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「秘密」の保護と「情報」の保護、現行法制度で十分か

梅林 啓

  尖閣沖衝突事件のビデオが政府の意思に反して外部に流出した事件など、ますます頻発するようになった電子データ情報の流出について、元東京地検特捜部検事の梅林啓弁護士が考察した。多くの企業、組織にとって、それは現実の脅威となっているが、「秘密」を保護しようとする現行の法制度の下では、「情報」の保護にはどうしても限界があるという。

 

「情報」は十分に保護されているのか
~ 日本の法制度・今後の課題 ~

 

西村あさひ法律事務所
弁護士   梅林 啓

梅林弁護士梅林 啓(うめばやし・けい)
 1989年、東京大学法学部卒業。司法修習(43期)を経て、91年から2007年まで検事。この間、96-97年に東京地検特捜部検事、98-99年、2002-2003年に法務省刑事局付(刑事法制課担当)、1999-2002年に在英国大使館一等書記官、2005-07年に内閣官房副長官秘書官。2007年から弁護士(第一東京弁護士会)。

 ■1 ある事例

 元従業員から情報を盗まれたので、何とかできないかという相談がクライアントから持ち込まれることがよくある。事情を聞くと、元従業員が,会社に在籍中に手掛けた業務に関係する様々なファイルを、丸ごと持ち出して会社を辞めてしまったという。どのように持ち出したのかはまだ特定できていないし、その元従業員が実際にどのようなファイルを持ち出したのかという特定も、実はまだ完全にはできていないようであるが、その元従業員が競合他社に転職して、クライアントの会社で培った経験とノウハウを用いながらクライアントの業務を脅かしており、情報を持ち出して使っていることはほぼ間違いないというのである。

 □情報窃盗罪

 日本では、情報窃盗は犯罪とはされていないと言われることがある。刑法の窃盗罪の客体は有体物に限られているので、無体物である情報は

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