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「借り入れ実現」をインサイダー情報として告発 「買い」材料に初の包括規定適用

積極適用されるバスケット条項

 何を知って株を売買したらインサイダー取引として制裁の対象になるのか。証券取引等監視委員会が今年6月、新たな境地を開いた。株価の上げ要因、つまり、「買い」の材料となる情報について、金融商品取引法のバスケット条項を適用して、あおぞら銀行の元行員を刑事告発したのだ。インサイダー取引への規制が始まって20年余になるが、初めてのことだという。インサイダー取引規制に漏れが生じないように、規制の対象となる「重要事実」をバスケットですくい集めるように包括的に定義したこの規定。実はこれが摘発に積極的に用いられるようになったのはごく最近、ここ2年のことに過ぎないという。監視委事務局に勤務した経験もある石井輝久弁護士がそうした変化を分析し、留意すべきポイントを探った。(ここまでの文責はAJ編集部)

 

インサイダー取引における「バスケット条項」積極適用
―金融商品取引法166条における
  「包括規定」のあり方を考える―

西村あさひ法律事務所
弁護士  石井 輝久 

石井輝久弁護士石井 輝久(いしい・てるひさ)
 1996年、慶應義塾大学法学部卒業。1999年、弁護士登録(第一東京弁護士会)。2007年、ボストン大学ロースクールLL.M.修了。2008年、ニューヨーク州弁護士登録。2008年8月から2010年3月まで証券取引等監視委員会事務局市場分析審査課に勤務し、インサイダー取引及び株価操縦案件の審査並びに国際案件を担当(2009年1月より課長補佐)。2010年4月、西村あさひ法律事務所カウンセル。金融商品取引法、コンプライアンスその他一般企業法務を担当。
 弁護士としてインサイダー取引規制を考えるときに、その基準がわかりにくく、悩まされるものの一つとして、「バスケット条項」がある。これは、インサイダー取引を禁止している金融商品取引法166条に個別・具体的に列挙されている「重要事実」(例えば、合併の決定や業務上の損害の発生、業績予想修正など)の定義に加え、上場会社等の「運営、業務又は財産に関する重要な事実」であつて「投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすもの」もまた「重要事実」の定義の中に含めてインサイダー情報であるとしている条項である。そして、そうした情報を知って、その情報が未公表のうちに当該会社の株券の売買をしたらインサイダー取引となるのである(金融商品取引法166条2項4号。子会社については8号)。

 インサイダー取引規制において、「こういう情報を知ってそれが未公表のうちに株券を売買してはならない」という形で明示的に法律に挙げられている事実、つまり「合併」や「業務上の損害の発生」「業績予想修正」等であれば、一つひとつチェックしていけば該当、非該当がわかる。一方、「当該上場会社等の運営、業務又は財産に関する重要な事実であって投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすもの 」と言われても判断に悩むのはいわば当然と言える。

 今回は、この「バスケット条項」について少し分析してみたい。なお、以下のうち意見にわたる部分は筆者の私見である。

 ■バスケット条項適用の新傾向
  ―「約100億円の協調融資」が重要事実に―

 近時の事例として目を引くのは、証券取引等監視委員会(以下「監視委」)が平成22年6月15日に東京地検に告発した

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