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日本風力開発株式会社が監査人を解任、外部調査委員会で疑義は晴れたか?

奥山 俊宏

 東京証券取引所マザーズ上場の日本風力開発株式会社(本社・東京都港区新橋2丁目)の決算をめぐって、監査人だった新日本有限責任監査法人と同社が対立している。「当社従業員と取引先従業員の間で交わされた会社として認知していない文書」が4月に見つかり、同社は「外部調査委員会」を設置。その調査報告書は「文書に法的効力はない」と結論づけた。この調査結果によって決算への「疑義」が晴れたといえるかどうかが同社と新日本側との対立点だ。同社は新日本を同社の監査人から解任しつつ、新たに別の「第三者調査委員会」を設けて調査。改めて「会計基準を逸脱するものであるとはいえない」と公表済み決算を是認する結論を導き出した。

▽取材・執筆:奥山俊宏

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▽本文中に埋め込まれたリンクはすべて日本風力開発のウェブサイトへのものです。

 

 日本風力開発は1999年7月に「風力発電所の開発及び風力発電による売電事業を展開すること」を目的に設立され、2003年3月に株式を上場した。風力発電所の建設・運営などのほか、「ゼネコンに対する発電機器の販売あっせん」などの「販売代理店」事業も手がけている。 

最初の外部調査委員会

 同社が公表した外部調査委員会「調査報告書要旨」によれば、問題の文書は「覚書」と題され、2009年3月23日付で締結されていた。風力発電機(風車)93基の販売に関する「内示書」5通と蓄電池67メガワット分の販売に関する「内示書」3通がそれに添付されていたという。

 同社は、風力発電所の建設を請け負う取引先のゼネコンに対して、風力発電機や蓄電池の販売をあっせんし、見返りにメーカーから手数料を得るビジネスを手がけていたが、同社の広報担当者の説明などによれば、問題の覚書には、もし仮に風力発電所建設が実現しないことになった場合に、「風力発電機に関しては、メーカーとのすべての調整を当社が行い、ゼネコンに対して損害賠償等の負担をかけないこと」「蓄電池に関しては、当社がゼネコンに対し代金等を支払うという内容」が記載されていたという。

 ゼネコンが将来の需要を見越して発電機器を購入しておく際のリスクの相当部分を日本風力開発が引き受けるというような内容だった。

 「調査報告書要旨」によれば、この覚書について、取引先ゼネコンの従業員から日本風力開発の従業員には「アンダーグランドで結ぶもので,表には一切出しません」との電子メールが送られてきていた。覚書は従業員個人の名義で署名押印されていた。日本風力開発の社内禀議も経ておらず、同社の側は当時、会社としてはこの覚書の存在を認識していなかったという。

 日本風力開発の説明によれば、同社がこの覚書を確認したのは今年4月になってから。今年3月期の決算の会計監査が始まった後だが、同社によれば、監査で指摘を受けたのではなく、取引先の社内調査で発覚し、日本風力開発に連絡があって判明したのだという。

 会社が公表した新日本有限責任監査法人の「意見」によれば、同監査法人は今年4月、問題の文書を初めて見せられ、「販売あっせん手数料の収益計上に疑義を生じさせる」ととらえたという。

 同社が公表していた昨年3月期決算(訂正前)では売上高は約72億円とされており、このうち31億9千万円が風力発電機115基の販売をあっせんしたことによる代理店手数料、4億5200万円が40メガワット分の蓄電池の販売をあっせんしたことによる代理店手数料だった。問題の覚書は、風力発電機93基、蓄電池67メガワット分の販売に関連しており、疑義が晴れない場合の決算への影響は大きい。

 こうした疑義の浮上を受けて、同社は4月27日、「会社とは利害関係のない外部の第三者」による外部調査委員会を設置した。調査委員長は河邉義正弁護士(元東京高裁判事部総括)。調査委員は中村信雄弁護士(元東京地検特捜部検事)と蓮見正純・公認会計士の2人が選ばれた。

 調査の結果、外部調査委員会は問題の文書について、「いずれも対象会社(日本風力開発株式会社)との関係で法的効力が無いことは明らか」と結論づけた。

 「無権限者が決裁権限者の承認を得ないまま、個人的に作成されたものであり、法的拘束力を意図した文書ではないことは明らかである。当事者の内心的な効果意思も存在せず、無権代理ないし通謀虚偽表示により、対象会社(日本風力開発株式会社)に法的効力の及ばないものであることは明らかであると言える。なお、取引先(ゼネコン)従業員が、事実上、対象会社の正式決裁を経ていないことにつき、悪意ないし有過失であることは明白であるので、およそ表見代理等が成立する余地もないものと言うべきである」

 同社は5月14日、この調査結果を前提にして今年3月期決算を発表した。

監査法人を解任

 同社の決算の適正さを外部の目でチェックする監査人の立場にある新日本有限責任監査法人は、外部調査委員会の最終報告によっても、疑念を晴らすことができなかった。

 「会社が設置した外部調査委員会の調査報告及び当監査法人の追加的監査手続の結果を踏まえても、関係者の説明の変遷や齟齬等により、当該覚書等を巡る事実関係についての疑義は払拭されるに至らず、当監査法人として意見表明のための合理的な基礎を得られない状況であった」

 新日本有限責任監査法人の「意見」によれば、新日本としては、会社が5月14日に公表した決算に太鼓判を押すことはできず、「過年度決算の見直しを含めた適切な措置をとるよう求めてきた」という。

 日本風力開発は6月14日、監査役会の決議により、新日本有限責任監査法人を同社の会計監査人から解任し、やよい監査法人を代わりに一時会計監査人に選任した。同社としては、新日本の態度は「中立かつ公正な第三者による調査」の結果について「特段の合理的根拠なくその信頼性に疑義を呈している」としか判断できなかったという。同社は新日本の対応について、「学者、弁護士、会計士等の複数の専門家の意見に照らしても、不当であると結論付ける他ない状況」と判断したという。

 新日本有限責任監査法人は監査業界の最大手。解任について「極めて遺憾である」とする意見を会社に表明した。

 「当監査法人は、会社に対し、重ねて説明を求めるとともに、過年度決算の見直しを含めた適切な措置をとるよう求めてきたが、その最中、解任通知を受けたものである。このように、当監査法人は適正に監査手続を実施してきたものであって、解任事由は存在しない」

 「上記の疑義に加え、これまでの会社の対応により、もはや監査の継続は不可能になったと判断せざるを得ないことから、当監査法人は、会社との間の監査契約を解除した」

 会社はこの「意見」について、6月16日、「監査法人と当社の間には、事実認識においても、大きく乖離があるといわざるを得ません」とする「当社意見」を公表した。

新たな第三者調査委員会

 強気の態度を示す一方で、同社は6月28日、新たに第三者調査委員会を設置し、河邉弁護士が調査委員長に就任すると発表した。

 最初の外部調査委員会は「覚書」の作成経緯や法的有効性を主な調査対象にしたが、新たな第三者調査委員会は「過去の決算処理が適切であったかどうか」を検討対象にすることになった。同社の広報担当者は「世間的にも注目を浴びており、会計的な視点からもう一度見ていただく」と述べた。

 6月30日の発表によれば、委員長の河邉弁護士の下で調査委員を務めるのは長屋文裕弁護士(元最高裁判所調査官、元東京地方裁判所判事)、大森一志弁護士(元東京地方検察庁検事)、城哲哉・公認会計士、大月将幸・公認会計士(弁護士)の4人。

 調査報告書は7月14日に会社に提出され、15日に公表された。

 それによれば、「覚書」は2つあったという。

 そのうちの一つ、風力発電機メーカーと日本風力開発の間で取り交わされた覚書(2009年3月10日付)には、風力発電機100基分について、日本風力開発の子会社のどの風力発電所工事で用いられる予定であるかが暗に

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