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年末に考える一年の計と人生五計

中川 裕茂

年末に考える一年の計と人生五計

 

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
弁護士 中川 裕茂

中川 裕茂(なかがわ・ひろしげ)
 1996年3月、京都大学法学部卒。1998年4月、司法修習(50期)を経て弁護士登録。2002年5月、米国University of Illinois at Urbana-Champaign (LL.M.)。シンガポールや中国の法律事務所(King and Wood)での研修を経て、2004年6月、現事務所にて勤務開始。2007年1月、現事務所パートナー就任。2007年12月、現事務所北京オフィス首席代表。
 今年も残すところあと2日となった。毎年この時期になると、自分自身に問いかけることがある。「今年やろうと決めたことはできたか?来年やるべきことは何か?」

人生五計

 中国の朱新仲という宋代の識者がいる。岳飛(中国の英雄)vs秦檜(宋の宰相:悪役)の頃の官吏である。朱新仲も秦檜から迫害を受け、僻地に流されたときに、「人生五計」という教訓を残した。

 生計 ・・・ 人生を健康に、いかに生きていくべきか。

 身計 ・・・ いかに社会に対処していくか、何をもって世に立つか。

 家計 ・・・ いかに夫婦や親子関係を営むか。

 老計 ・・・ いかに年をとるべきか。

 死計 ・・・ いかに死すべきか。

  

 人生において、仕事、家庭、健康、老い、死は多くの人が直面する共通の問題であるが、その重点の置き方や考えを巡らせる時期は違う。私に関して言えば、来年で40歳になるところ、人生を振り返るにはまだ早いが、重点は20代の頃と現在とでは大きく変わったように思われる。昔は10年計画をよく立てたものだ。「計画を立てないのは、失敗する計画を立てているのと同じだ。」という格言に従い、弁護士になりたての頃は、短期のみならず、10年、30年の中長期計画を立てた(その計画の内容は秘密)。しかし、人生の中途半端な中期計画、というより中期的な未来予想図として自分が思い描いてきたことはことごとく外れているようだ。そこで最近の計画はもっぱら1年計画などの短期計画に終始している(長期計画はゆっくりと実行中)。

 1年計画は年末年始に立てている。若い頃は、五計のうち、②身計(社会への対処)に重点を置いていたように思うが、子どもが大きくなるにつれ、①生計(健康)、②家計(親子関係)を考えることも多くなってきた。

 2013年に立てた自分の超短期目標(1年)は、仕事以外のことでは次の目標であった。

(1)  生計:健康な体は仕事の基本。体を鍛え、スポーツを楽しみ、心身ともに健康に。

(2)  家計:子どもには「勉強しなさい」と言わず、態度で示して背中で学ばせる。

 

2013年の短期(年間)目標その1 ~生計(健康)~

 「運動しないことは憂うつになる薬を服用しているのと同じようなもの」という格言がある。「人生にとつて健康は目的ではない。しかし最初の条件である。」と武者小路実篤もいう。

 これまで私の人生では、タバコ・酒、不規則な生活、脂っこいものを深夜に食べる等、体に悪いことを繰り返してきた。既にそのような生活が20年程度も続いているので、今から挽回しようとしても既に遅いが、2013年の短期(年間)目標その1である「生計」に関しては、まずまず達成できた。北京では屋内テニスコートでテニスを共にする仲間やテニスクラブのコーチに恵まれ、20年ぶりに激しくテニスをする機会があった。また、北京マラソンにも初挑戦し、タイムはともかく完走できた。スポーツを通して思うことは、体が健康であると、頭もすっきりし、仕事も私生活も相乗効果でより充実するということである。

 北京では、日本で報道されているとおり、大気汚染が深刻である。最近ひどくなったというよりも、肌感覚としては昔とそれほど変わっていないが、スマートフォンの流行により、毎時間更新される大気汚染指数で現在の大気の状況が分かるようになり、切迫感を増している。ガソリン中の硫黄含有量を、2017年末までに日本や欧州の排ガス規制(ユーロ5)に移行することを中国政府は決めているようであるが、そのための設備投資は数千億円が必要との試算がある一方で、物価高騰を避けたい政府の思惑もあり、改善は遠い先の未来のように思われる。そのような環境の中でも、空気洗浄機を完備した屋内テニスコートでのプレイや、風が吹いて汚染物質がどこかに飛んでいった日に屋外でジョギングをすることで何とか大気汚染を気にせずに、心身を健康に保とうと努力をしている。

2013年の短期(年間)目標その2 ~家計(家族関係)~

 一方、「家計(家族関係)」に関する目標はさんざんである。我が家では2013年5月には第五番目の子どもに恵まれ、ますます騒がしくなった。長男と長女は、現在北京のインターの中学校に通っているが、高校の選択を考える時期に来ており、日本の高校に進学を希望している2人は英検、漢字検定、中国語検定と試験続きの日々を送っている。

 「子どもは親の言うとおりにはならない。親のするとおりになる。」という格言がある。子どもに対しては、言うことも大切だが、親の言うことが実行を伴っていなければ子どもは親の言うことは聞かない。以前、この格言を人から聞き、子どもに対して「勉強しなさい」と言わないことを決めたのに、今、2013年の「家計」の目標など無視して、ついつい「勉強しなさい」と毎日家で連発している自分に気づく。情けない話である。

 そんな折、先般、弊事務所の先輩弁護士のクライアントの社内向けセクハラ・パワハラ講義を聞くことがあった。同弁護士のパワハラに関する以下の説教を、私は深く反省しながら自分のこととして聞いていた。

  •  部下(子ども)に対しては「威嚇」は要らない。「威厳」が必要である。
  •  怒る(諭す)ときは、声のボリュームを半分に、話すスピードを半分にするべし。

 2013年は残念ながら目標達成率50%というところだが、2014年こそは同弁護士の講習に従って、目標達成率100%を目指したい。

2014年の新たな短期(年間)目標 ~身計(社会への対処)~

 最近、今更ながら、池上彰さんの本を何冊か読んでいる。池上さんは言う。「インターネットでニュースを読んでわかった気になっていないか?本当のことは本を読まなければ分からない。」

 以前は本をよく読んでいた人でも、インターネットで情報が手に入りやすくなったこの10年の間に読書量が減ったという人も多いと思われるが、私もその一人である。特に中国と日本を行ったり来たりの多忙な生活の中では、ネット情報は簡単にどこにいても手に入る情報であり、つい頼りがちになる。無意識とは怖いもので、ネット情報を見ていれば、いつの間にか何か理解した気になっている。しかし、本当の深ぼりの分析は、ネット情報を毎日見ることに加えて、本を読まないと心の奥底に入ってこない。特に一年の半分を北京で過ごすようになった6年前からは、読書量が格段に減ったように思うが、あらためて考えるとこれほどもったいないことはない。本をよく買うには買うが、結局持ち運びが大変で、何も読まないまま陳腐化する本が日本の自宅では山積みである。

 仏教法典のカーラーマ・スッタでは、次のように説いている。

  •  人から聞いたという理由だけで信じてはいけない。
  •  多数によって話され、世間で噂になっているという理由だけで信じてはいけない。
  •  ありそうなことだ、長年にわたる風習だという理由で、それが真実であると考えてはならない。
  •  自らの分析や観察を踏まえて、理性と自らの経験によって認められること、他人に対する善や世界全体に対して恩恵をもたらすことを真実であると受け止め、その思いに従って生きよ。

 最近の日中の政治問題は、中国で生活をする日本人や日本で生活をする中国人にとっては全く他人事ではない。これまで例を見ないほどに緊張が高まっている二国間関係(及びそれを取り巻く米国・韓国関係)を、互いに自国の報道のみを見て理解することは危険きわまりない。毎日両国のネットニュースを見ると、考え方のあまりの隔たりの大きさや、表現の過激さに絶句する。インターネットの怖いところで、文章が短く、分析が浅いために、ネットばかり見ていては表層部分の過激な言論しか目に入らない。

 本当の姿を見つめるには本を読むのが一番である。真相を分かっているつもりでも、最近は本を読めておらず、何も理解できていなかった気もする。2014年は、持ち運びを厭わず、時間を見つけて本を読みあさりたいと考えている。

 2014年の年末には、年間の短期目標が何%達成できたと振り返っているだろうか。実はあまり自信がない。