メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

注釈 一般株主から見たMBOの「公正な価格」

*1 本稿は、弁護士前川拓郎の個人的見解によるものであり、株主の権利弁護団としての見解ではない。

*2 経営者等が、ファンドを始めとする他の出資者と共同して会社の株式を購入することをいう。

*3 少数株主の締め出し。いくつかの手法があるが、通常は、全部取得条項付株式(会社法108条1項7号、171条)を利用して行う。

*4 レックス・ホールディングス事件 平成19年12月19日東京地方裁判所決定、平成20年9月12日東京高等裁判所決定、平成20年10月8日東京高等裁判所許可抗告申立許可決定、平成21年5月29日最高裁判所抗告棄却決定

*5 サンスター事件 平成20年9月11日大阪地方裁判所決定、平成21年9月1日大阪高等裁判所決定、平成21年9月28日大阪高等裁判所許可抗告申立不許可決定、平成21年10月22日最高裁判所抗告棄却決定

*6 サイバード・ホールディングス事件 平成21年9月18日東京地方裁判所決定、平成22年10月27日東京高等裁判所決定

*7 会社法172条1項においては、他の会社法の反対株主の買取請求条項(116条1項、118条1項、469条1項等)にあるような「公正な価格」との文言が使用されていない。スクイーズアウトの手段として全部取得条項付株式を利用する場合に、「公正な価格」で足りるのか否か、より慎重な議論が必要である。少なくとも、反対株主の買取請求の場面とは、利益状況が異なる。

*8 サンスター事件大阪高裁決定は、一見異なる枠組みであるかのような体裁であるが、判決文中で同旨であることを認めている。

*9 平成19年9月4日付MBO指針7頁、8頁。「MBOに際して実現される価値は、(a)MBOを行わなければ実現できない価値と、(b)MBOを行わなくても実現できる価値の2種類に区別して考えることができる。」「上記(b)のMBOを行わなければ実現できない価値は、基本的には株主が受けるべきものと考えられる。他方で、上記(a)のMBOを行わなければ実現できない価値については、株主及び取締役が受けるべき部分の双方が含まれていると整理できる。」

*10 マーケット・アプローチの一種である。客観性に優れる反面、市場株価は時々の思惑の影響を受けて刻々と変動するものであり、しかもその変動理由は様々である。市場株価が企業の客観的価値を反映していないこともままあり、この点に対する配慮が不可欠である。

*11 「マーケットアプローチの一般的な論点」(企業価値増補ガイドライン(増補版)日本公認会計士協会編299頁)によると、市場株価終値の単純平均値とするか出来高加重平均値とするかも論点として上がっているが、裁判例において、大きな争点とされたことはなく、ここでは割愛する。

*12 レックス事件東京地裁決定は、平成18年8月22日から平成18年11月9日までの市場株価の平均値を採用したが、平成18年8月21日の業績の下方修正発表日以前の株価を除外したためであり、3ヶ月の市場株価の平均値を採用したとは言い難い。

*13 サイバード事件東京地裁決定が出た後、「裁判所は、市場株価がその企業の客観的価値を反映していないと認められる特別の事情のない限り、MBO公表前1ヶ月間の平均株価をもって、MBOが行われなかったならば株主が享受しうる価値とする」という論調が見られた。
 しかしながら、会社側の主張を前提にすると、サイバード事件は、過去1ヶ月の単純平均値が、過去3ヶ月、過去6ヶ月の単純平均値を上回る事例であった。出来高加重平均値も同様であったのではないか。そうであれば、本決定が、過去1ヶ月の市場株価の終値の加重平均値をもって「MBOが行われなかったならば株主が享受しうる価値」としたことは、株主の側からも是認できるものである。上記論調のような一般論が導き出せる決定なのか否か、極めて疑問である。

*14 裁判例はMBOによる価値増大部分をいわゆる「プレミアム」と同一視しており、本稿もこれによった。

*15 株主総会決議において定める取得対価が公正なものである保証がなく不当な取得対価により会社が株式を取得するという重大な効果が生じる危険があるので、反対株主に対して取得対価の決定の申し立ての権利を保障したものである(会社法コンメンタール171条)

*16 旧商法245条ノ2の文言である。東京高裁決定では「営業譲渡が行われず会社がそのまま存続すると仮定した場合に形成されたと想定される株式の客観的価値」とされた。会社法において「決議ナカリセバ」の部分が削除され「公正な価格」と改められた理由は、シナジー効果等を含む趣旨を明確にするためである。

*17 インカムアプローチの一種。事業計画に基づく予測フリー・キャッシュフローを算出し現在価値に還元するとともに、事業計画が作成された最終年度以降のフリー・キャッシュフローを現在価値に還元し、これらの金額の合計額を発行済株式総数で除して一株あたりの評価額を算定する方式。

*18 カネボウ事件東京地裁決定もカネボウ事件東京高裁も、各申立人の主張額と裁判所が決定する額との乖離率と株式数に応じて鑑定費用の負担額を決定した。注意が必要である。

*19 スクイーズアウトの手段として全部取得条項付株式を利用する場合、財産権の剥奪という側面を強く有することになる。いかなる場合にこのような財産権の剥奪が許されるのか、許される場合にどのような補償が必要なのかについては、慎重に検討する必要がある。会社法は反対株主の買取請求の場面で「公正な価格」という文言を使用するが、 スクイーズアウトの手段として全部取得条項付株式を利用する場合も同様に考えていいのかについても検討が必要である。

*20 会社の純資産を基準に企業価値、株式価値を評価する手法。

*21 もっとも、MBO指針において、「MBOを行わなくても実現可能な価値」(=現在価値)の例として「多額の含み益を有する遊休資産を売却するのみで得られる利益」が挙げられている。

*22 仮に2年間の株価の平均値を採用したとしても、平成20年9月におこった「100年に1度」と言われるリーマン・ショックをどのように評価するのか、などの問題は残る。

*23 カネボウ事件では、裁判所という「中間機関」が入り株式評価を行った。費用も一度、裁判所に予納され、そこから鑑定人に支払われている。独立の中間機関に会社が株価算定を依頼し、独立の中間機関から各株価算定機関に株価算定を委託するなどの仕組みが必要であろう。

*24 DCF法や修正純資産法によった場合、プレミアムを足すべきか否かという論点がある。プレミアムの性質にもよるが、少なくとも修正純資産法によった場合には肯定すべきである。

*25 東宝株式会社が、株式会社コマ・スタジアムに対して行ったTOBが参考になる。本TOBは、市場株価法による評価額が1555円から1728円であったにもかかわらず、時価純資産法による評価額である7400円でのTOBを行い、円滑に終わった。株式会社コマ・スタジアム側の評価が公表されなかった点で不満は残るが、適切な買取価格の設定によって一般株主が不満を抱かなかった好例であろう。