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震災4日前の水抜き予定が遅れて燃料救う 福島第一原発4号機燃料プール隣の原子炉ウェル

奥山 俊宏

 東京電力福島第一原発の事故で日米両政府が最悪の事態の引き金になると心配した同原発4号機の使用済み核燃料の過熱・崩壊は、震災直前の工事の不手際と、意図しない仕切り壁のずれという二つの偶然もあって救われていたことが分かった。4号機の燃料の冷却に役だった水の相当量は、東日本大震災発生4日前の3月7日に外部に抜き取られる予定だったものの、改修工事の不手際で工程が遅れ、その結果として燃料貯蔵プールのそばに大量に存在しており、意図せざる仕切り壁のずれでできた隙間を通ってプールに流れ込んでいた。原子力安全・保安院の幹部の一人は「何かを人為的にやってそうなったのではなく、たまたまだった」と話している。

  ▽筆者:奥山俊宏

  ▽この記事は2012年3月8日の朝日新聞に掲載された原稿に加筆したものです。

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 昨年3月11日に東日本大震災が発生したとき、4号機は定期点検中で、核燃料は原子炉内にはなく、548体すべてが使用済燃料プールに移されていた。もともとあった燃料をあわせると、4号機プールでは合計1331体の使用済燃料が水中に沈められた状態で保管されており、それら使用済燃料の崩壊熱の発生量は他の号機よりも2倍から12倍も大きかった。こうした状況で、津波に襲われて全ての電源が失われたため、プール水の循環冷却ができなくなり、燃料の崩壊熱で水温が上昇し、蒸発によって水の量が減りつつあった。

 このような中で3月15日午前6時過ぎに4号機の原子炉建屋が爆発して大破した。このため、当時は、何らかの事情で核燃料が気中に露出して高温となり、水素ガスが発生して爆発したのではないかという見方が有力で、東電自身も「使用済燃料プールに貯蔵されている大量の燃料の冷却源がなくなったことから、プールの水位が徐々に下がり、燃料が(水面に)露出して冷却できなかったことから水素が発生して爆発したのではないか」という見方を示したことがあった(4月6日夜の記者会見で原子力・立地本部の松本純一本部長代理)。しかし、実際には、プールの隣にある「原子炉ウェル」という縦穴にあった水が、仕切りの隙間を通ってプールに流れ込み、燃料はほぼ無事だとみられることがその後の東電や政府の調べで分かっている。

 原子炉ウェルは、原子炉圧力容器の上蓋の真上にある縦穴で、使用済燃料プールと隣り合っている。ふだんは原子炉ウェルには水はないが、4号機は一昨年11月30日に11カ月弱の予定で定期点検に入り、東電によると、同年12月3日、原子炉のふたを開けた上で、ウェルに水を満たしたという。その北隣りにある「DSピット」と呼ばれる機器仮置きプールも、原子炉ウェルとの仕切りを外した状態で、同時に水を張ったという。そして、12月5日から10日にかけて、原子炉内の燃料を取り出して、使用済燃料プールに移した。

 この定期点検では、4号機が1978年10月に営業運転を開始してからでは初めて、原子炉心にある「シュラウド」と呼ばれる隔壁(高さ6.8メートル、直径4.3~4.7メートル、重さ35トン)を交換する予定で、日立GEニュークリア・エナジーが元請けとなって12月29日にその作業を始めた。炉内で古いシュラウドを切断した上で、原子炉ウェルを経由して、炉外のDSピットに取り出す作業は、無用の被曝を避けるため、すべて水中で進められた。東電によると、当初のスケジュールでは、取り出しを終えて、3月3日にDSピットと原子炉ウェルの間に仕切りを入れ、3月7日までに原子炉ウェルや圧力容器の水抜きを完了し、その後、ウェル経由で炉内に作業員が入り、5月ごろに新しいシュラウドの据え付けなどの作業を行うはずだった。

 ところが、東電によると、シュラウド切断に使う工具を案内・制御するのに必要な「治具(じぐ)」の寸法が圧力容器のサイズに合わず、これを現場で改造しなければならなくなった。このため、3月11日の時点で、シュラウドの取り出しは終わっておらず、水抜きは3月下旬に17日ほどずれ込む見通しとなっていた。「工期が遅れたことによって原子炉ウェルに水が張られた状況だった」と東電は説明している。

4号機原子炉建屋5階にある原子炉ウェル=2011年6月29日に撮影され、翌30日に東電が公表した写真

 東電によると、4号機の原子炉ウェル(容積680立方メートル)にあった水が、北隣りのDSピット(容積760立方メートル)にあった水とともに、昨年4月下旬にかけて南隣りの使用済燃料プール(容積1425立方メートル)に流れ込んだとみられ、その量は約千立方メートルと見積もられている。もしこの流れ込みがなかった場合、燃料プールの水は1日あたり15度ずつ上昇して3月16日ごろに沸

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