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消費税は一気に20%以上に

消費税は一気に20%以上に

Cyberdyne監査役
Allen & Overy東京外国法事務弁護士事務所 元マネージングパートナー
ケース・ヴェレコープ(Cees Vellekoop)

ケース・ヴェレコープ(Cees Vellekoop)
 Cyberdyne監査役。元Allen & Overy東京外国法事務弁護士事務所managing partner。
 東京都内在住。1956年、オランダ生まれ。
 1981年からロッテルダム、アムステルダム、東京、ニューヨークの法律事務所で弁護士として勤務。国際的な企業の買収と合併を主な仕事にしてきたが、2007年に引退。

 日本では最近、消費税についての議論が延々と続いています。政府の提案は、まず2014年に消費税を8%に、そしてその18カ月後に10%に引き上げる、というものです。野田首相によると、2016年からはもう一度、消費税の議論を最初から始めるとのことです。もちろんそのときに消費税レートを下げる可能性はゼロで、引き上げるしかありません。

 消費税を財政基盤として最もよく使っているのは、私の母国を含むヨーロッパの国々です。そのヨーロッパで最近、いくつかの国が財政緊急事態を避けるために消費税レートを引き上げました。EU(欧州連合)の消費税のレートはそれぞれの国によって異なります。現在、消費税が一番低いのがルクセンブルクの15%、そして一番高いのがハンガリーの27%です. EUの主な国の消費税のレートは例えば19%のドイツと25%のノルウェ-の間です。今、日本の消費税のレートはEUの消費税のレートの1/5から1/4ほどしかありません。

 現在、ほとんどの先進国は財政難の渦に巻き込まれています。その原因はそれぞれの国によって異なりますが根本的な問題は世界中同じです。すなわち、今まで政府はお金を使いすぎて、そのせいで政府の財布はパンク状態になりました。その中で一番ひどい例は日本です。現在の日本の政府は毎年使うお金を半分以上借りています。毎年500万円を稼ぐサラリーマンが毎年1000万円以上を使うのと同じです。サラリーマンの場合だとそういうことは長く続けられないということは誰にでも分かりますが、政府の場合だと誰も、特に政治家は、気にしないようです。なぜでしょう。

 世界中でそれぞれの国の借金を比べる際には、その国の借金をその国の一年の国民総生産で割ります。日本の借金は今、年間の国民総生産の二倍以上ですから、その数字(国民総生産に対する借金の割合)は200%以上ということになります。他の先進国と比べれば、ギリシャを別にして、それはとても高いです。ギリシャの債務は高いといっても日本ほどではありません。日本の財政の状態はもっと悪いのです。ギリシャ以外の欧州で最近話題になった国、例えばポルトガルとイタリアの場合、その数字は大体100%です。それはとても高い数字ですが、それでも日本の半分でしかありません。そして世界の金融市場ではポルトガルとイタリアの財政状態は健全でなくパンク状態に近いとみられています。ご存知のとおりギリシャの財政はもうパンクしました。ギリシャは最近財政の構造改革をしましたが、今でも金融市場はギリシャの将来に全く信頼を置いておらず、その結果、ギリシャでは10年ローンの利子が18%です。

 ところで、日本では今、10年ローンの利子はたった1%でしかありません。ギリシャの払わなければならない利子は財政構造改革があっても18%で、ギリシャより財政状態がひどい日本のそれが1%なのは、なぜでしょうか。その理由はギリシャの政府は借金の約半分を海外から借りているからです。日本の場合は海外からお金をほとんど借りていません。海外から借りている国が国際金融市場で信用を失うと、その国がその国際金融市場で払う利子は急にロケットのように上がります。そうした事態が最近ギリシャで起こりました。そして近い将来、同じ問題がポルトガル、イタリアそしてもう一度ギリシャに起こるかもしれません。

 「日本は海外からほとんどお金を借りていないので心配しなくてもいいじゃないですか」または「このままで続ければいいじゃないですか」と言う人は日本に大勢いると思いますが、それはそんなに簡単ではありません。

 日本が海外からお金を借りていない理由は三つあります。第一に、日本の銀行は、持っているお金の使い道が他にないので日本の国債を買うしかない。第二に、たいていの日本人が貯金を海外に投資しないで日本国内でお金を貯蓄し、そして日本の銀行は、他に使い道がないので、そのお金で日本の国債を買う。第三に、日本には十分お金があるから日本の国債を買うために海外からお金を借りる必要がないということです。

 残念ながら将来このような一見安定しているような状態は絶対続きません。今は嵐の前の静けさです。財政面からみればこれから色々な動きが予想され、それは悪い材料になります。人口が減る、年寄りが増える、産業の空洞化が続く、国際収支が悪くなる。去年、国際収支は30年ぶりにマイナスになりました。これからあっという間に国際収支が毎年マイナスになるかもしれません。そのとき、日本が払わなければならない国債のレートはロケットのように上がり始めます。そんなことになったら日本沈没と同じように救いがありません。そういう状態になったら日本の政府は実際に日本の政治をコントロールする力がなくなり、日本は今のギリシャと同様に国債市場に弄ばれます。

 だからそのような悲惨な状況が起こる前に税制改革をしなければなりません。運良く、日本では他の国と比べると税金が非常に低いので税制を整理できる余地がたくさんあります。特に消費税は非常に低いのでまずそれを徹底的に引き上げなければなりません。今の政府の提案では消費税を3年で10%まで引き上げるということになっていますが、それだけでは全然足りません。その提案が実現しても政府の毎年の出費を賄うためにお金を借りることが必要です。今と比べると、政府の借りるお金が少なくなりますが、政府の収支を全部カバーすることはできません。そのせいで債務がだんだん大きくなります。何も解決しません。解決するためには抜本的な引き上げが必要です。一気に消費税を20~25%に引き上げなければなりません。そうすると毎年少しずつ政府が債務を返済することが出来ます。これを何年か続ければ日本の財政状態が安定します。

 私の提案を支持してくれる人もいるかもしれませんが、次のような批判もあるかもしれません。「日本の経済は非常に弱いので、今、その提案を実現するのは無理です」あるいは「目標として20~25%は正しいかもしれないけれども、一気に上げるのはちょっと無理です」

 まずは消費税を上げるタイミングについてです。今の日本の経済状態は弱いかもしれませんが、日本の政府の財政状態はもっと弱いのです。そして今なにもしないと毎年その財政状態がもっと悪くなります。長くずるずる延期すればするほど、解決するのが段々難しくなる。だから早いのが一番です。段階的に実現するというのも間違いです。言うまでもなく、一気に15~20%の引き上げを実現するのはとても苦しいことです。でも、一気に苦い薬を飲めば毎年苦い薬を何年も飲み続けるより楽です。そして段階的に実現しようとすると毎回次の段階に入る時に政治的な議論がまた最初から始まります。税金を引き上げるのは不人気なので政治家はできればそういうことを避けたいと考えています。例えば、もしそのときに経済が好転していなければ、それを言い訳にして消費税の増税を延期するかもしれません。

 団塊の世代が日本のバブルをたっぷり楽しんでしまいました。また、この赤字財政問題を作った政治家(自民党と民主党)を選びました。今は英語で言えば “pay back time”. 子供と孫のために、ちゃんと責任をとって自分が生きている間にこの問題を解決しなければなりません。

 ケース・ヴェレコープ(Cees Vellekoop)
 元Allen & Overy東京外国法事務弁護士事務所managing partner。
 東京都内在住。1956年、オランダ生まれ。
 1980年、エラスムス大学(ロッテルダム)より法学修士号取得。1981年、エラスムス大学より経営管理学修士号取得。1981年、ロッテルダム地方裁判所及びアムステルダム地方裁判所において弁護士登録(オランダ弁護士資格取得)。2005年、英国イングランド&ウエールズ弁護士資格獲得。1992~95年、2003~2007年、日本における外国法事務弁護士。
 1981~2000年、Loeff Claeys & Verbeke (ベネルクスの法律事務所)、Allen & Overyのロッテルダム、アムステルダム、東京、ニューヨークの事務所で弁護士として勤務。2000~2003年、Allen & Overy アムステルダムの事務所のmanaging partner。2003~2007年、Allen & Overy東京外国法事務弁護士事務所のmanaging partner。国際的な企業の買収と合併を主な仕事にしてきたが、2007年に引退。
 2007年からCyberdyne株式会社監査役。
 1982~84年、`s-Gravenzande (オランダの町)の市会議員。1990~91年、東京で欧州ビジネスマン日本研修プログラム(ETP-European Executive Training Programme)に参加。共著に「オランダ事業進出ハンドブック」(1992年、中央経済社)。