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ニュース使用料に広がる法整備 メディア自身の改革こそ急務

プラットフォームは敵か味方か(下)

平 和博 桜美林大学教授(ジャーナリズム)

 「ニュース使用料」の議論が熱を帯びている。地球規模で拡大を続けるプラットフォームと、地盤沈下が著しいメディア。ニュース使用料を巡る圧倒的な交渉力の格差を、法整備で後押しする動きが欧州連合(EU)、オーストラリア、そしてカナダで相次ぐ。プラットフォームとメディアの関係は、民主主義社会と情報空間のあり方にも波紋を広げる。ただ、根本的な問題解決のカギを握るのは、メディアそのものの改革だ。

グーグルに罰金5億ユーロ

 グーグルは暫定措置命令違反の決定に対する不服申し立てを取り下げる。これにより、2021年7月12日に競争委員会が科した5億ユーロの罰金が確定する。

 フランスの規制当局である競争委員会は今年6月21日、そんな発表をしている。罰金5億ユーロ(約713億円)は、競争委としては過去最高額という。この発表は、フランスメディアとグーグルとの、ニュース使用料を巡る攻防の決着を意味するものだった。

Ascannio/Shutterstock.com

 ニュース使用料は、プラットフォームとメディアが長年にわたって攻防を繰り広げてきたテーマだ。プラットフォームはニュースなどのコンテンツで関心を引きつけ、膨大な数のユーザーを集めることで巨額の収益と規模拡大を続ける。だがメディアには、ニュースの利用に適正な対価が支払われていないとの不満が鬱積する。メディアは購読収入、広告収入の低迷で地盤沈下が続く。

 グーグルの親会社アルファベットは、新型コロナ禍が続く2021年の売上高が、2576億ドル(約36兆8447億円)。フェイスブックを運営するメタの同年の売上高は 1179億ドル(約16兆8650億円)。その大半が急拡大の続くインターネット広告で、同市場は両社の複占状態だ。

 世界ニュース発行者協会(WAN―IFRA)が今年5月6日に発表した年次報告書によると、世界58カ国162社のメディアの売上高は計1309億ドル。メタをやや上回る程度だ。

 プラットフォームとメディアには、規模の違いによる圧倒的な交渉力の格差がある。これに対して、メディアとプラットフォームの交渉を、法整備で後押しする動きが広がり始めた。

 EUでは19年4月、プラットフォームのニュース使用について、メディアが対価を請求できる新たな権利(複製権、公衆送信権などの著作隣接権)を認めた「デジタル単一市場における著作権指令」が成立した。

 フランスは同年7月、各国に先駆けて新著作権指令を国内法に適用する。ところがグーグルはニュース使用料の支払いを拒否した。これに対してAFP通信などのフランスメディアが競争委に申し立てを行う。競争委は20年4月、「グーグルの対応が、支配的地位の濫用に当たる」と認定し、メディアとの交渉に応じるよう暫定措置命令を出した。グーグルは不服申し立てをしたが、同年10月8日に退けられた。

 その1週間前の10月1日にグーグル最高経営責任者(CEO)のスンダー・ピチャイ氏が発表したのが、3年間で総額10億ドルを各国のメディアに支払うというプログラム「ニュースショーケース」だ。グーグルニュースに新コーナーを設け、各メディアのニュースの掲載に対して報酬を支払うという建て付けだ。だが一方で、この契約締結によって、メディアが持つ本来のニュース使用料の請求権を事実上放棄させる仕組みだった。

グーグルのスンダー・ピチャイCEO

 フランス競争委は21年7月12日、「ニュースショーケース」は「メディアへの使用料の支払い回避・限定」の戦略だったと認定。これにより前年4月の暫定措置命令に違反したとして、グーグルに罰金5億ユーロの支払いを命じた。グーグルは不服申し立てを行っていたが、前述の競争委の発表の通り、最終的にそれも取り下げた。

 またグーグルは競争委の命令を受けて、「各メディアとの誠実な交渉」「透明性を担保した報酬額の評価に必要な情報の通知」「交渉不調の場合の仲裁手続きの保証」などの改善措置案を提出し、認められたという。

 競争委が「メディアへの使用料の支払い回避・限定」戦略と断じた「ニュースショーケース」は、すでに日本を含む18カ国1700社超と契約済みだ。

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