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企業の資金調達、ライツ・イシューも選択肢に?

山中 政人

 既存株主に新株を買う権利(新株予約権)を無料で配る「ライツ・イシュー」を行いやすくするための金融商品取引法改正の検討が進められている。公募増資や第三者割当増資とは異なり、既存株主に配慮し、増資に応じるかどうかをまず既存株主に判断してもらうのが特徴だが、日本ではさまざまな規制があって、これまでは実例は1つしかないという。ライツ・イシューとその規制緩和の方向、その将来のあり方について、西村あさひ法律事務所の山中政人弁護士が解説した。

ライツ・イシューに関する規制緩和
~既存株主の利益保護と企業の資金調達手段の拡張

西村あさひ法律事務所
弁護士 山 中 政 人

山中 政人(やまなか・まさと)
 弁護士。2000年 慶應義塾大学法学部法律学科卒業、2002年10月弁護士登録。現在、西村あさひ法律事務所シンガポールオフィスにて日系企業のアジア進出を広くサポートしている。

 ■はじめに

 2008年9月のリーマン・ショック以降、財務体質改善のため、日本企業は大規模な公募増資や第三者割当増資を行ってきた。もっとも、大規模な増資が行われれば、それにより1株当たりの株式価値の希薄化(ダイリューション)が生じるため、これが海外の投資家などを中心に既存株主からの批判の対象とされてきた。この点、欧米や昨今のアジア市場で広く実施されてきた、いわゆるライツ・イシューが、上記の問題を回避する手段としてたびたび検討されてきたが、従来は、法規制等による実務上の障害があり、実現は難しかった。そのような中、金融庁は、さる1月19日に、有識者などによる開示制度ワーキング・グループにおいて、ライツ・イシューについての規制緩和を中心とした制度整備について報告を行い、現在開会中の通常国会において金融商品取引法(以下「金商法」)の改正法案を提出する作業を進めているようである。

 今回の制度整備は、上場企業がライツ・イシューを行う際の実務上の障害等を取り除き、企業の資金調達の選択肢の拡充、今後の我が国資本市場の活性化を目指すものであって、経済界からの関心も高いものと思われる。そこで、以下では、ライツ・イシューとはどういうものか、従来の問題点や今回の規制緩和の内容、今後の検討すべき事項について、概略を説明することとしたい。

 ■ライツ・イシューとは

 いわゆる「ライツ・イシュー」とは、企業が、既存の株主に対して時価よりも低い価格で株式を購入できる権利を無償で割当て、その行使を受けて新株を発行するという増資方法である。単純な増資では、既存株主が保有する株式の価値について希薄化が生じるが、ライツ・イシューの場合には、既存株主は、行使価格を払い込み、割り当てられた権利を行使して株式を取得することで、持株比率を維持するか、市場で売却して理論上は権利落ちした保有株式の値下がり分に相当するであろう金額を回復するという選択をすることができ、第三者割当増資や公募増資などと比較すると、既存株主が不利益を被る可能性が小さくなるよう工夫された資金調達手段である。また、「コミットメント型」と言われるライツ・イシュー(ライツ・イシューのうち、証券会社等が、行使されなかった新株予約権を株主から買い取った上でこれを行使することを約束するタイプのもの)では、企業も当初予定していた資金の調達を確保することができるという特徴を有している。

 イギリスをはじめとする欧州市場ではこうした増資方法が主流で

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