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心は政治のアウトサイダーで 太い幹倒すナタのような仕事を

政治報道は変わったか(6・完)

松原耕二 BS-TBS「報道1930」キャスター編集長

 忘れられない場面がある。橋本龍太郎氏と小泉純一郎氏の事実上の一騎打ちとなった自民党総裁選。もう二十年以上前のことだ。当時、夕方ニュースのキャスターをしていた私は、自民党本部で行われた橋本氏の立候補会見に臨んだ。

 小泉氏は普通に戦えば、最大派閥を率いる橋本氏に勝てるはずもない。そのため派閥解消という、橋本氏には決してできないスローガンを掲げていた。

「厳しい質問は他社にさせろ」

 「小泉さんは派閥解消を訴えています。橋本さんはどうされますか?」

 そんな質問を繰り返したのを覚えている。派閥の弊害が盛んに論じられていたこともあってか、橋本氏は執拗(しつよう)な私の質問にあからさまに不愉快そうな表情を浮かべた。最大派閥がバックにいることは強みでもあり、同時に弱みに転ずる可能性もあったのだ。

自民党総裁選直前に橋本派総会で青木幹雄・参院幹事長と話す野中広務・自民党幹事長、橋本龍太郎・橋本派会長(肩書はいずれも当時)=2001年4月5日、自民党本部

 会見が終わって部屋を出たところで、私と一緒に来ていた番組のディレクターが少しはずれた場所に呼ばれ、怒鳴られる声が耳に入った。橋本氏が所属する派閥を担当する先輩記者だった。

「野中さんが見てただろう。厳しい質問は他社にさせるんだよ」

 抑えた声ながらも、怒気を含んだ強い口調だった。野中さんとは言うまでもない。当時、橋本派で最大の実力者だった野中広務氏だ。会見場の後ろから、やりとりを見ていたという。

 キャスターだった私には直接言いにくかったに違いない。しかし先輩記者の怒りはディレクターではなく、明らかに私に向かっていた。

 先輩記者からすれば、自分たちの苦労も知らずに、という思いだったのだろう。日々、他社としのぎを削って有力政治家に食い込み、インサイダーしか知り得ない情報を取ろうとしている。アウトサイダーである番組の人間がいきなりやってきて邪魔されてはたまらない。その気持ちも理解できたし、人一倍、仕事熱心だったが故に出た台詞(せりふ)だったのかもしれない。しかし会見に対する考え方の違いは、埋めることのできない深い溝のように思えた。

 「厳しい質問は他社にさせるんだよ」

 強い口調で発せられたその言葉は、今も鮮烈に耳に残っている。もちろん、もう二十年も前のことだ。政治報道をめぐる状況も昔のままではない。でもその底流にあるもの、私たち報道に携わる人間が突きつけられているものは、今も変わらないのではないか。

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