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温暖化対策を求めて 高校生が「スト」する理由

酒井功雄/中村涼夏

 スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさんが、気候行動サミットで怒りの演説をしたことで、気候変動抑止への取り組みが世界的に注目されました。16歳の高校生の発言は大人たちの欺瞞や怠慢を暴くもので、その思いは各国の若者たちにも共有されています。日本でも温暖化対策などを訴えて金曜日に学校を休む活動「Fridays For Future Japan(未来への金曜日)」が広まっています。活動に加わる高校生2人に思いをつづってもらいました。

非常事態を伝えるためにマーチの先頭に立った

酒井功雄 さかい・いさお 東京都立国際高校3年。2001年、東京都中野区生まれ。17年に1年間米国ミシガン州に留学。翌年12月から国際環境NGO350.orgのボランティアとして活動。趣味は鉄道の写真撮影。学校では水泳部に所属しているが、泳ぎは苦手。哲学や社会学にも興味があり、米国のリベラルアーツ大学への進学を目指している。

 私は「環境問題」にまったく興味がなかった。東京で生まれ育った私は、自然に親しむこともなく、教科書に「地球温暖化」と書いてあるのを見ても、遠い誰かの問題だと思っていた。

留学先で受けた衝撃

酒井功雄さん
 そんな私が2年前、米国の高校に留学中、環境科学のテストを受けた。地球温暖化を助長する要因について、いくつかの選択肢から選ぶ問題だった。私は答えを間違えた。正解は「永久凍土が解けること」だった。先生によると、温暖化が進んで永久凍土が解けると、土の中で凍っていた有機物が分解されたり、氷に閉じ込められていたメタンが大量に放出されたりするという。メタンは温室効果ガスの一つで、地球温暖化係数が二酸化炭素(CO2)の約25倍もある。温暖化による気温上昇で永久凍土が解け、メタンが放出されてさらに気温が上がる。そうなると、さらに永久凍土は解けて……。

 私は、温暖化のシステムが相乗的なサイクルになっていることに、衝撃を受けた。このまま放っておいたら、負のサイクルを止めることができずに、どんどん状況が悪くなる。自分の生活に、どんな悪影響を及ぼすのだろう。悪くなる状況を止めるために、「自分も何かしなければいけない」と強く感じた。

 日本に帰ってきてから数カ月後、高校の同級生が「350.org」という国際環境NGOを紹介してくれた。ボランティア登録をして参加してみると、驚くべきことがわかった。石炭は化石燃料の中で最も安価な資源である一方、単位あたりのCO2排出量が最も多い。石炭は過去の遺物だと思っていた。だが、日本では、いまだに新しい石炭火力発電所を建設しており、さらにそれを海外に売っているという。

 日本の銀行は、世界的に見ても多額の資金を、石炭を始めとする化石燃料に投融資している。人々が銀行に預けたお金が、温暖化を助長している。350.orgは、化石燃料から投資を撤退させる「ダイベストメント」を世界中で展開している団体だ。

南極で作物が育つ?

 シンガポールに旅行した時、現地の350.orgのメンバーで、物理教師をしているデイブさんに会った。彼は、昼飯を食べながら「このまま気温上昇が続けば私たちの未来は危ない」と語った。そして気温が4度上昇した世界の地図を私に見せた。

気候行動サミットで演説するスウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさん。16歳の少女は各国政府代表をにらみつけ、「若者たちはあなたたちの裏切りに気づき始めている。私たちを見捨てる道を選ぶなら、絶対に許さない」と対策の遅れを非難した=2019年9月23日、ニューヨークの国連本部、ロイター

 私は目を疑った。地図には「低緯度の国は、干ばつや洪水で住むことが不可能になる」とあった。「氷が解けた南極で作物を育てることができるようになるだろう」とも書かれていた。デイブさんは「もしこんなことになったら、低緯度地域の人たちは移動せざるを得なくなる」と語った。大量の気候難民が生まれ、紛争が起こってもおかしくない。世界平和にも関わる問題だ。その地図で日本は、干ばつを示す茶色に塗られていた。このまま気候変動が進めば、自分たちの未来はなくなり、争いや異常気象に悩まされることになってしまう。

 ちょうどそのころ、16歳のスウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥンベリさんの動画を見た。彼女の発言は深く胸に刺さった。

 「あなたたち大人は嘘つきだ。私たちに未来は希望を持つべきものだと言った。しかし現実はどうか。あなたたちは私たちの未来を奪っている」「2070年、私には子供がいることでしょう。その時、彼らは言うかもしれません。なぜ、あなたたちは、まだ時間があった時に何も対策をしなかったのかと」

 すでに干ばつ、洪水、台風などで、多くの人たちが苦しんでいる。化石燃料を燃やし続ければ、もっと大きな気象災害に見舞われるようになるかもしれない。いま行動を起こさなければ、未来を守ることができなくなる。この恐怖や危機感を共有したいと思った。

「学校ストライキ」に参加

 彼女が始めた「Fridays For Future(フライデー・フォー・フューチャー、FFF)」、別名「学校ストライキ」の日本でのアクションがあると聞き、参加した。

 今年2月に最初に国会前でスピーチをした時の参加者は20人程度だったが、3月には約100人、5月は約300人と増えていった。9月の「グローバル気候マーチ」には東京では約2800人、全国で約5000人が参加した。

 2月のアクションに参加した高校生は僕一人だった。「声を上げる高校生はまだ少ないのか」と

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