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調査報道の発掘と再評価を 市民支持を促すアーカイブ

調査報道の未来

高田昌幸 東京都市大学メディア情報学部教授

 「調査報道」という語句が、メディア界で広く使用されるようになってきた。調査報道の衰退・低迷を危ぶむ一方、ジャーナリズム再生のキーの1つは調査報道にあるとの認識が広がっているからだろう。調査報道をもっと盛んにすべしとの主張に異論はあるまい。筆者もその1人である。

 では、調査報道とは何か。その考え方には報道する側にも相当の幅がある。

福井新聞で調査報道を担う「ふくい特報班」
福井新聞ONLINEの「ふくい特報班」

 例えば、福井新聞で調査報道を担う「ふくい特報班」は最近、福井県内に点在するブロンズの少年像について「正体が不明だ」として、少年像が各地に置かれた事情を2回にわたって報道した(福井新聞ONLINE、2022年5月7日、同22日)。「ふくい特報班」は、日常の中で見過ごされていたり、読者から寄せられたりした小さな疑問を元に取材を進める「オンデマンド調査報道」の1つである。西日本新聞が始めた「あなたの特命取材班」(通称・あな特)と同様の枠組みだ。少年像の記事はほのぼのとした謎解きを楽しめる。

「公権力監視がポイント」

 それでも「これが調査報道だ」と言われると、戸惑いを覚える人も多いのではないか。

 武田徹・藤田真文・山田健太監修の『現代ジャーナリズム事典』(三省堂)によると、調査報道の語義は次の通りである。

 当局者による「発表」に依拠することなく、独自の問題意識を持って、隠れている・隠されている事象を掘り起こし、報道すること。とくに権力の不正や不作為などを対象にしたもので、その時に取材・報道しなければ、歴史の波間に埋もれてしまう事実を掘り起こす報道を指す。「発表報道」に対置される概念であって、調査報道こそがジャーナリズムの本務であるとの考えもある。調査報道には、権力不正を暴く「権力監視型」、埋もれている問題を長期間にわたって報じる「キャンペーン型」などに類型できるが、最大の特質は「権力監視型」が持つ〝破壊力〟にある。(この項の執筆は筆者)

 リクルート事件報道などを手掛け、調査報道の担い手として名を馳せた朝日新聞元記者の山本博氏(故人)は2010年、筆者のインタビューに対し、「調査報道とは何か。一言で言えば、ジャーナリズムによる公権力の監視が調査報道のポイントです」と語っている。極めて簡潔で、端的な回答だ。

 上掲書や山本氏の説明の通り、これまでの調査報道は「権力監視」を旨としてきた。立花隆氏(故人)のチームが1974年に成し遂げた調査報道「田中角栄研究 その金脈と人脈」も、総理大臣という時の最高権力者を対象にしたところに大きな意味があった。

 立花氏らの仕事は世界的な調査報道の金字塔「ウォーターゲート事件」報道の2年後である。これを機に、ある種の憧憬を持って日本の報道界でも調査報道を実施すべしという機運が高まった。田中角栄研究をはじめ、官僚機構や公社・公団の腐敗を突く公費天国キャンペーン(朝日新聞、1979年)、ミドリ十字事件報道(毎日新聞、1982年)、リクルート事件報道(朝日新聞、1988年)などが花開いた。

 しかし、「調査報道が重要」「ジャーナリズム再生のポイントは調査報道の復権」といったことが言われてはいるものの、調査報道とは何かという考えは必ずしも一致していない。権力監視型のみが調査報道ではないし、社会の構造的問題を明らかにするキャンペーン報道などもこの範疇に入るだろう。

 それに関して重要な点は、

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