもあってか、つい自分が偉くなったような気になる若手も多いので、それではジャーナリストとしてはいい仕事ができないと伝えています。

橋爪 一つNHKのやり方でいうと面接時間を長く取ろうということは考えています。1次面接も1人30分を見てくださいということでお願いしていますし、2次面接も30分をめどに見てもらうようにしています。時間を取るとやっぱり向こうもだんだん踏んばり切れなくなってくる。そこから見えてくるところは正直あると思います。

 求められる資質でいうと、ジャーナリスト、記者になるための自分なりの覚悟を決めてきてくださいということは学生に言っています。覚悟を決めるためには、記者の仕事とは一体何なのか、厳しい局面を含めて先輩等から聞いて勉強するしかないと思います。勉強して自分なりに咀嚼して、それでもなおこの道に進みたいという気持ちを持てた人というのは、一つ資質としてはあるのではないかと思っています。

 それから、もう一つ私が大事にしているのは、その人なりに向かってくるかどうかを見るようにしています。受け身になってしまったり、質問をかわしてしまうのではなくて、受け止めた後きちんと向かって球を投げ返してこれるかどうかを、私はチェックポイントにしています。

岡本 どうやって見抜くかというのは非常に難しい点がありますが、面接官の取材力を信頼しています。求める資質ですが、ジャーナリストはさまざまなバランス感覚が必要です。人の意見を聞く力はあるが、自分の軸もある。強いが、弱い人の立場を考えられる。大局をみられるが、細部を見逃さない。周りと協力して働けるが、孤独な局面も耐えられる……といった両面の力です。日本人人質事件では朝日記者がシリアに入国、取材したことを批判的に報道されましたが、私はこうした仕事のできる記者を増やすことが社会への責任だと考えます。現場の複雑な状況を冷静に判断し、安全策と通信手段を確保し、社に納得できるデータを示すには、総合的な力がいる。優秀な同僚をみると、そのバランス、度胸と愛嬌、熱さと冷静さの加減が素晴らしい。でもそんな力って大学で教育できるものでしょうか。もっと深い人生経験に基づく能力じゃないかと感じています。

情報へのアクセス力があるようで処理の仕方が稚拙な学生

水島 各社多少の違いはあってもジャーナリストとして求めている人材というのは、同じように、人としてチャーミングであったり、問題への関心が深かったりということなのかとも思います。

 それで、今岡本さんがおっしゃったように、もともとの教育、トレーニングの前に、育った環境というのは、私も大学で教員をやっていますと、もともときちんとした人、コミュニケーションを取れる人とそうでない人というのは、最近非常にギャップが大きくなってきているような感じがします。きちんとしている割合がどんどん減っている印象がとても強いです。

 その中で、例えば大学生の時代に何ができるのか、何を彼らに獲得させられるのかは、教員として、例えばゼミでホームレスの現場に行く、東日本大震災の被災地に行って痛みの言葉を聞くなど、いろいろやっているのですが、それも受け止められるケースとそうではないケースがあったりもします。

 特に学生時代、どのようなことをやった人を採用したいかを、本音のところでお話しいただければと思います。

吉山 自分が選んで学ぼうと思ったものを、これだけは思う存分勉強したと自分で言えるぐらいのことをやってほしいと思います。加えてバイトでもサークルでもいいのですが、記者は個人商店みたいなところもありますが、チームでやっていくところもありますので、人と一緒に、人を巻き込んでいろいろ物事を進めるような経験をできるだけしておいてもらいたい。そういう学生は魅力的に映るのではないかと思います。

 それから、新聞をもう少し読んでいただいて、情報の処理の仕方を身につけておいてほしいと思います。例えば、一人のブロガーが何の根拠で書いているのかわからない意見を無批判に信じ込んだり、今の学生は情報の処理の仕方が実はそんなにうまくないのではないでしょうか。

 私は学生に、「君たちはスマホを使いこなせて、お年寄りはスマホが使いこなせないから情報弱者だと思っているだろうけれども、おじいちゃん、おばあちゃんのほうがギリシャの総選挙の持っている意味だとかをよほどよく知っている。ギリシャの総選挙の話は君たちスマホで検索しないでしょ?」といった話をするのです。

 実はものすごい情報にアクセスする力を持っているように見えて、その処理の仕方が極めて稚拙だったりすることが今の学生にはあるのではないかと思うので、新聞を読んでほしいというのはあります。

 もちろん、学生ですので学問も大事ですが、時間があるわけですから、学生時代にしか体験できないこと、いろいろな経験を積んでほしい。それと、友達との関係、ゼミ、サークル、バイト、何でもいいのですが、学生時代にしか吸収できないものを吸収したうえで、面接試験に来てくれる学生は魅力があります。

 弊社は今グローバル展開を推進しているので、学生には「語学力はないよりはあったほうがいい」と答えるようにしています。身につけているといろいろな仕事ができるチャンスが広がるということですね。

橋爪 やらなければいけないこととやりたいこととが、学生にはあると思います。勉強はやらなければならないし、サークルやアルバイトなどやりたいことがある。とりあえず、やりたいことは全部手当たり次第やるような人で、かつその中から一本、ず抜けるようなことを、何か一つやれると、その学生は汎用性と専門性の両方ある人だと見ることができます。そういうことをぜひやってほしい。

 あとは、テレビでいうとニュースを見ない学生が多いので、録画でもいいから見てくださいと私はいつも言っています。本当に今の学生は情報が多くていろいろなものを捨ててしまっているので、広い関心を持ってくれていない。いろいろな話をすると、はまる話はいいのですが、はまらない話、自分の関心のない話になると一気に会話が止まってしまうということが多く、記者はそれではいけないと思います。今記者になりたいのであれば、自分に関心があろうがなかろうが、全ての社会で起きていることを一通り知らなければいけないと思うようにはしておいてほしいと思います。

岡本 何を学んだかではなくて、どう学んだかをこちらは大切に見ていきたいと思います。いろいろな工夫や努力をして自分がやったと言える何かを成し遂げた経験がある、自分の軸のある人というのは、面接官も話をしていて楽しいというか弾みますね。

やってみたいことは「貧困」「弱者の目線」ばかり

水島 大学にいますと、明らかにマスコミに入りたいという学生が減ってきています。これはテレビも新聞もそうで、でもネットは興味があると言ったりもする。半径5メートル、10メートル内の人間関係をすごく気にして、LINEで連絡を取り合っています。ゼミの合宿で宮城県名取市の息子さんを津波で亡くしてしまった人の話を聞く機会があり、そのときは真剣な顔をして学生たちは聞いていて、話が終わって雑談になった途端、スマホを見だして、

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