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元住銀副頭取が語る阪神vs.村上ファンド攻防の秘話

(1)「社外取締役の私に途中まで対策をすべて任せた」

村山 治

 経済事件が起きるたびに社外の目、社外取締役の役割の重要性が問われている。5年半前に行われた阪神と阪急との経営統合。「物言う株主」と言われたM&Aコンサルティングの村上世彰氏が阪神電鉄株を大量に買い占めると、阪神側は慌てふためき阪急の軍門に駆け込んだ。村上氏は別のインサイダー取引容疑で東京地検に逮捕された。当時のキーマンで阪神の大物社外取締役だった元住友銀行副頭取の玉井英二氏が統合の舞台裏を語った。

  ▽構成:週刊朝日・山本朋史、朝日新聞・村山 治

  ▽この記事は2012年1月10日発売の週刊朝日に掲載されたものです。

  ▽関連資料:   2009年2月3日の村上ファンド事件控訴審判決(裁判所ウェブサイトへのリンク)

  ▽関連資料:   2007年7月19日の村上ファンド事件一審判決要旨

 

 

玉井 英二(たまい・えいじ)玉井 英二(たまい・えいじ)
 1931年生まれ。54年住友銀行入行。国際企画部長、副頭取など歴任し退社。住友クレジットサービス会長、阪神電鉄取締役などを歴任し、現在は「赤福」会長

 ■阪神電鉄のコーポレートガバナンスを問う

 村上氏と、彼が取得した阪神株をどうするか折衝をしていたときは、私は阪神電鉄の社外取締役でした。4期8年在任し、06年6月29日の株主総会で退任しています。

 世の中の人は、「村上はとんでもない乗っ取り屋で、銭ゲバで、うまいこと逃げた」としか思っていないでしょう。私に言わせればそれは間違いです。彼はその後も陰徳を積んで、NPO団体をサポートして多額の私財を投じています。東日本大震災があったあとも、彼はNPOのなかに紛れ込んで、シンガポールから馳せ参じて炊き出しなどをしている。このままでは誤解されたままだから、話をしたらどうかと勧めました。しかし、まだ表には出たくないと言う。

 彼と同じように、私も浮かばれない面もありました。誤った報道によりマスコミにたたかれたし、あのときに阪神電鉄が私にとった態度は許せません。それで合併劇を通じて、コーポレートガバナンス、会社というものは何だったのかをもう一度ふり返ってみようと思ったのです。

 玉井英二氏といえば、住友銀行副頭取時代にイトマン事件で、あえて磯田一郎会長に捨て身で諌言し銀行を危機から救った著名なバンカーだ。大昭和製紙の経営立て直しなどにも敏腕をふるい、銀行退任後は住友クレジットサービス会長などを務めた。07年からは製造日改ざんなどで問題となった和菓子の「赤福」の立て直しのため会長を務めている。乱世に活躍した経営のプロである。

 村上氏が東京地検特捜部にニッポン放送株のインサイダー取引容疑で逮捕されたのは06年6月。一審は懲役2年の実刑を言い渡されたが、二審では懲役2年執行猶予3年(最高裁で確定)とされた。村上氏に当初インサイダーに該当するという強い認識がなかったことなどを、実刑をさけた理由にあげている。

 

 

 ■前時代的な体質による不幸

 あとから説明しますが、阪神のような企業対応は、大なり小なりほかの会社にも共通して巣くっている前時代的な体

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