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東洋紡の内部告発者訴訟7年目 米連邦地裁が門前払い認めず

奥山 俊宏

 大阪市の繊維メーカー「東洋紡」製の高強度スーパー繊維「ザイロン」を織った素材で製造された防弾チョッキに欠陥があったとして、この防弾チョッキを購入した米政府が東洋紡などを相手取って損害賠償や制裁金の支払いを求めている訴訟で、被告のうち東洋紡は裁判所に訴えを門前払いとするよう申し立てていたが、ワシントンDCの米連邦地裁はこれを却下する決定を下した。原告側勝訴の場合は、実際の損害の3倍の支払いが命じられ、その中から最高25%が報奨金として内部告発者に渡される米国特有のキイタム制度に基づく訴え。提訴から7年目に入って審理が本格化することになる。

  ▽筆者:奥山俊宏

  ▽関連記事:   内部告発 in アメリカ(3) 日本企業も被告、内部告発者が原告となり、米司法省も訴訟参加

  ▽関連資料:2010年2月23日の米連邦DC地裁の決定(AJ購読者限定)

  ▽関連資料:2010年5月4日の米連邦DC地裁の決定(AJ購読者限定)

  ▽関連資料:2005年9月19日に提出された米政府司法省の修正訴状(AJ購読者限定)

 この訴訟のもともとの原告は、防弾チョッキを製造した米国企業セカンドチャンス・ボディーアーマー(ミシガン州)の幹部だったアーロン・ウエストリックさん。2004年2月、セカンドチャンス社や東洋紡を被告とする訴状を同地裁に提出した。訴状や証拠資料は秘密裏に司法省に送られ、財務省の監査官事務所などが調査を開始。ウエストリックさんは内部告発者の立場で政府の調査に協力した。その結果、2005年6月1日、司法省が政府を代表して、原告ウエストリックさんの側に立って訴訟に参加し、7月1日、訴状を裁判所に提出した。そこで初めて訴状が被告に送られ、訴訟は明るみに出た。

 米国の不正請求防止法では、政府との取引で代金などを請求する際にウソを言った場合は、その業者は政府の損害額の3倍の金額と民事制裁金を政府に払わなければならないと規定されている。そうしたウソがあった事実を裏付ける証拠を持っている関係者は政府に代位してみずから業者を相手取った訴訟の原告となることができ、勝訴した場合は、回収額の最高3割を報奨金として受け取ることができる。「内部告発者訴訟」あるいは「キイタム訴訟」と呼ばれており、ウエストリックさんはこの制度に基づいて勤務先(セカンドチャンス社)やその取引先(東洋紡)を提訴した。

 訴状によれば、セカンドチャンス社と東洋紡は1996年、セカンドチャンスの防弾チョッキ製造のため東洋紡がザイロンを供給する契約を締結した。セカンドチャンス社はザイロンでできた自社の防弾チョッキについて「もっとも薄く軽く、もっとも強い」と宣伝。99年から2004年にかけて米国政府や地方の警察などに合計6万6千以上の防弾チョッキを販売した。しかし、ザイロンには日光や熱、湿気にさらされると劣化する性質があった。そうした欠陥がだんだんと分かってきたにもかかわらず、セカンドチャンスは長らく米政府にそれを知らせなかった。

 米司法省やウエストリックさんは、東洋紡が欠陥を知っていながら、これを米政府に開示しなかったことを問題視している。一方、東洋紡はこれに対し、「当社はザイロン繊維の品質特性を何ら隠蔽していない」と反論。「東洋紡はザイロンの劣化に関する各時点の最新の情報をセカンドチャンスに提供した」「東洋紡は政府に何らのウソもついておらず、責任はすべてセカンドチャンスにある」と主張して、東洋紡に対する訴えの却下を裁判所に申し立てた。

 裁判所は今年2月23日の決定で東洋紡の申し立てを棄却した。

 「東洋紡は自身は政府に何らのウソもついていないと主張しているが、原告は、東洋紡が詐欺的な陰謀の一翼を担ったと主張している。セカンドチャンスが政府に品質を保証していることについて、東洋紡は知っていたし、関与していたと原告は主張している」

 ウエストリックさんは、支援を受けている非営利組織「全国内部告発者センター」(ワシントンDC)を通じて「この決定に感謝する」とのコメントを発表した。「2001年以降、私は、ザイロンの防弾チョッキの劣化について各地の警察に警告するよう(社内で)求めたが、無視され、脅され、結果的に解雇された。これら犯罪をアメリカの人々に知らせるには内部告発者訴訟を起こす以外の選択肢はなかった」

 東洋紡は裁判所の決定に異議を唱えて再考を求めたが、裁判所は5月4日、結論を維持する決定を下し、その理由として次の

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