メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

(4) 監査役監査や内部監査に課題 公認会計士監査は厳格化

外部監査厳格化の影響は地方の企業にも波及

 ■外部監査の厳格化

佐々木清隆課長佐々木 清隆(ささき・きよたか)
金融庁検査局総務課長(前証券取引等監視委員会事務局総務課長)
 東京都出身。1983年、東大法学部卒業後、大蔵省(当時)に入省。金融監督庁(現金融庁)検査局、OECD(経済協力開発機構)、IMF(国際通貨基金)など海外勤務を経て、2005年に証券取引等監視委員会事務局特別調査課長、2007年同総務課長。2010年7月30日より金融庁検査局総務課長。

 前回ご紹介した弁護士・法律事務所と異なり、公認会計士、監査法人による外部監査の役割は、金融商品取引法上も明確に規定されており、公正な証券市場を確立する上で非常に大きい。しかしながら、外部監査が期待される本来の機能を発揮するようになったのは、ここ数年のことであるに過ぎない。

 2005年に、証券取引等監視委員会が、カネボウの粉飾に加担した中央青山監査法人(当時)の公認会計士2名を刑事告発したことをきっかけに、同法人が金融庁からの行政処分を受けた。また、2006年にはライブドア社の粉飾に関与した公認会計士、2009年にはプロデュース社の粉飾に関与した公認会計士が刑事告発されている。このような上場企業の粉飾への関与を踏まえ、監査法人、公認会計士に対する当局、市場関係者、顧客からの批判が強まった。

 このような監査に対する不信を受けて、日本公認会計士協会や監査法人における監査の厳格化の取り組みが進んでおり、特に、中央青山監査法人の行政処分が行われた2006年の直後の決算期である2007年3月期決算の頃から、監査法人の指摘を受けた過年度有価証券報告書の修正、監査法人と上場企業の意見の相違が原因での有価証券報告書の提出遅延や、場合によっては監査法人の辞任・交代が顕著に増加した。監査の厳格化が大手監査法人の本部から始まり地方の拠点や地方の監査法人に浸透するに伴い、上記のような傾向が大手上場企業から地方の上場企業に波及する傾向も見られた。

 ■粉飾への監査の関与のパターン:企業の監査法人対策も一因

 このような監査の厳格化は、証券市場の公正性、特に上場企業による有価証券報告書の適正な開示の確保の上で望ましいことである。監視委としては、上記のような有価証券報告書の提出遅延や監査法人・公認会計士の交代は、監査の厳格化の表れであるととらえるとともに、当該上場企業の粉飾や内部統制上の問題のリスクを示すものとして、重大な関心を持ってフォローしている。

 また、監査法人、公認会計士による監査の厳格化を支援する観点から、日本公認会計士協会等との間で、研修や意見交換を通じて、監視委の活動で認識された粉飾の問題、当該粉飾企業の監査を担当した公認会計士や監査法人の問題について、情報を提供したり認識の共有を強化したりしてきている。

 監視委が調査・摘発する粉飾事例は多岐にわたるが、監査法人の関与との関連で見ると、上記のケースのように公認会計士が粉飾を指南したり積極的に関与したりするケースについては、悪質性に鑑みて上場企業の粉飾の共犯として刑事告発されることが通常である。しかし、共犯として摘発される程の悪質性がない場合であっても、監査の在り方について問題事例が多く把握されている。

 たとえば、上場企業の主張に根負けして結果的に粉飾に協力することとなる消極的な関与の事例である。また、毎回、毎回同じ監査手続きを漫然と実施したり、会計処理を裏付ける証憑や商品の実在性を確認しないなど、監査計画の立案時のリスクアプローチや監査手続きに問題がある事例も散見される。このような場合には、企業による粉飾の共犯としての責任を公認会計士に問うことは難しいことが多いが、他方、公認会計士を監督する金融庁による行政処分、日本公認会計士協会による処分等の対象になる可能性がある。

 さらに、上場企業による粉飾のための偽装工作や監査法人対策が非常に巧妙で、公認会計士が騙されてしまう事例も見られるが、このような場合でも、当該企業に関する市場での噂や情報を収集し、監査人としての「職業的懐疑心」を持って見れば、防げたかもしれないと思われるケースもある。

 いずれにしても、公認会計士、監査法人の立場ではなかなか分からないような粉飾の手口やパターンなど、監視委の立場で入手した情報について、できるだけ日本公認会計士協会と共有することを通じて、監査でのリスクアプローチや「職業的懐疑心」がより実効的にワークすることを期待している。監視委に勤務する公認会計士が、「まさか、これほどの偽装工作、監査法人対策をしているとは、監査法人に勤務していたころは想像できなかった」との言葉が、今でも記憶に残っている。

 ■今後の課題:内部監査・監査役の役割

 監視委に勤務して粉飾及びそれに関与する監査法人の問題を扱っていて、いつも不思議に思っていたのは、「この企業の内部監査や監査役は何をやっていたのか」という問題である。

 外部監査が厳格化するのは有益なことであるが、外部監査が実効的に機能する前提として、企業自身の内部統制、特に内部監査及び監査役監査が有効に機能することが不可欠である。しかしながら、先の事例も含めて、粉飾企業の監査役監査が実効的に機能していた事例は記憶にない。また、カネボウやライブドアの事例のように、企業の社長や経営幹部と公認会計士が刑事告発された場合に「監査役の責任はどうなっているのか」との議論を聞いたこともほとんどない。

 すでに日本監査役協会や日本内部監査協会等での講演を通じて、外部監査が機能する前提としての、内部監査、監査役監査の重要性を強調しているところであるが、粉飾が起きるたびに企業の経営陣と監査法人の責任を問うだけでなく、監査役監査についても「厳格化」が進むことが期待される。

 
 ▽文中、意見にわたる部分は筆者の個人的見解である。

 ▽市場の規律を求めて(1) 多様な担い手を結びつけるのも監視委の役割
 ▽市場の規律を求めて(2) 証券取引所など自主規制機関とともに
 ▽市場の規律を求めて(3) 証券市場に広がる弁護士の役割

 ▽証券取引等監視委員会のホームページ
 

 佐々木 清隆(ささき・きよたか)
 東京都出身。1983年、東大法学部卒業後、大蔵省(当時)に入省。金融監督庁(現金融庁)検査局、OECD(経済協力開発機構)、IMF(国際通貨基金)など海外勤務を経て、2005年に証券取引等監視委員会事務局特別調査課長、2007年同総務課長。2010年7月30日より金融庁検査局総務課長。