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ネット座談会 ニュースメディアの黄金時代到来か

スマホとソーシャルメディアが急激に普及

片岡裕 藤村厚夫 亀松太郎 服部桂

 昨年7月に公開された「日本人とテレビ」調査(NHK放送文化研究所)では、生活に「欠かせないメディア」としてインターネットが新聞を逆転し、より多くの人がネット経由で生活情報を得ている実像が明らかになった。

 特にここ数年、ネットはモバイル端末やソーシャルメディアの急激な普及で大きな変貌を遂げており、ニュース配信にも新しい波が押し寄せている。米国でも6割以上の人がソーシャルメディアからニュースを読んでいるという調査がある。これからのネットニュースはどこに向かうのか? メディアはどのようにこの流れに取り組むべきなのか? ネットニュースの現場で活躍するヤフーの片岡裕氏、スマートニュースの藤村厚夫氏、ネット・ジャーナリストの亀松太郎氏に大いに語ってもらった。

座談会は東京・渋谷の朝日新聞メディアラボで5月30日に行われた。写真左から、亀松太郎氏(ネット・ジャーナリスト)、藤村厚夫氏(スマートニュース)、片岡裕氏(ヤフー)、司会の「ジャーナリズム」編集部・服部桂。吉永考宏撮影座談会は東京・渋谷の朝日新聞メディアラボで5月30日に行われた。写真左から、亀松太郎氏(ネット・ジャーナリスト)、藤村厚夫氏(スマートニュース)、片岡裕氏(ヤフー)、司会の「ジャーナリズム」編集部・服部桂。吉永考宏撮影

―朝日新聞デジタルの前身「アサヒ・コム」が開設されて昨年で20年でしたが、ヤフーさんも今年20周年だそうですね。

片岡 ヤフージャパンは4月、ヤフーニュースも7月に20周年を迎えます。
 これまでの歴史を振り返ってみると、当初のパソコン中心のサービスの時代から、大きな転機が3回ほどありました。
 一つ目が、1999年に始まった携帯電話のインターネットサービスの普及。次に2007年ぐらいからツイッターやフェイスブックなどのソーシャルメディアが出てきて成長したこと。そして最後に昨今のスマホの普及で、ウェブのブラウザーではなく専用のアプリを介してニュースを読む利用者が増えたことです。
 ところが、それに加えて昨年は、フェイスブックが「インスタントアーティクルズ」、またグーグルが「AMP」(アクセラレイティッド・モバイル・ページ)という名前でニュースコンテンツを自らのサイト内に取り込み、そこですべて完結してしまう方式の試みを開始し、これらとどう連携または対抗していくかが現在の大きな問題になっています。

ネットニュースの利用形態ネットニュースの利用形態

―現在ではパソコンよりスマホからのアクセスのほうが多いのでしょうか。

片岡裕氏(ヤフー株式会社執行役員メディアカンパニー長)片岡裕氏(ヤフー株式会社執行役員メディアカンパニー長)
片岡 08年の秋に、iPhoneの発売に合わせてスマホ用のサービスを開始しましたが、14年にはスマホからのアクセスがパソコンを上回りました。
 読めるニュースの中身は基本的に同じですが、アプリの場合は「プッシュ通知」というお知らせがあったり、個別にパーソナライズ機能を設定したりできるので、読む側の体験の質がいままでと変わり、サービスもそれに向けて対応しています。

―スマートニュースさんは、社名をスマートフォンのスマートから取って、モバイルに特化されていますね。

藤村 12年6月に会社を設立し、その年の12月にアプリをリリースし、スマホの時代における広義のニュースにフォーカスしてサービスしています。社名はこれまでの印刷媒体やパソコンのウェブの時代とは一線を画した、新しいモバイル時代のニュースを展開していきたいという決意表明です。
 さらに14年10月からはUS版、続いて15年1月にワールドワイド版という英語版をリリースし、情報提供をしてくれるパートナーを拡大中で、日本版をメインに1800万人の利用者がいます。
 ヤフーニュースさんと違う点は、最初から世界を相手にテクノロジー的な基盤を強化して、国境を越えていくということを強く意識していることです。
 現在はパートナーの約1500媒体から、スマートニュース用にニュースデータをいただいて掲載していますが、ここ3年ほどを振り返ると、日々驚くべきスピードで新しいメディアが生まれていて、それがいいことか悪いことかは判断がわかれるでしょうが、私は「(ニュース)メディアの黄金期」と言ってもおかしくない状況だと思っています。
 先ほどご指摘があったように、フェイスブック、グーグルといった大手企業がコンテンツを、自社のサービス内に取り込んでしまう動きもありますが、スマホ時代には読者自身が変化を遂げていることも大きなポイントです。
 より快適で利便性の高いコンテンツ体験が求められており、それにどう対処していくかが大きなビジネスの課題になります。こうした変革の時代には、ジャーナリズム自体も変わっていくと感じており、その流れの中に入って何か新しいことをやり遂げたいと思っています。

―すでにヤフーさんという巨人がいて、他のサービスもある中での目算は?

藤村厚夫氏(スマートニュース株式会社執行役員メディア事業開発担当)藤村厚夫氏(スマートニュース株式会社執行役員メディア事業開発担当)
藤村 われわれが参入したのは、ちょうどモバイル化が始まり、ニュースをスマホで読むようになる大きな転換期で、現在の大きな流れの発端の時期でした。
 ウェブを中心に作られたデジタルメディアの秩序が大きく揺らぎ、誰もが本当に気持ちよく24時間365日、世界中のすぐれた情報を手に入れられる環境ができ始め、近未来的なニュースジャーナリズムの方向を感じたからです。
 彼方にヤフーさんの背中が見えていたので(笑)、ゲリラ的にもやりがいのあるビジネスだと思って。

―亀松さんは、新聞社出身でネットビジネスも経験されていますが。

亀松 私は朝日新聞記者を3年務めた後、最近まで「弁護士ドットコムニュース」というサイトの編集長をしていました。
 弁護士ドットコムはもともと、弁護士と弁護士を探している人を結びつけるサービスで、弁護士の紹介や法律相談もしていましたが、知名度を上げようと、4年前から時事的な問題を法律的な観点で掘り下げるニュース記事を掲載する新しいタイプのサービスを始めたのです。
 われわれはつい最近始めたばかりだと思っていましたが、スマートニュースさんのサービスが始まるちょっと前だったと聞いて、びっくりしました。
 弁護士ドットコムの訪問者数はニュース配信を開始してから非常に伸びたのですが、そのときに一番お世話になったのが、ヤフーさんやスマートニュースさんのようなサービスです。
 われわれのニュースが両サイトなどに掲載されることで、より広い範囲の人々の目に触れ、結果的にアクセスが増えたのです。きっとそれがなかったら、こんなに短期間の伸びは期待できなかったと思います。

―他にも、LINEとかグノシー、ニューズピックスといったニュースサイトが数々ありますが。

亀松太郎氏(ネット・ジャーナリスト)亀松太郎氏(ネット・ジャーナリスト)
亀松 現在のネットのニュースメディアの世界は、まずオリジナルのニュースを情報発信している新聞社や雑誌社、テレビ局などのパブリッシャーがあって、それを集めて配信するプラットフォームがあります。多くのユーザーがいったんプラットフォームにアクセスして、その後、パブリッシャーのサイトに飛んで利用するという構造になっています。
 パブリッシャー側から見ると、ヤフーニュースやスマートニュースはプラットフォームで、それと同列にグノシーやLINEニュース、経済系に特化したニューズピックスなどもあります。ヤフー以外はいずれもスマホに特化しているサービスです。
 こうしたプラットフォームが最近急激に伸びたのは、先ほどお話があったスマホへのシフトという流れにいち早く取り組んで、パブリッシャー側との関係をうまく作って、ネットワーク化して成長してきたからだと思います。

スマホでニュースは中高年層にも拡大中

―スマホで読むなら、必然的に読者は若者ということになるのでしょうか。

片岡 ヤフーニュースは、従来はパソコン用のサイトがメインでしたが、その後、スマホでウェブブラウザーを使って読む人、スマホに専用のアプリを入れて読む人が出てきて、それぞれ使う世代も使い方も若干異なります。
 パソコン用のサービスではやはり年齢層は高くて、スマホでは30代後半から40代前半ぐらいが中心です。
 パソコンはオフィスからの利用が多いので、ヤフージャパンのトップページに来てからニュースを見るという使い方が大半です。スマホのウェブはそれに似てはいますが、よりパーソナルなコンテンツと、ニュースの中でもエンタメ系が強いという特徴があります。
 スマホアプリは、ニュースへの接触量も、他の2例より多くてアクティブです。当初の予想では、エンタメ系やスポーツニュースのニーズが高いかと思っていたら、むしろ硬めの大手新聞などの真面目な記事が多いことが分かりました。
 もう一つは、例えば都道府県別に個人的な関心を追いかけられる機能を設定できるようになっているのですが、そうしたパーソナルな機能の人気が高く、非常に頻繁に使われています。

スマートフォンによるニュース利用の実際 「ニールセン Mobile NetView 2016年5月 スマートフォンニュースアプリ」調査からスマートフォンによるニュース利用の実際 「ニールセン Mobile NetView 2016年5月 スマートフォンニュースアプリ」調査から

―硬めのニュースとは意外ですね。

藤村 スマートニュースの使われ方も、ヤフーニュースさんのアプリに近いと思います。スマホなので読者は若いと考えがちですが、20代や30代はそれぞれ十数%で、40代以上の年齢層をすべて束ねてみると、その層が一番大きくなります。
 全体を大きく見渡すと、比較的年齢が高い層にも浸透していてかなり均等に分散しており、若い人中心であるとは言い切れないと思われます。

亀松 ごく最近は、スマホでニュースを読んでいる人の年齢層が結構高くなってきていると感じますね。私自身はネットのニュースの仕事をして10年が経ちますが、最初にJ-CASTニュースにいた頃は、30代ぐらいの人が中心で50代以上はほとんどいなかったと思います。
 しかし最近は、特にiPhone6が出た14年あたりから、上の世代の読者も結構スマホに切り替えているようですね。

―ニュースの読まれ方として、地域とか時間による特徴はあるでしょうか?

片岡 PC版は、オフィスでの利用も多く、アクセス量でいうと昼の時間が一番大きく、夜になると減る傾向にあります。
 スマホは朝と夜も多いですが、日中に手がすいたときに使う場合もあり均等に小さなピークが出るし、平日と週末の差がほぼないですね。

藤村 われわれの利用パターンも同じようなものですね。朝、昼、晩、それに加えて深夜に、こちらから新着情報をプッシュ配信することを行っていますが、それに合わせるように数字は上がります。しかしそういう場合にも、極端にアクセスが上下するということはありません。
 読まれるコンテンツの種類は、朝の時間帯は通勤用の一般ニュース、昼は徐々にエンタメに寄っていき、夜はもう完全にお楽しみの世界というように、はっきりと変化していきます。

―最近特に読まれたニュースは?

藤村 やはり伊勢志摩サミット、それに引き続いてアメリカのオバマ大統領が広島を訪問したときは非常に読まれました。
 それから、熊本や大分の震災報道の際に、罹災者に向けた比較的実用的な、あるいはライフラインに関わる情報に特化したチャンネルを設置しましたが、そうした情報ニーズは大変高かったですね。
 またエンタメ系では、やはり芸能関係で不倫スキャンダルのようなニュースが多く読まれました。

片岡 ヤフーでも似た傾向がありました。
 やはり熊本地震関連のニュースは非常によく読まれました。それ以外のエンタメ系のコンテンツやスポーツの話題もよく読まれています。
 エンタメ系と比べると、国際問題や外交関連のニュースは普段はあまり読まれませんが、先日のサミットや大統領の広島訪問などは非常に読まれました。

各社のニュースを自動的に選んで配信

―ネットのニュースでは以前、読者の関心に従って最初に見出しが順に並んでいるだけで、見出しの大きさや位置でニュースの重要性が分からず、新聞などで取り上げられた重要ニュースが出てこない場合もあって、偏りがあると問題視されたことがありましたが。

Yahoo!ニュースアプリYahoo!ニュースアプリ
SmartNewsアプリSmartNewsアプリ

片岡 ヤフーニュースのアプリでは、まず編集部が選ぶ8本のニュースが表示され、それに加えて、パートナーから配信していただいたニュースをタイムラインという形式で見せています。
 8本のニュースは編集者が判断して並べており、オバマ大統領の広島訪問のニュースはもちろん、一番上に出しており、エンタメ系は下のほうに出すという基本的な考え方で編成しています。ですから現在は、重要なニュースが隠れているということはありません。

―スマートニュースさんは毎日1000もの媒体からニュースを選ぶ大変な作業をやられていますが。

藤村 スマートニュースの場合は、編集や編成という部門はなく、それに専従的に携わっているチームもありません。基本はテクノロジーで、プログラムにより自動的にニュースを選別して配信しています。的確なニュースを配信するために、人手はプログラムの動きをチューニングするなど、精度を向上させることに用いています。
 このプログラムは、記事に対するソーシャルメディア上などでの評価を複数束ねて、解析したデータを使って自動的にスコアを付けていくものです。そしてその変化をリアルタイムに追いかけ、これからの読者の興味やニュースに対する需要などの予測値を計算して、それに沿って編成をしていくわけです。
 また一方では、人間が教えたことも学習します。例えばこの記事は政治、この記事はエンタメ、こちらはスポーツと、人間が教え込むことを続けていくと、おおむね人が編成したのに近い状態を違和感なく再現できるようになります。ヤフーさんが8本の記事を人間が選んでいるのと同じようなことを、プログラムで自動的に行っているのです。
 しかし機械ですから間違うことがあります。例えばの話ですが、安倍首相が軽井沢でゴルフをした記事があったとすると、これを政治に分類すべきかスポーツなのかのジャンル分けが難しい。機械がうまく判定できない場合があれば、人間が修正することによって、次から正しく処理できるよう、日々精度向上に取り組んでいます。

―完全に自動化するということが目標ですか。非常にネット的なトレンドですね。ネットではパーソナライズ機能も使えると思いますが、読者の行動に合わせた記事の出し方はどうでしょう。

藤村 現在もすでに自動ですが、違法性が高かったり公序良俗に反したりしているものは、やはり人間がダブルチェックして出さないようにもしています。
 またパーソナライズ機能として、「この読者は先週芸能記事を何本も読んだので、今週も似た記事をたくさん出す」、というような機能が取り沙汰されますが、私たちはいまのところ、あまりそうした処理を加えることはしないようにしています。
 どちらかというと、コンテンツとの出合い方に、なるべく多様性を持たせるためのある種の方程式を探っており、誰もが「こんな記事があったか!」と新鮮な驚きを持ってもらえるようなシステムを研究しているところです。

―ヤフーさんの記事の選択とか、編集の仕方は自動化はしないで、人手中心と考えていいですか。

片岡 われわれは契約させていただいている300の媒体から、毎日4000本程度の記事を配信してもらっています。それを編集部20~30人で確認しながら編成をし、いわゆるヤフージャパンのトップページに出てくるトピックスを作ります。
 それに加えて、その下にあるタイムラインでは、

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