入社直後の一番大事な時期に、丁寧に指導
2012年01月31日
日本経営倫理士協会専務理事
千賀 瑛一
■協力企業含め、750人もの新人社員が研修 <東京ガス>
東京ガスの新入社員コンプライアンス研修には、2010年度は754人、2011年度(4~9月)は603人が参加した。本社とライフバル(協力企業)も含めた大型研修となっている。3年目研修、主幹職研修といった階層別の研修の参加人数と比較しても、新入社員研修は参加者が多い。
業務研修などとともに、コンプライアンス研修は行われ、90分が充てられる。同社コンプライアンス部員が講師を務める。テーマは「コンプライアンスとは」「企業を取り巻く環境」などに重点が置かれている。座学中心で、その内容は[1]企業環境の変化とコンプライアンス[2]なぜコンプライアンスが必要か[3]東京ガスグループのコンプライアンス[4]私たちの行動基準[5]コンプライアンス相談窓口――となっている。
特に力点が置かれているのが[2]の「なぜコンプライアンスが必要か」だ。「コンプライアンス=法令順守ではない。コンプライアンスとは法令・社内規則、社会的ルールを守り、人が行うべき正しい道に従って判断し行動するということ。疑問に思ったりおかしいと感じたら、一度立ち止まって考える。コンプライアンスを守ることは、企業を守ることだけでなく、私たち自身を守ることである」と指導している。
[5]ではコンプライアンス相談窓口のルールとして、▽相談者の保護、相談者への不利益取り扱いの禁止、▽原則として相談者が名前を明らかにする、▽誹謗中傷を目的とする通報を行ってはならない――などと説明。コンプライアンス上の問題、疑問、悩みは通常、上司や同僚に相談することになっているが、新人の場合、ためらわれるケースもみられるだけに相談窓口の利用の仕方を、丁寧にガイドしている。
講義の終わりでは、演習として具体的な事例を取り上げ、少人数で議論する方式を採り入れている。例えば、自宅で作業するために会社から資料を持ち出した場合の情報漏えいリスクなどについて議論してもらっている。
東京ガスの北野寿之・コンプライアンス推進室長は「コンプライアンスの基礎を学び、社会人としての意識、責任感を身につけてもらうのが目的。やはり入社直後の一番大事なときに教育・研修するのは効果があると思う。特に東京ガスでは、公益企業として社会の厳しい目で見られていることを自覚してもらっている。社員として個人の行動は法令を守るだけでなく、会社の信用を守るための行動を、と指導している」と話している。
■コンプライアンス経営確立へ創業精神を学ぶ <横河電機>
横河電機では、2011年4月、関連会社含め250人の新入社員がコンプライアンス研修を受けた。一般社員コンプライアンス研修の内容を、新人用に分かりやすくまとめてある。内容は、[1]コンプライアンス経営確立に向けての位置づけ[2]グループ企業行動規範とガイドライン[3]コンプライアンス推進体制とその取り組み――などとなっている。企業倫理本部の担当者が教師役を務める。
[1]の「コンプライアンスとは」については「法順守を核として、ステークホルダーの期待に応えるため、グループの一人ひとりがルールに従って公正公平に業務を遂行すること」と教えている。新人対象ということで、できるだけ具体的なケースを項目ごとに挙げ、問題意識を持ってもらうよう解説している。
例えば「競争」の項では、価格協定、談合入札、リベート、商標特許権侵害などを挙げて説明。さらに踏み込んで談合入札の実際にあった不祥事として名古屋地下鉄ゼネコン問題を取り上げている。「消費者、顧客」の項目では、悪質商法、虚偽販売、有害・欠陥商品などに触れ、ここではパナソニックの石油ストーブ不具合回収などの事例を挙げている。「投資家」の項では、インサイダー取引、損失補てん、粉飾決算など。「従業員」では作業事故、職場災害、過労死、ハラスメントなど。「地域社会」は業務事故、災害、工場閉鎖など。
[2]では、企業理念に始まり行動規範、関連規定などについて説明。また、創業者の故・横河民輔氏の理念と業績について説明。[3]では、不正をしない風土の構築、不正をさせない仕組みの構築という二本柱の構築を強く打ち出している。企業倫理本部では手作り新聞「コンプライアンス・ニュース」(A4版サイズ、原則月刊)を発行しているが、これを新入社員教育の教材にしている。2011年1月27日号では汚職関連防止法案に焦点を当てて解説、注意を喚起する特集を組んでいる。また、同年3月31日号では、企業倫理に関する同社の通報・相談窓口の利用状況を特集、相談内容を分析して解説している。新入社員研修時以前に発行されたニュースでも重要なものは、新人向け教材として活用している。
通報・相談窓口については、新入社員に対し、職場の問題点の早期発見・解決につながるとして、丁寧に説明している。法律問題、健康全般、人事労務、企業倫理などを中心に、対応する社外ネットワークも含めて相談の仕方を説明している。研修の最後では、コンプライアンスを徹底することは社会のため、会社のため、上司・同僚のためだけでなく、自分と大切な家族を守るためでもあることを強調している。
横河電機の佐野廣二・企業倫理本部長は、「新人だけに、学生気分が抜けないところもある。コンプライアンスが身近なところにある重要テーマであるということを理解してもらうよう指導している。企業活動の基本である創業者の精神や事業環境についても説明している。社会の要請であるCSR(企業の社会的責任)を果たしていくため、入社時から社員一人ひとりがコンプライアンス意識をしっかり持たなければならない」と話す。
■教育方法を工夫して、議論を深めてもらう <荏原製作所>
新入社員向けのコンプライアンス教育では、各社ともまず基本をしっかり早期に学んでもらうことを主眼としている。
荏原製作所では、2011年4月、グループ会社を含む総合職の新入社員約100人を対象に、コンプライアンス教育を実施した。
同社では、カード形式による問題解決型の研修を導入して注目されている。ゲームの要素を取り入れた新しいスタイル。受講者全員を少人数グループに分けての討議方式だが、カードを使って議論を進める。解決すべき問題を明らかにし、意見の分岐点に到達したら、イエスかノーの2種類のカードのうちひとつを選択。相手に対しカードを示し、自分の立場を明確にして話し合い、問題解決へ向かっていく方式だ。若年層が対象だけに、座学中心の集団講義だけではなく、教育・浸透の手法にも工夫をしている。新入社員研修に限らず、階層別研修の中で導入している企業もあり、コンプライアンス以外のテーマを設定するケースもある。
コンプライアンス研修というと、とかく固いテーマとして受け止められるだけに、今後は、新人教育はじめ他の企業内研修の中で、より理解されやすい教育手法も導入されていくだろう。
◆ 2012年3月1日、シンポジウム「大型危機と対応力 ―企業の場合、都市の場合」
「大型危機と対応力 ― 企業の場合、都市の場合」をテーマにしたシンポジウムが2012年3月1日に開かれる。
東日本大震災から1年が経過。この間の企業、都市などの取り組みを振り返りながら、各組織の大型危機への対応力についてアプローチする。今回は、ジャーナリスト、都市危機対応担当経験者、企業リスク対応の専門家三者に、それぞれの立場から発言してもらう。NPO法人 日本経営倫理士協会(ACBEE)が主催する。
◎ 開催日時 2012年3月1日(木)13:30~16:40
◎ 会 場 こどもの城 セミナーホール(東京・渋谷)
◎ 参 加 費 一般:10,000円 経営倫理士:8,000円 ACBEE会員:5,000円
◎ 定 員 250人(定員になり次第締め切り)
◎ キーノート・スピーカー
山田 厚史氏(ジャーナリスト)
パネリスト
中村 晶晴氏(第一生命保険公法人部 顧問、元東京都危機管理監)
田中 辰巳氏(リスク・ヘッジ 社長、危機管理コンサルタント)
◎対 象 一般市民、企業関係者
〈経営倫理士とは〉
NPO法人日本経営倫理士協会が主催する資格講座(年間コース)を受講し、所定の試験、論文審査、面接の結果、取得できる。企業不祥事から会社を守るスペシャリストを目指し、経営倫理、コンプライアンス、CSRなど理論から実践研究など幅広く、専門的知識を身につける。これまでの15期(15年間)で、450人の経営倫理士が誕生、各企業で活躍している。
現在、経営倫理士(16期)取得講座の申込みを次の通り受け付けている。
受講スケジュール:2012年5月15日から12月4日まで14回開講。時間はいずれも午後2時から午後4時40分まで。
会場:青山ダイヤモンドビル9F(JR渋谷駅から徒歩8分)
内容:経営倫理、CSR、コンプライアンス等について専門講師から14講座18テーマを学ぶ。
資格取得:期間中2回の論文提出、全講座修了後の筆記テスト、面接試験を受け合格した受講者に経営倫理士資格を授与。
受講料:185,000円(全講座1名、視察バス代、資料代含む、消費税別途)
問い合わせは03-5212-4133へ。E-Mailはinfo@acbee-jp.org
千賀 瑛一(せんが・えいいち)
東京都出身。1959年
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