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どうなる日本の原発新設? 山口県から呼びかける「現実的脱原発」

全国唯一の原発新設計画を抱える山口県の県議会議場で

 山口県の元山口市長で、自民党の公認候補者として参院選に立候補したこともある山口県議の合志栄一(ごうし・えいいち)氏が、日本の原子力発電所は今後どうあるべきか考え抜いた末の結論をつづった原稿を朝日新聞「法と経済のジャーナル Asahi Judiciary」編集部に寄せた。同県では、中国電力が上関(かみのせき)原子力発電所の建設を計画しているが、それは現在、全国で唯一の原発新規立地計画だ。この日本の国土に今後、新規に原発が設置されうるかどうかを決めるかもしれない、その分水嶺に上関原発計画はあるともいえる。かつては原発を容認していた合志氏は今回、「通常の生活、経済活動を原発に依存するのは間違っている」と考えるようになり、山口県議会議場で県当局に質問をぶつけた。その質問と答弁の原稿を以下に紹介する。(ここまでの文責はAJ編集部)

上関原発建設計画への対応について

山口県議会議員
合志 栄一

合志 栄一(ごうし・えいいち)
 山口県議会議員、元山口市長
 1949年、熊本県で生まれ、1974年、山口大学経済学部を卒業。1979年から1987年まで山口市議会議員。87年から1998年まで山口県議会議員。98年、参議院議員選挙に山口選挙区より自民党公認で立候補 落選。2001年から2005年まで山口市長。2007年から現職。

 今、私たちは、かって父祖の世代が廃墟となった戦後日本を見事復興したように、新たな日本復興の時を迎えています。23000名を超える多くの尊い人命が失われたこの度の大災害、東日本大震災を単なる災害に終わらせてはなりません。

 東日本大震災は、今日の日本が内包する問題を浮き彫りにし、警告を発しています。

 犠牲になられた方々の死を無にしないためにも、このことを真摯に受け止め、真に安全で希望が持てる国日本をつくっていく、そのことに向けて世代責任を果たしていくことが、今日生きている全ての日本人に求められています。

 このたび、上関原発について質問することに致しましたのは、東日本大震災に伴う福島第一原発事故は、原発大国化路線からの転換を日本に促す天の警告であったと受けとめているからです。

 そしてまた、山口県民の多くが、未だ終息していない福島第一原発事故の報道に日々接し、本県の上関原発はどうなるのだろうと関心を向けているからであります。

 それでは、通告に従い一般質問を行います。

 私は、上関原発建設計画の中止とエネルギー政策の転換を国に求める立場を、山口県は明確にすべきだと考えております。こうした考えに基づき、上関原発建設計画への県の対応についてお伺いいたします。

 ■原発容認だった私

 石油や石炭等エネルギー資源のほとんどを海外に依存している我が国が、エネルギー自給率を高めるために、原子力発電に取り組むことは、国策として当然のことと(以前の)私は考えておりました。また、発電時に二酸化炭素を出さないということで、地球温暖化対策としても原子力発電は、妥当な方向と思っておりました。さらに、日本が世界の大国としての地位を将来にわたって保持していくためには、いくらかリスクがあろうとも原子力の技術を、平和利用への限定は当然としても持ち続けることは必要と考えておりました。

 以上の意味で、私は、原発推進論者とまではいかなくても、原発肯定論者であり、容認論者でありました。

 しかし、東日本大震災に伴う福島第一原発事故災害の深刻な事態を目の当たりにして、原発に関心を向け調べていくうちに、通常の生活、経済活動を原発に依存するのは間違っていると確信するに至りました。原子力は、国家の存立や人類の生存のための最終的な非常手段としてはあり得ても、これを日常的なツールとして利用することは避けなければなりません。 理由は、二つあります。一つは、あまりにもリスクが大きすぎるということです。その二は、原子力発電で生ずる放射性廃棄物の最終処理の方法技術は確立されておらず、別の形での深刻な地球環境汚染が進むということであります。

 ■あまりに大きい事故のリスク

 第一の理由、リスクが大きすぎるということですが、私は、この度の福島第一原発事故は、最悪の場合は、日本全土が放射能汚染で住めなくなる、正しく国家壊滅の危機に瀕した事故であったと見ております。

 我が国が商業用の原子力発電を始めることを決定した翌年、昭和35年に科学技術庁の委託を受けて日本原子力産業会議が科学技術庁原子力局に提出した報告書があります。「大型原子炉の事故の理論的可能性及び公衆損害額に関する試算」と題するこの報告書は、当時我が国最初の商業用原子炉として計画が進められていた茨城県の東海発電所で最悪の大事故が起こった場合に、どれほどの被害が発生し、日本政府がその被害を補償できるか等を、真剣に検討したものであります。それによると、事故が発生した場合の物的損害は、最高で農業制限地域が長さ1000キロ以上に及び、損害額は1兆円以上に達しうるとされております。東海発電所から半径1000キロ以内には、北海道から九州までがほぼ含まれますので、圏外は沖縄だけで日本の国土のほとんどが農業制限地域になる可能性があるわけです。農業が制限されるのは土地が放射能汚染されて、産出された農作物は人体に有害で食べることができないということでしょうから、それは人が住めなくなると同義のように思われますが、最悪日本全体がそうした事態になる可能性があることを、この報告書は示唆しております。(広瀬隆著「原子炉時限爆弾」)

 この報告書が想定した東海発電所の原子炉は、出力16万6千キロワットでしたが、福島第一原発の原子炉は、1号機46万キロワット、2号機、3号機、4号機、5号機は78万4千キロワット、6号機は110万キロワットであります。報告書が想定した東海原発の3倍から7倍の規模を持つ原子炉が6基も林立している福島第一原発での事故が最悪の事態になった場合は、日本全土が、農業制限どころではない、もっと深刻な放射能汚染に見舞われ、日本壊滅が現実となるということを思う時、福島第一原発事故終息に向けての取り組みは、国の存立をかけた「原子力との戦争」であります。

 原子力発電によって得られる生活の利便さ、経済的利益は大きいものがあるかもしれない。しかし、それらは国を潰す危険を冒してまで追求すべきものではない。

 少し、生活が不便になろうと、経済的利益が失われようと、原子力発電への依存は減らしていく方向へ、我が国のエネルギー政策を転換していく、そのことが、いま求められています。

 ■「トイレなきマンション」

 第二の理由についても触れておきたいと思います。原子力発電は、COを出さないからクリーンだとの見方があります。これは、原発の半面だけしか見ていません。原子力発電が、危険な放射性廃棄物を排出していることを見落としているからです。

 原発を、よく「トイレなきマンション」にたとえることがありますが、確かに原子力発電で生じた放射性廃棄物を、地球環境を汚染しない形で処分する方法、技術は、未だ確立されていません。原子力発電は、技術体系としては未完のまま、見切り発車的に実用化されてしまったといえます。

 そのため、放射性廃棄物は、その数量は増加する一方であるものの、最終処分場が世界中どこにもなく、原発を持つ国にとっては、その処理が厄介で困難な課題となっております。

 放射性廃棄物は、放射能濃度により、低レベル放射性廃棄物と高レベル放射性廃棄物とに分類されますが、高レベル放射性廃棄物の主たるものは、使用済み核燃料であります。

 原発で発電のために使用された核燃料は3年ないし4年で新しいものと交換されます。その際、使用済みとなった核燃料は、容器である燃料棒ごと、当面は原発敷地内の燃料貯蔵プールに保管されます。

 我が国では、この使用済み核燃料は、「核燃料サイクル」の方針に沿って、次は青森県六ケ所村に建設された再処理工場に搬入されます。この再処理工場で、使用済み燃料は、硝酸で溶かされ、それからプルトニウムとウランが再利用目的で抽出されることになっています。そして、残った廃液はガラスで固めてキャニスターという容器に収められ、30年から50年間冷却しながら貯蔵した後、最終的には「地層処分」する計画になっております。「地層処分」とは、地下300メートル以上の深い地中に埋めることです。

 以上は、我が国の核燃料サイクル計画で想定されていることです。現時点では、ガラス固化体の貯蔵は行われていますが、最終処分となる地層処分の場所は決まっていません。

 そこで、真摯な議論が求められるのは、地層処分の場所をどこにするかということではなく、高レベル放射性廃棄物を、最終的には地層処分するというやり方が、許されていいのかということであります。

 2009年、米原子力規制委員会は、「高レベル放射性廃棄物は、100万年先の放射線レベルまで監視を要する。」との見解を明らかにしました。こうしたものを地層処分にするということは、自分やせめて子や孫の世代さえよければいいという誠に身勝手な発想に由来するもので、環境倫理にもとるばかりでなく、これから数千年、数万年にわたって日本列島、地球に生を享けることになるであろう人類に対する重大な罪であります。

 ■現行の型の原発からは脱していくべき

 元東大総長の小宮山宏氏は、「原子力は、20世紀後半から21世紀にかけての過渡的なエネルギーであり、22世紀は太陽エネルギーの時代に向かうであろう」と述べていますが、そうだとすれば放射性廃棄物を出さない原子力発電の技術体

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