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(5) 不動産鑑定評価が適正か注視 鑑定士の不正加担が増加

 ■不動産鑑定士と証券不公正取引:現物出資による不公正ファイナンスへの関与

佐々木清隆課長佐々木 清隆(ささき・きよたか)
金融庁検査局総務課長(前証券取引等監視委員会事務局総務課長)
 東京都出身。1983年、東大法学部卒業後、大蔵省(当時)に入省。金融監督庁(現金融庁)検査局、OECD(経済協力開発機構)、IMF(国際通貨基金)など海外勤務を経て、2005年に証券取引等監視委員会事務局特別調査課長、2007年同総務課長。2010年7月30日より金融庁検査局総務課長。

 前2回の連載では、弁護士公認会計士が証券市場の公正性との関連で果たす役割についてご紹介した。同様の役割を持つ専門的な職業団体は他にもあるが、今回はその中から不動産鑑定士の役割について触れたい。

 不動産鑑定士と証券取引等監視委員会の活動との関連がどこにあるのか不思議に思われるかもしれないが、最近では不動産鑑定士が証券不公正取引に関与する事例が増加してきている。

 まず、不動産鑑定士が関与する不公正取引として、第三者割当増資の悪用等に伴う不公正取引である「不公正ファイナンス」の問題である。不公正ファイナンスの詳細については、監視委のWeb等を参考にしていただきたいが、簡単にいうと、第三者割当増資や新株予約権の割当等発行市場でのファイナンスを悪用し、流通市場での不公正取引につなげる問題である。

 不公正ファイナンスは、会社法改正により企業の資金調達が取締役会決議で機動的に行えるようになったこととあいまって、この数年増加しているが、特に金融危機に伴う世界的な信用収縮、株価の下落に伴い、2008年後半以降激増した。具体的には、2008年9月期、12月期の開示のタイミングの前後で、不公正ファイナンスと思われる第三者割当増資、新株予約権の割当等が著しく増加している。さらに数の増加だけでなく、不公正ファイナンスを行う当事者である上場企業についても、従来は新興市場に上場されている一部の企業が中心であったものが、近年においては、東証や大証の一部・二部上場企業、さらには金融危機の中で資本増強を迫られている金融機関の一部も登場しており、問題は深刻化している。

 近年、不動産鑑定士がこのような不公正ファイナンスのスキームの組成等に関与する事例が把握されている。例えば、第三者割当増資を引き受ける先が、通常であれば現金を払い込む代わりに、現物出資を行う事例が本年に入り増加してきており、特に不動産による現物出資の事例が少なくない。

 このように現物出資される不動産については、不動産鑑定士による鑑定評価が行われているが、例えば不稼働物件である施設の鑑定評価が杜撰である事例が見られる。また、このような現物出資による第三者割当増資の場合には、会社法上、裁判所が選任した検査役の代わりに弁護士、公認会計士による証明で足りることとされているが、先のような杜撰な不動産鑑定書を鵜呑みにして安易に証明を出している弁護士、公認会計士の事例も把握されている。

 ■REITの問題

 不動産鑑定士が関与する別の分野として、REIT(不動産投資信託)の問題がある。REITの投資法人、運用業者が金融商品取引法の規制対象であることから、この数年、監視委として検査を実施してきている。

 REITについては、投資法人が物件を取得する際、不動産鑑定評価を基準として物件取得価格を決定している。恣意的な評価額の算出を意図する依頼や資料提供により不適切な評価額が算出された場合には、投資家及びREIT市場に多大な影響を与えることとなり、この点で関与する不動産鑑定士の適切な業務実施が重要となる。しかし、これまで行われた監視委としての検査の中で、不動産鑑定評価の問題が把握されてきている。

 不動産鑑定協会においても、不動産鑑定業者の業務実施態勢に関する業務指針等を定め既に対応を実施していると認識しているが、監視委としては、適正な不動産鑑定評価に基づきREITの運用が行われているか、不動産鑑定士の関与状況も含め、引き続き投資法人及び運用業者の検査を通じ検証しているところである。

 ■不動産鑑定協会との連携:弁護士会、公認会計士協会との横の連携も

 上記のような不動産鑑定士が関係する証券不公正取引の問題が最近把握されていることから、監視委としては、日本不動産鑑定協会に対し、問題の所在、監視委としての懸念を伝え、団体としての規律の強化を要請しているところである。すでに同協会主催の研修会で講演を行ったほか、同協会のWebにも監視委からのコラムを設けていただいている。また、不動産鑑定士を監督する立場にある国土交通省に対しても、同様に問題提起しているところである。

 さらに、先のような現物出資の事例では、不動産鑑定士だけでなく弁護士、公認会計士の関与もあることから、日本弁護士連合会や日本公認会計士協会にも同様に問題を提起しており、市場規律を支えるこれらの専門的職業団体間の横の連携を期待しているところである。


 ▽文中、意見にわたる部分は筆者の個人的見解である。

 ▽市場の規律を求めて(1) 多様な担い手を結びつけるのも監視委の役割
 ▽市場の規律を求めて(2) 証券取引所など自主規制機関とともに
 ▽市場の規律を求めて(3) 証券市場に広がる弁護士の役割
 ▽市場の規律を求めて(4) 監査役監査や内部監査に課題 公認会計士監査は厳格化

 ▽証券取引等監視委員会のホームページ
 

 佐々木 清隆(ささき・きよたか)
 東京都出身。1983年、東大法学部卒業後、大蔵省(当時)に入省。金融監督庁(現金融庁)検査局、OECD(経済協力開発機構)、IMF(国際通貨基金)など海外勤務を経て、2005年に証券取引等監視委員会事務局特別調査課長、2007年同総務課長。2010年7月30日より金融庁検査局総務課長。