2011年09月20日
米ペンシルベニア州ピーチボトムの原子力発電所で、警備員たちは過労で疲れきり、仕事中に居眠りをしている――。
2007年3月27日、米政府の原子力規制委員会(NRC)に1通の手紙が届いた。差出人は、同原発の元警備マネジャーを名乗る人物。
NRCの担当官は手紙の内容を信用しなかった。
「あり得ない話だ。矛盾もある。具体性もない。同じ話を何回調べろというのか」
実は、同じ人物から2005年にも同様の通報がNRCに寄せられていた。NRCはその際、調査はしたが通報の内容を確認できなかった。手紙は、その経緯に触れて、「居眠りのことをもともと知っているから、本気で調査しないのだ」とNRCと原発会社を非難。小型カメラで警備員を観察するなどの調査をするべきだと提案していた。
NRCは4月11日、原発会社に疑惑を照会して調査させる方針を決定した。「緊急の安全問題ではない」として、独自の調査は見送り、当事者に調査をいわば丸投げしたのだ。隠し撮りの提案は受け入れなかった。手紙に「私に接触しないで」と書いてあったため、NRCは、元警備マネジャーに連絡をとらず、話を聴こうともしなかった。
原発会社は5月30日、「懸念は確認されなかった」とNRCに文書で回答。これを受けてNRCは8月、手紙への対応を終結させた。
このてんまつがやがて、NRCへの世間の信頼を揺るがす事態を招く。
9月10日、テレビ局の記者からNRCに電話があった。記者はNRCの広報担当官に言った。「ビデオを持っている」。それは、警備員が居眠りする様子を隠し撮りした決定的証拠だった。(次回につづく)
▽筆者:奥山俊宏
▽この記事は2008年10月7日の朝日新聞朝刊の第3総合面に掲載されたものです。
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