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法律事務所「ブラジル・デスク」の感じる日伯両国お祭り好き事情

福家 靖成

ブラジルと日本 お祭り好きの国民事情

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
弁護士 福家 靖成

福家 靖成(ふけ・やすなり)
 1998年3月、東京大学法学部卒業。司法修習(56期)を経て、2003年10月、弁護士登録(第一東京弁護士会)、当事務所入所。2008年5月、米国University of Pennsylvania Law School (LL.M.)。2009年2月、ニューヨーク州弁護士登録。米国ニューヨークのDavis Polk & Wardwell法律事務所勤務を経て2009年9月、当事務所復帰。2012年1月、当事務所パートナー就任。
 サッカーのワールドカップブラジル大会の開幕が来年6月に迫り、1次リーグでの日本の対戦相手も決まって、日本でもワールドカップ気運がいよいよ盛り上がってきたところである。

 ここ数年、私は弁護士としてブラジル業務に携わっており、我々の事務所においては「ブラジル・デスク」を担当している。正確には、「ブラジル・メキシコ及びその他ラテンアメリカ・デスク」として中南米諸国全般をカバーしているのだが、案件数では圧倒的にブラジル関連が多いので、ブラジル・デスクと通称されている。
 私がブラジル業務に携わる場合、その主な内容は、日本企業の進出または進出済みの日系企業のサポートをすることであり、当然ながら、ブラジル法が問題となることが多い。ブラジルの弁護士資格を持つわけでもない日本法の弁護士がなぜ?と思われる方もいらっしゃるかもしれないが、そこは餅は餅屋ということで、現地の弁護士や法律事務所と必要に応じて協力しつつ、我々の日本法および海外業務における知識・経験・語学力等と、これまでの業務で培ったブラジル法の知識・経験に基づいて、日本のクライアントをサポートするのである。

 多数の日本企業が海外に進出している現在、本稿の読者の中にも、日本の本社から現地のビジネスをコントロールすることの難しさに直面された経験のある方も少なからずいらっしゃることだろうと思う。特にブラジルは、日本との時差が12時間(現在はサマータイムにより11時間)、日本から飛行機の直行便は飛んでおらず、ヨーロッパや米国等を経由して片道約30時間かかる。この地球の真裏にある物理的にも遠い国におけるビジネスを、日本の本社からコントロールするのは容易なことではない。

 しかし、現地や日本で多数のブラジル人と交流し、また情報を得るにつけ、両国の国民性には結構類似点があるのではないかと思えてきた。特に、「お祭り好き」という点において、両国の国民性は共通しているようである。ちなみに、両国のお祭り文化の融合の最たるものと思われる浅草サンバカーニバルは、今年で既に32回目、今年は約49万5000人の観客を集めたそうである(主催者発表)。

 ワールドカップ

 お祭りといえば、冒頭にも触れた、世界最大の祭典、サッカーワールドカップである。
 我が日本代表も連続5回目の出場となり、常連と言っても良いレベルになってきた感がある。ブラジル人の弁護士と食事の場等で話をする時には、ほぼ必ずと言っていいほどサッカーの話題が出て、最近であればワールドカップの話になる。

 他方で、今年の6月には、建設中の競技場周辺で、大規模な反対デモが発生したというニュースがあったことをご記憶されている方もいらっしゃるかもしれない。しかし、ブラジル人がサッカー、そしてその最大のイベントであるワールドカップを嫌いなはずがない。マスコミ報道によれば、公共のバスの値上げ発表に端を発し、多数の競技場の建設に多額の公的資金が投入される一方で交通機関や公共施設の整備は一向に進まないこと、国会議員の汚職問題の捜査が進まないこと、インフレばかりが先行して景気が上向かないこと等への反発が大きかったために、低所得層から中間層までを巻き込む大規模なデモとなったようである。
 競技場の建設も予定通りには進んでいないようだが、この世界最大の祭典に向けて、あと半年間、ブラジルが国を挙げて盛り上がっていくのは必至である。

 オリンピック

 2020年の第32回夏季オリンピックの東京での開催が決まり、それこそ日本中がお祭り騒ぎとなったのは記憶に新しい。言わずもがなだが、その直前の2016年の第31回夏季オリンピックの開催地はリオデジャネイロである。2016年オリンピックの開催地招致合戦の時には、中南米諸国で開催される史上初のオリンピックになるとして、ブラジルが国を挙げてアピールし、東京はその後塵を拝したのである。
 ブラジルというとやはりサッカーのイメージが強いが、それのみならず、バレーボールやバスケットボール、柔道等、世界レベルの強さを誇るオリンピック種目が少なからずあり、2016年リオ・オリンピックもきっと盛り上がることは間違いない。

 選挙

 ブラジルにとって、2014年は、ワールドカップのみならず、選挙の年でもある。
 日本のように投票日の夜に刻一刻と変化する開票速報をテレビ局各局が中継するということはないが、問題は選挙自体の規模にある。
 2014年10月のある1日のうちに、正副の大統領選挙のみならず、上下両院の国会議員、州知事、州議会議員の選挙がすべて一斉に行われることが予定されているのである。日本の衆参同一選挙なんて目ではない。これは偶然ではなく、4年に1度このような「選挙の年」が繰り返されるのである。当然ながら、選挙期間中はブラジルの国中が選挙一色となり、それはもうお祭り騒ぎとのことである。

 カーニバル

 ブラジルのお祭りといえば、リオデジャネイロのカーニバルが有名である。毎年真夏の2月から3月(南半球なので日本とは季節が逆である)に開催され、2014年は3月1日、2日の週末に行われる。派手な衣装と巨大な山車、激しい踊りと大音量の音楽によるパレードが展開されるリオのカーニバルが最も有名だが、実はリオだけではなく、同時期にブラジルの各地で行われる。例えば、サンパウロでもリオと同様のパレードが行われるし、レシッフェではより速いテンポの音楽に乗って巨大な人形が踊り、サルバドールではよりリズムの強いアシェ・ミュージックが演奏される。当然のように、カーニバルの期間前後は公的機関もすべて閉鎖され、ビジネスも事実上ストップする。
 先程触れた浅草のサンバカーニバルも、日本で独自の発展を遂げ、いまやアジア最大のカーニバルだそうである。さすがに日本では官公庁は休みにはならないが、浅草の方々の生来のお祭り好きの性格に、サンバカーニバルという演技者と観衆の双方を巻き込むイベントが合ったのだろうと思う。
 なお、実はブラジルでもすべての国民がカーニバルに参加する訳ではなく、日本の「お盆休み」のような位置付けなので、その間に国内の混雑を避けて長期の海外旅行等を楽しむ人々も多いようである。

 日本文化への理解

 このように見ていくと、「お祭り好き」という観点から、日本とブラジルの国民性には少なからず似通った点があることをご理解いただけるのではないかと思う。
 文化という意味では、ブラジルには、日本国外で最大の日系人コミュニティがあり、サンパウロ州に住む日系人の数は100万人とも言われる。彼らがブラジルに輸入し、発展させてきた日本文化のおかげで、日系人以外のブラジル人にとっても、日本の文化は身近な存在である。特に近年では、健康志向もあって、日本食レストランの数は著しく増えていると聞く。
 私がブラジル人の友人にサンパウロの地元料理のレストランに連れて行ってもらった際には、「kaki」のソースを使った肉料理のメニューがあった。これは何だと友人に聞くと、ブラジルの果物で「kaki」というものがあり、それを使ったソースだという。それは日本の「柿」で、日系移民が持ち込んだものかもしれないよ、と言って、大笑いになったことがある。柿のルーツについては、ポルトガル人が16世紀頃に日本からヨーロッパに持ち帰り、それがアメリカ大陸に渡ったものという説もあるようだが、日本由来であることはほぼ間違いない。
 ブラジルの人々は、日本食、日本の食材、日系人文化等を通じて、日本の文化や日本人に対して非常に親しみを持ってくれているのである。

 海外でのビジネスを展開する上で、お互いの文化を理解することが大切なのは言うまでもないことだが、弁護士業務もまた例外ではない。
 現地の担当者や弁護士のラテン系特有の気まぐれな気質に振り回されることも少なくないのだが、「お祭り好き」と考えれば多少納得できるような気もしてきた。
 私もまた「お祭り好き」人間であるので、この興味深い国と日本の橋渡しをする仕事を楽しみながら続けていきたいと思っている。
 まずは来年6月のワールドカップを現地視察する必要があるだろう。