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感じづらい民主主義の手触り 「助けてくれる」で政治に関心を

たかまつなな 時事YouTuber

 私は、お笑いを通して社会問題を発信したいという夢を中学生の時に掲げ、中学3年生で初舞台に立った。お笑い芸人になり、主権者教育の会社を立ち上げ、NHKの報道局でディレクターとして働き、退社後に時事YouTuberとなった。そんな27歳の私が考える「民主主義を若者が実感するために何をすべきか」について、私の失敗談を踏まえて見ていきたい。主権者教育の現場や制度については当事者として、取材者として、専門性があると自負している。また、若者に政治を身近に伝え、民主主義の手触り感を持ってもらうための私の挑戦についても記したい。

 2016年に18歳選挙権が導入された。若者の政治的関心が低いことが一つの契機だった。これを機に主権者教育が推進された。16年の参議院選挙は、70年ぶりの選挙権年齢引き下げということもあり、各メディアが連日こぞって報じ、「18歳選挙権バブル」がおきた。

 あれから、4年半、主権者教育は今どうなっているのだろうか。16年と19年の参院選での18歳の投票率を比較すると、51.28%から34.68%にまで下落した。16.6%も下がるようなことがあっていいのか。若者の政治的関心を高めるためには、一体何が必要なのだろうか。

 なぜ、投票に行かないのか。

 16年度に総務省が、18~20歳の3千人に投票に行かなかった理由をネットで調査したところ、「今、住んでいる市区町村で投票することができなかったから」(21.7%)、「選挙にあまり関心がなかったから」(19.4%)、「投票所に行くのが面倒だったから」(16.1%)などだった(複数回答可)。

 成人式は地元で参加したいなどとして大学進学時などに住民票をあえて移さないこともあるようだ。住民票を移していなくても不在者投票ができる場合もあるが、居住実態など自治体が個別に判断する。若者からしたら、早くネット投票にしてという感じだろう。しかし現実問題としてはかなり難しい。①サイバー攻撃を防ぐ等のセキュリティ②誰に投票したか秘密に行えるか③選挙のルールが大きく変わるため今まで勝っていた政治家や政党が不利になる可能性が高く政治的合意を得られない、など大きな壁が立ちはだかっている。

 では、何が若者の投票率を向上させるのか。総務省の調査によると、子どもの頃、親の投票に同行したことがある人の方が約21%、学校で主権者教育を受けたことのある人の方が約7%、ない人よりもそれぞれ投票率が高いことが分かった。学校よりも親の方が影響力が強いことが分かる。学校だけでなく、家庭での習慣や主権者教育も大事だと言えるだろう。

主権者教育の現状

 教育現場では「政治的中立性」が求められる(教育基本法第14条第2項)。しかし、これが過度に求められ、学校の主権者教育では具体的な政治事象を取り扱わず、選挙の仕組みだけを扱ったり、架空の政策で選挙公報を作って模擬投票を行ったりするだけにとどまることが多い。実際のマニフェストに触れることや、過去の法律や政策決定過程を追うことはなかなかない。

 15年に総務省と文部科学省は主権者教育の副教材「私たちが拓く日本の未来」を作成した。しかし、100ページ以上と膨大なうえ、教師用の指導資料は禁止事項などが並んでおり、現場の先生からは使いにくいと不評であった。

 たとえば、「政党比較表を完成させよう」というページは、白い枠が用意されているだけで、生徒が調べて記入しなければならない。先生が全政党のマニフェストを配布するのは公職選挙法上難しく、かと言って生徒が自力で埋めるのは不可能に近いだろう。私自身、選挙期間中に似たようなものを作るが、30〜50時間はかかる。指導資料には、これが次の授業までの課題であることや、公職選挙法に留意する必要があることが記載されている。

 主権者として育てるための副教材がこれで良いのだろうか。なぜ投票に行く必要があるのかや、個別具体的な政治事象についてはほとんど触れられず、単なる選挙の仕組みと手法集になっている。学校の先生が一番頭を悩ませる政治的中立性は

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