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墓地を巡る お墓から見えてくる歴史、社会の変化、法的な論点

木村 栄介

墓地を巡る

アンダーソン・毛利・友常法律事務所
木村 栄介

 1.墓地を巡る

木村 栄介(きむら・えいすけ)
 2006年3月、早稲田大学法学部卒業。2007年9月、司法修習(60期)を経て弁護士登録(第二東京弁護士会)、当事務所入所。2013年5月、米国Columbia University School of Law (LL.M.)修了。2013年9月から2014年6月まで英ロンドンのTravers Smith法律事務所勤務。2015年4月、ニューヨーク州弁護士登録。
 私は神社仏閣巡りを趣味にしているが、もう一つ密かに趣味として楽しんでいることがある。似たようなものだが、墓地巡りである。都内にも雑司が谷、谷中を含めて無数の墓地があり、墓地巡りはいつでもできる。

 墓地巡りが好きだというと、なんと不気味な趣味をと思われる方がいるかもしれないけれども、興味深い点をあげれば枚挙に暇がない。まず、どのような経緯で墓地が造られたのか、歴史を調べるといつも新しい発見がある。墓石も装飾を施して趣向が凝らされているものがある。また、彫刻されている文字の書体や家紋も千差万別で、それぞれの謂れを知りたくなる。静謐な環境に身をおくことは何より心が安らぐ。賛否両論あるかもしれないが、最近では寺社仏閣巡りや御朱印集めを趣味とする人が増えていると報道されており、やっと時代が追いついてきたと胸を張っている。

 このような趣味を持つに至ったのにも理由がある。私の実家は随分昔から横浜で石材業を営んでいる。庭石、大理石、鉄平石、大谷石、御影石、石に関することであればなんでもござれであるが、その中でも墓石の施工、販売を多く手がけている。幼少のころを思い出すと庭先にお客様の墓石が並んでいた記憶があり、墓石には愛着がある。たまたま私の通っていた幼稚園が寺院により運営されていたことも影響している。寺の境内の墓地を通って本堂へ行き、生徒皆で般若心経を唱えた。このようなことから、無意識に墓地を巡ることが心地よく感じられるのかもしれない。

 2.墓と法律

 ところで、職業柄、墓にはどのような法律が関係するのか考えてみたい。まず日本国憲法20条において信教の自由が保障されている。いかなる宗教を信じようが信じまいが自由である。さらに、墓地、埋葬等に関する法律、宗教法人法が墓に関連する主だった法律であるが、それらに限られない。墓の相続に関しては民法897条に定めがある。また、いわゆる墓荒らしに対する罪等、刑法188条以下にも規定がある。

 墓に関する法律や契約は日常生活において明確に意識されていないことが多いのではないかと思われるが、墓石を石材業者から購入する場合には、墓石の施工、売買に関する契約を締結または合意することになり、民法や消費者契約法が関係することになるであろう。寺院との間では、墓地使用権(永代使用権を含む。)に関する契約、あるいは墓地の管理に関する契約の締結または合意をすることになると思われる。また、各地方や宗派によっては独特の戒律、慣習法や地方公共団体の条例が関わる可能性もある。

 また、墓地の分類として、①寺社の境内に設置されたもの、②事業者によって造成されたもの、③地方公共団体によって造成されたもの、④村落共同体によって維持管理される入会地型墓地といった区分をすることもでき、それぞれ墓地使用権はどのような法的性質を有するのか(債権的な権利なのか、慣習法上の物権的権利なのかなど)、分析が必要になる。

 墓に関する法的紛争も可能性があるものを挙げればきりがない。例えば、葬儀の際に異なる宗派の典礼を用いること、あるいは異なる様式の墓地の設置をすることが墓地使用権者と宗教団体との間で紛争になるようなことが考えられる。

 3.墓にも兄弟姉妹

 墓は兄弟姉妹のようにそれぞれ似ているようで異なる。日本において、墓に使用される石材は、黒御影や白御影が多いが、その他の多様な産地から採掘された石材も使用される。縦長の和型、横広の洋型、芝生に設置される芝生墓地もある。さらに当然のことながら京都や奈良の陵、古墳からエジプトのピラミッドまで、国、時代、宗教によっても墓の形態は変わる。

横浜英連邦戦死者墓地の造成時の様子=筆者所蔵
 海外の墓の形や装飾は面白い。例えば、身近なところで、私の故郷の横浜にはいくつか外国人墓地(山手外国人墓地、根岸外国人墓地、中華義荘および英連邦戦死者墓地)がある。私の祖父は英連邦戦死者墓地の造成に関わったそうで、これらの外国人墓地についても子供のころから親しみがある。

 数年前に米国ニューヨークのロースクールに留学にいくという貴重な機会を得た。ニューヨークのマンハッタンにも墓地はあり、例えばバワリー地区にあるニューヨーク・シティ・マーブル墓地は有名である。米国留学後に英国ロンドンの法律事務所に勤務した際には、ロンドンの北部のハイゲイト墓地に赴いた。そこはカール・マルクスの墓が有名で多くの観光客が集まる。フランスのパリには、ペール・ラシェーズ墓地、モンマルトル墓地、モンパルナス墓地などがあるが、いずれも数多くの著名人の墓があることもあり、観光地となっている。また、イスラム教徒を始めとした宗教では土葬を原則とするものがあり、日本にも都道府県知事の許可を得て造成された土葬の墓地がある。

 今後、日本を終の棲家とする外国人も益々増加すると思われる。宗教や宗派によって異なる様式の墓を宗教団体の墓地や自治体の霊園がどのように受容していくのか非常に興味がある。日本においても外国人の入国管理、収容問題、技能実習生問題等が山積する中で、墓という視点から問題を検討しておく必要もあるのではないだろうか。

 4.墓じまい

 昨今は石材業者や宗教団体に対して「墓じまい」の相談が増えていると聞く。「墓じまい」とは、例えば、相続する者がいないこと、故郷が遠く墓参りや墓の維持管理が難しくなったこと等を理由として墓をつぶして、その区画を運営管理する寺院等に返還することをいう。「墓じまい」が増加しているのは、都市への人口流入に伴う地方の過疎化、そもそも墓を維持管理する人的・経済的余裕がないことその他様々な理由が考えられる。墓を見ても、地方や都市の問題、家族形態の変化が見て取れるのは興味深い。ただ、墓地巡りを嗜好する者からすると墓地が荒廃していくのは寂しい限りである。一方で、墓に関して新たなビジネスも生まれている。一昔前にはペット霊園など考えもつかなかったのではないか。最近では、合祀納骨堂の運営や(法的な問題は別途検討するとして)散骨による葬儀が増えているそうだ。社会の変化に伴って、墓は多様な変化を遂げており、今後も変わり続けるに違いない。

横浜英連邦戦死者墓地の造成時の様子=筆者所蔵
 冒頭申し上げたように墓地巡りから歴史もわかる。本稿を執筆するにあたって、横浜の外国人墓地を久方ぶりに訪ねてみた。横浜の元町近くの山手外国人墓地には、1862年の生麦事件の被害者が眠っている。また、英連邦戦死者墓地において、墓石をひとつひとつ見てまわったところ、先の大戦で亡くなった英国、オーストラリア、インド、ニュージーランド、カナダといった国々の20代の若い兵士たちが多数眠っていることに気がついた。

 5.おしまい

 当初は留学生活のことについて筆をとろうと思ったが、奇を衒って墓について思い浮かぶままに本稿を執筆した次第である。この機会に祖先に心からの祈りをこめて菩提寺(または神社、教会等)に墓参りに行ってみてはいかがであろうか。奇特にも墓地巡りの趣味に興味を抱いてくださった読者がいらっしゃれば望外の喜びである。なお、管理規約等に基づき関係者以外は立入禁止となっている墓地や霊園もあるため、見学される際には管理者に確認されたい。