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タイ企業の事業更生が増勢に 日系企業への影響も

小原 英志

 2014年5月の軍事クーデターに続き、今年10月には国民統合の要とされてきたプミポン国王が死去。タイの政情不安を危惧する日系企業は少なくないようだ。そのタイでいま、事業更生手続の利用が活発となり、日系企業への影響も出ているという。小原英志弁護士がタイの事業更生手続について詳細に解説する。

 

タイのトレンド
 ~タイの経済成長の鈍化を受けたタイにおける事業更生手続の増加と日系企業への影響~

西村あさひ法律事務所
バンコク事務所代表
弁護士 小原英志

小原 英志(おばら・ひでし)
 1998年上智大学法学部卒業、2003年弁護士登録(東京弁護士会)、2008年ミシガン大学ロースクール卒業(LL.M.)、2009年ニューヨーク州弁護士登録、2008年~2009年三菱東京UFJ銀行米州法務室(在ニューヨーク)出向、2011年~2013年タイTilleke & Gibbins出向。2013年7月西村あさひ法律事務所バンコク事務所設立、同事務所代表就任(パートナー弁護士)。
 タイは歴史的にも多くの日系企業が進出してきている国であり、製造業関係をはじめとする各社のアジア統括拠点としての地位も有しているため、タイの経済状況は日本企業に少なからぬインパクトを与えることとなる。首都バンコクでは高層のオフィスビルやコンドミニアムの建設ラッシュが続いており一見すると活況にも思われるものの、2014年の軍事クーデターから軍事政権が続いており政治的な不確定要素が指摘されている他、成長率の鈍化や景気の悪化のニュースも最近は頻繁に見られるところである。直近ではプミポン国王の崩御も報道され、政府が経済への影響を最小限に抑えるよう呼びかけるなどの対応を取ったため現状の企業活動は概ね通常どおりと思われるが、一部には動揺も見られるところである。日系企業もこれらの事象と無縁でいることはできず、タイの日系企業による従業員の大規模なリストラや日系企業のタイからの撤退といった事例も出始めている。

 このような状況の中、この1年ほどのトレンドの1つとして挙げられるのがタイにおける事業更生手続の利用の活発化である。事業更生手続開始の申立てがなされている対象企業の多くはタイ企業だが、大手のタイ企業が事業更生手続に巻き込まれた場合、取引先である日系企業も少なからぬ影響を被ることとなる。また、日系企業自体が事業更生手続の対象会社となるケースも出てきている状況である。

 タイではこれまでに事業更生手続の件数がそれほど積み重なっておらず、事業更生手続は十分に成熟しているとはいえない。裁判所や弁護士であっても事業更生手続に精通しているとは言い難い状況も散見されるところであり、ひとたび事業更生手続がビジネス規模の大きな会社や日系企業と関係の深い会社について申し立てられると、日本本社・タイ子会社を含めて日系企業の中で大きな混乱が見られるのが現状となっている。

 本稿では、可能な範囲でタイの事業更生手続の全体像を解説することとする。

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 1. 事業更生手続の目的
 事業更生手続(business reorganization)は、破産法の90/1条ないし90/90条に規定されており、非公開株式会社と公開株式会社の他、特定の法律に基づき設立された法人(以下総称して「債務者」という。)に適用され、支払能力のない債務者の事業維持と再生を目的としている。
 破産手続では、債務者は債権者全員に分配できるほどの資産を有していないため資産配分の決定も難しく、債務者の信用も著しく失われるが、事業更生手続を用いる場合、破産手続と比較して弁済額が多くなる可能性があり、債務者も事業を継続することができるため、債務者と債権者の双方にとってより有益な解決となり得る。

 2. 事業更生手続の開始
 事業更生手続の開始を申し立てることができる者は主に以下のとおりとされている(破産法90/4条)。

  1.  合計で1,000万バーツ以上の確定した債権額を有する単独または複数の債権者(担保権者であるかにかかわらない(破産法90/4条)。1バーツ=約3.2円、1,000万バーツ=約3,200万円(2016年12月12日現在))
  2.  事業更生を受け得る債務者本人
  3.  債務者の事業を監督する政府当局(タイ銀行、タイ証券取引委員会、保険庁など)

 事業更生を受け得る債務者は、支払不能状態にあり、債務の返済期日にかかわらず単独または複数の債権者に対する確定した債務総額が1,000万バーツ以上ある債務者とされており(破産法90/3条)、上記1.から3.の当事者は、既に同じ債務者に対し破産手続開始の申立てがなされているかにかかわらず裁判所に事業更生手続の開始を申し立てることができる(破産法90/2条)。
 ただし、以下のいずれかの場合、事業更生手続開始の申立ては認められない(破産法90/5条)。

  1.  債務者の財産に対して裁判所が確定的保全処分を命じているとき
  2.  清算手続が完了しているかにかかわらず裁判所または登記官が債務者の法人登記の取消しを命じているか、債務者の解散が登記されているか、その他の理由により債務者が解散しているとき

 事業更生手続開始の申立てに際して提出する申請書には以下のことを明記しなければならない(破産法90/6条)。

  1.  債務者が支払不能であること
  2.  債務者が総額1,000万バーツ以上の債務を負う単独または複数の債権者の氏名と住所
  3.  事業更生の合理的な根拠と見通し
  4.  事業更生計画作成者(plan preparer)の氏名と資格
  5.  事業更生計画作成者の書面による承諾

 事業更生計画作成者は、個人、法人、団体、債権者、または債務者の経営者でもよいとされている(破産法90/6条2項)。
 事業更生手続開始の申立てを受けた裁判所は、直ちに申立ての審理を行わなければならず、これに先立ち、裁判所は審理の予定日を新聞公告などの方法により公示しなければならない(破産法90/9条)。審理において、その申立てが破産法に定める要件を満たしており、事業更生を実行する合理的な理由があり、申立人の誠意に基づき申立てが行われたと裁判所が判断した場合、事業更生の命令が下される(破産法90/10条)。一旦提出した申立ては裁判所の許可がない限り撤回することはできず、事業更生が開始された後は裁判所が撤回を許可することは認められていない(破産法90/8条)。

 3. 自動停止(Automatic Stay)
 裁判所により事業更生手続開始の申立てが受理されてから事業更生計画の履行期間の終了日、事業更生計画が成功裏に遂行された日、裁判所が申立てを却下または事件を処理した日、事業更生の命令を撤回した日、事業更生を取り消した日または債務者の財産の確定的保全処分を命じた日までの間、債権者及び各利害関係者は以下のことを行うことが禁止される(破産法90/12条)。これを「自動停止(automatic stay)」といい債務者に対する保護措置となる。

 ① 債務者が法人である場合に、法人解散を裁判所に請求すること
 ② 債務者が法人である場合に、法人解散を登記すること、またはその他の事由により債務者が解散すること
 ③ 裁判所の許可が得られた場合を除き、政府当局が、債務者の事業に与えられた許認可を剥奪すること、または事業の停止を命じること
 ④ 裁判所による別途の判断が示された場合を除き、裁判所が事業更生計画を承認した日より前に起因する債務について債務者の財産に関する民事訴訟を提起すること、債務者が責任または損害を負う可能性のある紛争を仲裁に託すことまたは破産手続開始の申立てを行うこと
 ⑤ 裁判所による別途の判断が示された場合を除き、裁判所が事業更生計画を承認した日より前に起因する債務の訴訟に勝訴している債権者が債務者の財産を強制執行すること
 ⑥ 裁判所の許可が得られた場合を除き、担保権者が担保権を実行すること
 ⑦ 自ら債務の弁済を執行できる債権者が、債務者の財産を没収、または売却すること
 ⑧ ハイヤーパーチェス契約、売買契約、賃貸契約などの契約により債務者が占有する債務者の事業において重要な財産の所有者が、返却を請求すること、及び当該財産に関する訴訟を提起すること。ただし、裁判所による別途の判断が示された場合や、事業更生が命じられてから2回連続で契約の対価が支払われなかった場合、または重大な契約違反があった場合を除く
 ⑨ 裁判所による別途の判断が示された場合を除き、債務者の事業を継続させるために必要な場合以外に、債務者が財産を譲渡、売却、賃貸すること、または債務を作ること
 ⑩ 事業更生手続開始の申立てを受理した日より前に裁判所が債務者の財産の没収、押収、譲渡・販売禁止の仮処分を命じていた場合、または管財人が暫定的に選任されていた場合、裁判所はその執行を留保することができる
 ⑪ 電気・水道・電話などの公共事業者が債務者への供給を停止すること。ただし、裁判所の許可が得られた場合や、事業更生が命じられてから生じた代金が2回連続で支払われなかった場合を除く

 自動停止により権利の制限を受けている債権者、またはその他の利害関係者は、自動停止による権利の制限が事業更生に必要ではないまたは担保権者の権利を十分に保護できていないと証明できた場合、自己の権利を制限している自動停止について変更または解消を裁判所に請求することができる(破産法90/13条)。
 自動停止により禁止されている訴訟、強制執行に係る時効、または仲裁手続の開始期限が自動停止の解消前に到来する場合または解消した日から6か月以内に到来する場合、その時効または期限は自動停止が解消された日から1年後に到来するものとみなされる。ただし、元々の時効または期限が1年未満であった場合その期間が代わりに適用される(破産法90/15条)。

 4. 事業更生手続
 裁判所が債務者の事業更生を命じた後の手続は以下のとおりである。

 (1) 事業更生計画作成者の選任
 事業更生計画作成者は、申立人の推薦に基づき裁判所が選任する。ただし、債務者または債権者が別の者を推薦するか、申立人の推薦する者が適任でないと裁判所が判断する場合、管財人は債権者集会を招集し事業更生計画作成者を決定しなければならない。また、裁判所が債権者集会の決定に同意しない場合には、管財人は速やかに再度債権者集会を招集し別の事業更生計画作成者を選任する必要がある(破産法90/17条)。事業更生計画作成者は、債務者の事業及び財産を管理する権限だけでなく、債務者の株主としての権利も有することとなる(ただし、配当を受ける権利を除く。)(破産法90/25条)。
 (2) 暫定的経営者
 事業更生計画作成者が選任されるまでの間、裁判所は1名または複数名の暫定的経営者(interim executive)を任命する。暫定的経営者は、事業更生計画作成者が選任されるまでの間、管財人の監督のもと債務者の事業及び財産を管理する(なお、債務者の経営者も暫定的経営者となることができる。)。管財人は、暫定的経営者に対して会計・財務記録などの詳細説明を命じることができる。裁判所が適当と判断した場合、または管財人が申し立てた場合、裁判所は暫定的経営者を解任して新たな暫定的経営者を任命することができる。新たな暫定的経営者が任命されていない間、管財人が代わりに債務者の事業及び財産を管理する権限を有する(破産法90/20条)。
 (3) 債権者による弁済請求
 債権者は、既に民事訴訟において勝訴している債権者であるか、または既に訴訟を提起した債権者であるかにかかわらず、事業更生手続のみにより債務の弁済を受けることができる。弁済請求書は、事業更生計画作成者の選任が公示された日から1か月以内に管財人へ提出される(破産法90/26条)。支払期日に到達している債務か条件付債務であるかを問わず事業更生が命じられる前に債務の原因が発生したものに限定されるが、法律の禁止事項または倫理に反して生じた債務、または強制執行ができない債務は除かれる(破産法90/27条)。債権者が上記の期日までに弁済を請求しない場合、事業更生計画に別段の定めがあるか裁判所が事業更生命令を撤回しない限り、弁済を受ける権利を喪失する(破産法90/61条)。
 弁済を請求する債権者は以下のグループに分けられる(破産法90/42条bis)。

  1.  事業更生手続において弁済を受け得る債務総額の15%以上の担保付債権を有する担保権者1名につき1グループとする
  2.  1.に分類されない担保権者を総じて1グループとする
  3.  担保を有さない債権者のうち、請求権または利益の大部分が一致しているか類似している債権者らをそれぞれ1グループとする
  4.  法律または契約により、他の債権者が全額弁済された場合に限り弁済を受け得る債権者を総じて1グループとする(破産法130条bis)

 同じグループの債権者は同等の権利を有し、同じ扱いを受けるとされている(破産法90/42条ter)。
 破産手続同様、担保権者については、弁済を受けるにあたり、事業更生の弁済請求手続を介さずに担保権を実行する方法と、破産法に定める弁済請求を行う方法のいずれかを選択することができる。
 (4) 事業更生計画
 事業更生計画作成者は、選任の旨が官報に公示された日から3か月以内に管財人へ事業更生計画を提出し、債権者らと債務者にもその写しを送付する(破産法90/43条1項)。ただし、この期日は1回につき1か月、最高で2回まで延長されることが認められている(破産法90/43条2項)。
 事業更生計画には以下の内容を記載することとされている(破産法90/42条)。

  1.  事業更生の理由
  2.  事業更生が命じられた時点における債務者の資産・負債その他債務
  3.  事業更生の原則と方法
  4.  担保の受け戻しと保証人の責任
  5.  事業更生計画実施中における一時的な流動性不足の対処策
  6.  債権債務譲渡の場合の措置
  7.  事業更生計画管理者(plan administrator)の氏名・資格・報酬・書面による承諾
  8.  事業更生計画管理者の選任・罷免
  9.  5年を超えない計画実施期間
  10.  資産や契約上の権利を譲り受けるにあたり、得られる利得を超える債務が伴う場合に、資産や契約上の権利を拒否する旨

 管財人は債権者集会を開催し、事業更生計画を承認するかどうかを決定する(破産法90/44条)。事業更生計画は以下のいずれかの場合に限り承認される(破産法90/46条)。

 (i) 各債権者グループによる特別決議(債権者集会に自らまたは代理人により出席して投票した債権者の過半数且つ総債権額の4分の3以上を占める債権者による賛成(破産法6条))が得られた場合、または
 (ii) 事業更生計画を承認したとみなされる特定の債権者ではない少なくとも1債権者グループによる特別決議が得られ、且つ、各債権者グループの集会において事業更生計画に賛成投票した債権者の総債権額が債権者集会に自らまたは代理人により出席して投票した債権者の総債権額の半分以上を占める場合

 (5) 裁判所による承認
 債権者集会において事業更生計画が承認された場合、更に裁判所による承認を受ける必要があるため、管財人は速やかに債権者集会での決定結果を裁判所へ報告する。裁判所による事業更生計画の検討は管財人の報告を受けてから速やかに実施されるものとされており、管財人は少なくとも3日前までに事業更生計画作成者、債務者及び債権者らに事業更生計画を検討する期日を通知しなければならない(破産法90/56条)。
 以下の要件が満たされていると判断された場合、事業更生計画は承認される(破産法90/58条)。

  1.  上記4.(4)の1.から10.が全て記載されていること
  2.  債務弁済案が、同じ債権者グループにおける債権者の間で不公平ではなく、また、債権者集会における事業更生計画の決議が上記4.(4)(ii)によって可決されていた場合、当該計画における債務弁済案が破産手続に基づく財産の分配の順番と同じであること
  3.  事業更生計画が遂行された場合に債権者の弁済受領額が、裁判所が破産を宣告した場合と比べて下回らないこと

 裁判所が事業更生計画を承認した場合、遅延なくその旨を事業更生計画作成者及び事業更生計画管理者に通知する。また、事業更生計画管理者がその通知を知った時点から、事業更生計画作成者のあらゆる権利は事業更生計画管理者に移行する(破産法90/59条)。事業更生計画管理者は計画の変更や実施期間の延長を申し出ることができる。延長は原則的に最高で2回、1回につき1年まで認められるが、事業更生計画がほぼ完了していることが明らかな場合は、更なる実施期間の延長も認められる(破産法90/63条)。事業更生計画管理者は、定期的に管財人へ計画の実施状況に関する報告書を提出しなければならない(破産法90/66条)。
 なお、事業更生計画の承認は債務者とパートナーシップを組む者、債務者とともに連帯責任を負う者及び債務者の保証人に対しては拘束力を持たない(破産法90/60条2項)。
 裁判所が事業更生計画を承認しない場合、裁判所は債務者に対して破産宣告すべきかを検討する(破産法90/58条3項)。

 5. 債権者を害する行為の取消し
 (1) 債権者を害する行為の取消し
 破産手続と同様、債務者が民商法典に定める詐害行為を行っていた場合、事業更生計画作成者、事業更生計画管理者、または管財人は裁判所に対して当該詐害行為の取消しを請求することができるとされている(破産法90/40条1項)。
 かかる行為が事業更生の申立てが行われた日の前後1年以内に行われた場合、無償で行われた場合または債務者が受け取った対価が相当な価額を下回る場合には、当該法的行為は債権者を害することを知りつつ行われたと推定される(破産法90/40条2項)。
 (2) 特定の債権者に有利となる行為の取消し
 事業更生の申立てが行われた日の前後3か月以内に、特定の債権者を他の債権者よりも有利にすることを目的に、債務者が自らの財産を譲渡した場合、債務者が何らかの行為を行った場合、またはそれらの行為を許容した場合には、事業更生計画作成者、事業更生計画管理者、または管財人は当該行為の取消しを裁判所に請求することができる(破産法90/41条1項)。
 また、上記行為により有利になる債権者が債務者の身内(①債務者の取締役、②債務者の過半数の株式を保有する株主、③債務者の配偶者及び未成年の子供、④債務者や①②③が合わせて30%超の株式を保有している会社など)である場合、裁判所は事業更生の申立てが行われた日の前後1年以内に行われた行為についても取り消すことが可能とされている(破産法90/41条2項)。
 もっとも、事業更生の申立てが行われる前に、第三者が善意で相当な対価をもって取得した権利はかかる取消しにより影響を受けないとされている(破産法90/41条3項)。

 6. 事業更生手続の終了
 事業更生計画で定める期限内に計画の遂行が完了した場合、債務者の経営者、事業更生計画管理者、暫定事業更生計画管理者または管財人が裁判所へ報告し、事業更生手続の終了を申し立てる(破産法90/70条1項)。一方、事業更生計画で定める期限内に計画の遂行が完了しなかった場合、裁判所は証拠資料、管財人・債権者からの報告内容及び債務者による異議申立内容に基づき破産宣告の是非を検討し、破産宣告が妥当と判断する場合は財産の確定的保全処分を命じ、債務者に破産宣告をすべきでないと信じるに足る合理的な根拠のある場合には事業更生手続を終了する(破産法90/70条2項)。事業更生手続が終了した場合、債務者の経営者は事業及び財産の管理を再開することが認められる(破産法90/75条1項)。また、事業更生手続中は債務者の株主については配当を受ける権利を除く株主としての権利が制限されるところ、事業更生手続の終了をもって当該権利が復権する(破産法90/75条2項)。
 事業更生手続の終了をもって、債務者は、既に債権者より申請されていた債務を除き、事業更生手続において弁済を受け得る債務から免除される(破産法90/75条)。なお、事業更生手続の終了は、それまでに事業更生計画作成者、暫定的経営者、事業更生計画管理者、暫定事業更生計画管理者及び管財人が行った行為には影響を与えない(破産法90/76条)。

 7. 日本とタイの倒産法制
 以上、タイの事業更生手続について述べてきたが、タイの事業更生手続は日本の会社更生手続との類似点も多く見られる。例えば、担保権者は原則として担保権の行使ができない点(上記3.⑥)などは日本と同様である。事業更生計画作成者が債務者の経営者でもよいとされているため(上記2.)、DIP(Debtor In Possession)型要素も有しているといえる。もっとも、事業更生計画の作成は事業更生計画作成者が担当し、遂行については事業更生計画管理者が選任されるなど、日本と異なる点も見られる。
 また、今回は触れなかったがタイの破産手続は債務者自身による申立てが認められない(すなわち基本的に自己破産の制度が存在しない。)など日本の制度と大きく異なる部分がある(タイの破産手続は債務者の債務からの解放という観点に乏しく、債権者の債権回収の観点から構築されているという見方もできる。)。
 日本とタイの倒産法制には類似点が多く見られる一方、重要な相違点も存在するため、日本の倒産法制の常識のみでタイの制度を解釈することは難しく、都度専門家への相談が必要といえる。

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 以上、昨今のタ

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