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重責の代償 金融機関元役員らの巨額賠償判決 今世紀に入って相次ぐ

 金融機関の経営者としての注意義務に違反したなどとして、銀行や信用組合、住宅金融専門会社(住専)の元役員らに巨額の賠償責任を認める民事訴訟の判決は2000年以降、相次いで言い渡されるようになった。監督官庁やワンマン上司などに従っていたという言い訳や「バブルの抗弁」は通用せず、役員たちがみずからの目と頭で経営をチェックするよう裁判所は求めている。

(奥山俊宏)

 ■高額の義務

 被告は損害254億円を賠償すべき義務を負うと解すべきである――。2001年11月5日、住専の第一住宅金融の元副社長に原告請求の3億円の支払いを命じた東京地裁判決の理由だ。東京商銀信用組合の元理事長に5億円の支払いを命じた判決の理由には「68億円の損害を賠償すべき義務がある」と記されていた。

 不適正融資で回収不能になった金額の賠償責任をすべて、関与した役員個人に負わせようとする論理が判決理由に明示されている点が共通する。

 きわめつきは2000年9月20日の大阪地裁判決だ。米国での違法行為を容認したり、検査が手抜きだったりした点をとらえ、大和銀行の現旧役員11人に対し、総額7億7500万ドル(約975億円)を銀行に賠償するよう命じた。2001年12月10日、大阪高裁の控訴審で和解が成立した。

 ■放漫を指弾

 金融機関の経営者の民事責任を追及する訴訟は1995年以降、相次いだ。株主や出資者が代表訴訟を起こすようになり、96年に、整理回収銀行、住宅金融債権管理機構が登場し、破たん金融機関の旧経営陣を訴え始めた。

 その2社を引き継いだ整理回収機構は、「不良債権を発生させた金融機関の旧経営者の責任を徹底的に追及する」という自民、民主などの政党合意で生まれた。

 数十件の訴訟のうち、一部で2000年から地裁判決が出るようになった。

 多くは担保不足で回収見込みの薄い融資を承認した責任が問われた。焦点の一つは、バブル期の「放漫融資」をどう見るかという点だ。

 89、90年の融資について、元役員らの側は「当時は地価暴落を予見するのは不可能だった」(第一住金)、「バブル崩壊を予見できない時期だった」(河内信組)などと主張した。

 判決では「経営には多少の危険は不可避であり、また、時代環境により許容される経営判断にも違いがある」などと一定の理解が示された。それでも、政府が地価抑制に政策転換しようが、バブルが崩壊しようが、役員らに不注意があったことに変わりはない――と裁判官たちは判断した。

 「著しく合理性に乏しい選択をした」「決裁書類の添付資料が不十分であり、理事らは審査部の担当者に説明を求めるべきだった」などとバブル期の融資が指弾された。

 ■回避許さず

 「理事長が責任を持つと明言していた」(大阪信組)、「監督官庁が融資を容認していた」(田辺信組)などと責任をなすりつけようという元役員もいた。判決は、「理事長の発言で回収の確実性が増すわけではない」「信組の経営主体はほかならぬ被告らであり、監督官庁にかこつけて責任を回避することは許されない」とした。

 和歌山県商工信用組合の元理事長(故人)の相続人や元役員は違法配当の責任を追及された。元役員側は「決算を赤字で公表すると信組が破たんし、金融界に信用不安を引き起こす恐れがあり、監督官庁の指導で決算を粉飾せざるをえなかった」と反論した。

 しかし、和歌山地裁の判決は「役員には違法配当をしてはならない義務があり、仮に監督官庁から指導されたとしても同じだ」とした。

 ■地裁判決で損害賠償を命じられた金融機関経営者らと支払い命令額

 (1)三福信組元理事長ら(2000年5月、9月、大阪地裁)5億736万円

 (2)大和銀行頭取ら(2000年9月、大阪地裁)7億7500万ドル

 (3)田辺信組元理事長の遺族ら(2001年3月、大阪地裁)7億円

 (4)大阪信組元常務理事ら(4月、大阪地裁)1億7043万円

 (5)大和信組元理事長ら(5月、大阪地裁)4億4700万円

 (6)東京商銀信組元理事長ら(5月、東京地裁)5億円

 (7)和歌山県商工信組元理事長の遺族ら(8月、和歌山地裁)2億2924万円

 (8)河内信組元理事長の遺族ら(9月、大阪地裁堺支部)6億円

 (9)三重県信組元理事長(10月、津地裁)6607万円

 (10)第一住宅金融元副社長(11月、東京地裁)3億円

 

▽この記事は2001年12月12日の朝日新聞朝刊第3社会面(大阪本社発行)に掲載されたものです。