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(6) 証券不公正取引への税理士の関与が増加 詐欺的集団投資スキームの手助けも

 ■証券不公正取引と税理士の関与

佐々木清隆課長佐々木 清隆(ささき・きよたか)
金融庁検査局総務課長(前証券取引等監視委員会事務局総務課長)
 東京都出身。1983年、東大法学部卒業後、大蔵省(当時)に入省。金融監督庁(現金融庁)検査局、OECD(経済協力開発機構)、IMF(国際通貨基金)など海外勤務を経て、2005年に証券取引等監視委員会事務局特別調査課長、2007年同総務課長。2010年7月30日より金融庁検査局総務課長。

 前3回の連載では、弁護士公認会計士不動産鑑定士が証券市場の公正性との関連で果たす役割についてご紹介したが、今回は税理士の問題について触れたい。

 税理士は、納税者による税務申告の代行や税務書類の作成、税務相談を行うものであり、証券市場の公正性に直接的な役割を持つものではない。弁護士、公認会計士、不動産鑑定士が上場企業や証券会社等の市場参加者に対するアドバイス、監査、意見の表明等を通じて、公正な証券市場の確立の上で重要な役割を果たしていることと比べると、税理士の役割は、あまり認識されてこなかった。

 しかしながら、最近の証券市場での問題の中には、税理士が当事者として登場する事例が増加してきている。

 ■税理士によるインサイダー取引

 まずひとつは税理士によるインサイダー取引である。2009年10月には、TOB(株式公開買付)に関する情報を公表前に入手しTOBの対象企業の株式を買い付けた税理士が、インサイダー取引として課徴金納付命令の対象となった事例があった。この事例では税理士業務に関して当該TOB情報を知ったわけではなく、「第一次情報受領者」としての立場で当該事実を知ったものではあるが、税理士が関与したインサイダー事件としては、初めての事案である。さらに、2010年に入り、同様に税理士が関与したインサイダー事件が課徴金調査により摘発されている。

 TOBに限らず企業の未公表の情報に接する機会の多い税理士は、インサイダー取引に手を染めてしまうリスクが高いと考えられる。企業の内部情報に接する機会のある職業や業種としては、他にも公認会計士、弁護士、マスコミ、印刷会社等があるが、近年職業上入手した内部情報を悪用して証券取引を行い、インサイダー取引として摘発された事例が増加しており、税理士も例外ではないと考えられる。

 ■不公正ファイナンスへの関与

 税理士が関与する不公正取引として把握されている第2の類型として、第三者割当増資の悪用等に伴う不公正取引である「不公正ファイナンス」の問題である。

 不公正ファイナンスの詳細は監視委のWeb等を参照いただきたいが、税理士がこのような不公正ファイナンスのスキームの組成、その中で悪用される投資事業組合やSPC(特別目的会社)等の組成、その他税務上のアドバイスや処理の上で関与する事例が見られる。

 ■詐欺的集団投資スキーム(ファンド)への関与

 税理士が関与する事例の第3の類型として、集団投資スキーム(ファンド)の問題がある。集団投資スキームは、金融商品取引法の改正により、金融庁への登録または届出、監視委による検査の対象となっているが、業者の一部はいわゆる「ねずみ講」と同様、あるいはほとんど詐欺に近いような実態である。監視委としては各財務局とも連携して集中的に検査を行い、既に検査の結果に基づき金融庁による業務改善命令、業務停止処分等の対象となったファンドもある。さらにこれらファンドへの対応のうえで、消費者庁、警察等との連携も強化しているところである。

 このような詐欺的な集団投資スキームに関連して、税理士がスキームの組成や資産の評価、税務上のアドバイスをしている事例のほか、監視委による検査に際して検査妨害・忌避を当該ファンド業者に対して教唆するような事例も把握されている。税務署による税務調査の際に、調査に非協力的な税理士の問題もあると認識しているが、同様の問題が証券検査においても生ずるような環境になってきている。

 ■国税庁・日税連との連携

 上記のような税理士が関係する証券不公正取引の問題が最近把握されていることから、監視委としては、税理士を所管する国税庁および日本税理士連合会に対し、問題の所在、監視委としての懸念を伝え、所管官庁、団体としての規律の強化を要請しているところである。また、すでに各地区の税理士会での講演や日税連の会報誌である「税理士界」への寄稿を行ってきているところである。

 証券市場の公正性に直接の役割をもつものではないが、証券不公正取引に関与するリスクの高い職業である税理士の自己規律の強化が期待される。


 ▽文中、意見にわたる部分は筆者の個人的見解である。

 ▽市場の規律を求めて(1) 多様な担い手を結びつけるのも監視委の役割
 ▽市場の規律を求めて(2) 証券取引所など自主規制機関とともに
 ▽市場の規律を求めて(3) 証券市場に広がる弁護士の役割
 ▽市場の規律を求めて(4) 監査役監査や内部監査に課題 公認会計士監査は厳格化
 ▽市場の規律を求めて(5) 不動産鑑定評価が適正か注視 鑑定士の不正加担が増加

 ▽証券取引等監視委員会のホームページ
 

 佐々木 清隆(ささき・きよたか)
 東京都出身。1983年、東大法学部卒業後、大蔵省(当時)に入省。金融監督庁(現金融庁)検査局、OECD(経済協力開発機構)、IMF(国際通貨基金)など海外勤務を経て、2005年に証券取引等監視委員会事務局特別調査課長、2007年同総務課長。2010年7月30日より金融庁検査局総務課長。